第35話 こころ爽やかに再出発
人間とは調子の良いものだな。
ステータスリセットで周りに当たり散らすほど落ち込んでいた筈なのに、呪いが解除されて経験値が上がり易くなったと知った途端にヤル気が復活した。
誰の事でもない。俺の事だ。まあ、最低の人種とも言う。
あれから皆に平謝りしたのは、今更言うまでも無い事だ。
更に、調子に乗ってマルカに敵をガンガン連れて来させたことも、誰もが簡単に予測できることだろう。
『過ぎた事を言うつもりはないんだ。だけど、颯太は少しメンタルを鍛えて欲しいかな』
うぐっ、返す言葉がない。全く以てその通りなのだから......
『悪かった。今度からは気を付ける』
素直に謝ると、今度は脳内愛人と脳内嫁が先を争うように攻撃してきた。
『そうよ。とても心配してたのに、シカトだし』
『ミイをシカトは構わんが、妾の言う事すら耳にしないのは感心できないぞ』
『ちょっと、私は構わないってどういう事よ』
『お前は少し煩いのだ』
初めは俺を詰る予定だったようだが、二人が脳内で喧嘩を始めてしまった。
しかし、俺に取っては、脳内で喧嘩される方が辛いのだが......
「それはそうと、あたしは沢山頑張ったんだから、今日の夕食はデザートも付けてね」
「ああ、悪いなマルカ。とっても助かったぞ。デザートも好きな物を言え」
脳内での内輪揉めを知らん振りしていると、マルカがお強請りをしてくる。
当然、彼女は一番の功労者なので、言う通りにして遣るつもりだ。
「あぎゃ!あぎゃ!(ウチも!ウチも!)」
「ああ、分った、分かった。お前も沢山食べたいんだな」
「あんぎゃ~~~!(やった~~)」
キララのお蔭でもあるので、当然ながら彼女の要望も快く受け入れる。
『ところで、レベルは幾つになったんだい?』
満足気なキララを背負った俺に、カオルは軽い調子で聞いてくる。
『ああ、三十四になったぞ』
俺もその質問に軽く返すのだが、彼女は少し掘り下げてくる。
『それで、ステータスはどんな感じだい?』
そう、ステータスなのだが、予想以上に良い結果となっている。
内容は次の通りだ。
――――――――――――――――――
名前:高橋 颯太(タカハシ ソウタ)
種族:人間
年齢:20歳
称号:超絶変態
――――――――――――――――――
LV:34
HP:4209/4209
MP:1161/1161
――――――――――――――――――
STR:328/1900/73
VIT:245/1410/48
AGI:296/1800/64
DEX:304/1500/107
INT:96/1200/34
LUK:10/1200/44
――――――――――――――――――
EX:82,963/684,326,451
――――――――――――――――――
PT:0
SP:27
――――――――――――――――――
<スキル>
回復5 MP10/HP50×133
解毒5 MP10/100%
解呪5 MP10/100%
火魔法5 MP10/MATK100×133
土魔法5 MP10/MATK100×133
水魔法5 MP10/MATK100×133
風魔法5 MP10/MATK100×133
雷撃5 MP20/MATK200×133
炎竜巻5 MP20/MATK200×133
剣攻撃強化5 ATK+100%
斬撃5 MP10/ATK+100%
超斬撃5 MP60/ATK+600%
ヒート5 MP10/+100%
ハイヒート5 MP30/+200%
マックスヒート5 MP50/+300%※10min
HP回復向上5
SP回復向上5
保護強化5 MP20/+100
――――――――――――――――――
~以下省略~
やはり、何といってもHPとSPが多い事が嬉しい。
と言っても、カオルの指輪が無かったら十分の一だけどな。
それに、カオルの指輪で取得ポイントが十倍なのも大助かりだ。
PTにしろ、SPにしろ、指輪のお蔭で十倍だから、レベル三十四でも何とかこの階層で戦えるようになった。
というのも、リセット前よりステータスは低いが、剣スキルを取ったお蔭で、剣の攻撃に関しては、前よりも強力になっているからだ。
まあ、それもこれも皆の協力があってこそだけどな。
最後に、必要経験値なんだが、次のレベルアップまでに約七億だが、やはり指輪の千倍効果が絶大で、この階層のモンスターだと二十匹も倒せばレベルアップできるのだ。
とは言っても、この階層のモンスターはかなり強いので、二十匹倒すのも結構骨だけどな。
そんな話をカオルにして遣ると、続けてミイが不満を述べてきた。
『ソウタはエルばっかり使って、ちっとも私を呼んでくれないんだよね』
あ~~、こりゃ、完全に拗ねてるわ。
でも、この面子だと、どうしても前衛で戦う必要があるんだよな~。
だから、必然的にエルを呼び出す事になってしまう。
『妾の方が役に立つからな』
『もう、エルは煩い!』
という感じで、再び脳内で喧嘩を始める嫁と愛人。
だが、そこでカオルが助け船を出す。
『マルカは弓を使えるのかい?』
「ん?あたしは弓も得意だよ」
カオルの問いに、マルカはニコニコと答えてくる。
それを聞いたカオルが頷きながら提案する。
『だったら、マルカが指輪をすれば良いと思うよ』
『嫌よ!』
だが、ミイは即答で拒否してきた。
俺としては、脳内の喧嘩が減るので大賛成なんだが......
だから、俺はミイにその理由を尋ねる事にする。
『なんで嫌なんだ?』
『だって、マルカって野菜をモリモリ食べるから......』
ミイから返ってきた理由は、糞ゴミのような内容だった。
それを聞いた俺は、如何でも良い理由だったので、即座に指輪を外してマルカに渡す。
『ぎゃ~~~。ソウタのバカ~~~~!』
『クククッ』
その行動に、ミイは俺を罵倒し、エルはクスクスと笑っている。
だが、マルカはその指輪を受け取ると、嬉しそうに指に填める。
「ミイ姉様、よろしくお願いしますね。食事の時にはお兄ちゃんに戻すからね」
『えっ......それならいいわよ』
『マルカ、その指輪をくれてやる。一生外すなよ』
『エルは煩いの!』
マルカの発言で、ミイはあっさりと承諾してしまったのだが、エルとしてはそれが気に入らなかったのだろう。即座に戻って来るな発言をしていた。
ん~、ミイとエルが離れても、念話の被害範囲が広がっただけかもしれんな。
俺はそんな感想を持ちながら、歩みを進める事にしたのだった。
リセット事件から一週間の時が流れた。
一時は腐ったりもしたが、呪いが解けた事を知ると、ゲンキンな俺は調子を取り戻してレベル上げに精を出した。
しかし、やはりダンジョンでの潜行は遅れ気味だ。
以前のペースとは打って変わって、精々が三分の一といったところだろうか。
そんな俺達は、現在のところ地下七十五階に来ている。
「マックスヒート!加速!斬撃!」
ガーゴイルの様な悪魔を俺が持つ大剣の一撃で両断する。
『ソータ、後ろだ』
後ろから攻撃してくる敵を察知したエルが即座に知らせて来る。
その警告を聞いた俺は瞬時に立ち位置を変え、その敵を向かい討とうとするが、敵は前のめりに倒れてくる。
直ぐに、距離を取ってそのモンスターを確認すると、背後に三本の矢が刺さっている。
どうやら、マルカが弓となったミイで射貫いたのだろう。
一歩間違えれば俺に当たるのだが、躊躇せずに矢を放てるという事は、余程の実力を持っているか、俺の事を軽視しているかのどちらかだろう。
そう考えた俺は少し寒気を覚えながら、後者で無い事を切に願った。
レベルの方も順調に上がり、現在はレベル四十になっているのだが、流石に上がり方が鈍ってきた。
ステータスに関しては次の通りだ。
――――――――――――――――――
LV:40
HP:8308/8308
MP:1998/2057
――――――――――――――――――
STR:511/2900/85
VIT:362/1410/60
AGI:381/2800/70
DEX:402/2090/125
INT:126/1600/40
LUK:10/1200/50
――――――――――――――――――
EX:2,453,247/16,517,976,927
――――――――――――――――――
カオルの指輪のお蔭でポイントが沢山はいるので、割振り値が結構な状態となっているのだが、やはり基礎値は短期間では上がらないようだ。
まあ、俺の基礎体力だからな。それは仕方ないだろう。
あと、スキルに関しては、攻撃系やその補助系を一通り取得したので、暫くはポイントを溜める事にした。
『あと、どのくらいで元に戻りそうなんだい?』
戦闘が終了したところで、カオルから声が掛かる。
『ステータスで言うなら、二週間以上は必要だろうな。ただ、スキルを含めた強さで言うと、もう以前と変わらないと思うぞ。いや、HPとSPがなかり増えたし、前よりも強くなっているかもな』
その言葉を聞いたカオルは黙って頷いているが、彼女の考える強さは如何程のものなのだろうか。
『カオル、糞神と戦うのには、一体どれくらいまでレベルを上げればいいんだ?』
カオルは少し黙考すると、恐ろしい発言をしてきた。
『指輪の効果があるからね~。レベル八十くらいで戦えるようになるんじゃないかな~』
ちょっとまて~~~! レベル八十って......
これまでのレベルと必要経験値から予測すると、レベル八十の必要経験値って天文学的な数字になるんだが......
『なあ、この世界で強い奴って、レベルどれくらいなんだ?』
必要経験値とレベルの関係を考えていて、ふと感じた事をカオルに尋ねてみた。
だって、レベル四十一の必要経験値でも普通なら異常だぞ?
俺だって、カオルの指輪が無ければ、こんなに簡単にレベル上げなんて出来ないし、こんなに簡単に強くなったりしないからな。
それを考えると、こんなチートアイテムを持っていない一般人ってどうなんだろうと思ったのだ。
『ん~、一般人ならレベル二十でもかなり強いと言われる部類だよ。それに一般人の最高レベルは五十くらいだね』
そりゃ~、俺が人と戦うと一方的な戦闘になる訳だ。
だが、少し気になる事がある。
『カオル、一般人ってどういう事だ?』
『ああ、使徒じゃないということさ』
なるほど、カオルから見れば、使徒と普通の人の差しかないんだな。
『使徒だと如何なんだ?』
『戦闘型の最強使徒だと、レベル百くらいかな~~』
ん~、レベル百と言われてもピンとこないな。
それって、一体どれくらいなのだろうか。
気が利くカオルは、首を傾げる俺の気持ちを察したのだろう。
『まあ、レベルで言われてもピンとこないよね。そうだね~~、HP八十万くらいかな。だから十倍の指輪を付けた君がレベル八十になったくらいの強さだよ。まあ、奴等も糞神の恩恵を受けてるから、レベルだけでは力を判断できないんだけどね』
いや、分ったよ。桁違いだってことが......
因みに、今の上昇率で計算すると、レベル八十の俺はHPが約七十七万で、SPが約九万三千という桁外れの値になる。オマケに獲得するポイントは約二万八千ポイントだ。しかし、予想される必要経験値は兆を超えて
目眩を感じながらも、大剣を杖代わりにして踏み止まる。
『こら、妾を杖代わりにするな』
『あ、悪い悪い』
エルが脳内で怒っているが、現状の俺はそれ処では無い。
そうか、だから俺がリセットされた時も大したことじゃないと言い切ったんだな。
確かに、この先を考えると、これまでの経験値なんて微々たるものだ。
そう、リセットなんて何の絶望でも無かった。
どうやら、現在の俺は地獄の入口に立ったばかりだったようだ。
結局、その事を思い知らされた俺は、再び虚ろな表情となって塞ぎ込み、みんなに励まされて再出発する事になるのだった。
空間や地を揺るがすような雄叫び。
その咆哮は、空気を震わせ俺の肌に伝わってくる。
だが、それよりも、この獣自体の脅威が俺を揺さぶる。
その一歩は地を揺らし、その一撃は岩をも粉砕する。
そう、そこに居るのは地下八十階の階層ボスだ。
その見た目はライオンだが、身体の大きさが本来のライオンと桁違いだ。
俺達を見下ろすその体長は、恐らく五メートル以上はあるだろう。
奴の脚一本で、あまり背の高くないマルカと同じくらいのサイズだ。
「お兄ちゃん、私は弓で援護するからね」
「ああ、頼む」
援護なのか安全確保なのかは知らないが、マルカは後方からの支援をするつもりのようだ。
カオルに至っては、マルカの遙か後方で呑気に座って顔を洗っていたりする。
あの野郎、恐ろしく他人事だよな......
『血が
カオルの態度に、心中で罵り声を上げていると、血気盛んなエルが急かしてくる。
だが、その発言を責めるかのように、ミイからの苦言が届く。
『エル、あなたがぽっきり折れても構わないけど、ソウタのがぽっきり折れたら困るんだから、あまり
何が折れたら困るんだ? まさか、ナニの事じゃないよな?
「あんぎゃ~~!あんぎゃ~~!(いけ~~!いけ~~!)」
ミイの発言に冷たい汗を流していると、背中のキララが手を振って叫ぶ。
どうやら、残念な事にキララはエルと同じ種類らしい。
いや、これから俺が清く美しい女性に育て上げるんだ。
「やっ~~!喰らえ~~~!」
後方からマルカの声と共に、鋭い風切り音が耳に届く。
その音を発する高速の矢は、ボスモンスターに突き刺さるべく、研ぎ澄まされた一撃となって向かっていくが、奴の右足の一振りで叩き折られる。
だが、その動きで出来た隙を見逃したりはしない。
「雷よ!マックスヒート!加速!」
奴が右足の一振りした処を雷魔法で攻撃し、即座に最上級のステータス上昇スキルで強化した俺は、加速能力を使って奴へと突っ込む。
当然だが、背中にはキララを負ぶったままだ。
俺が雷魔法を放ったタイミングは、矢を砕いた奴の右足が上がっている状態だ。
その所為で、即座に避けようとしていたが、上手く避けれなかったようで、雷を少なからず喰らったようだった。
そんな奴に、高速の踏み込みで大剣を撃ち込む。
だが、流石にボスだけあって、その攻撃は躱されてしまった。
しかし、そこに再び矢が飛来する。
それを察した俺は、左手を突き出し次の魔法を撃ち出す。
「炎よ!加速!」
どうも、アイテム能力の五秒というのは、このレベルになると使い勝手が悪いな~。
そんな不満を感じながらも、矢と魔法攻撃を喰らったボスに斬り掛かった処で、奴が咆哮を轟かせる。
すると、地面から鋭い石の棘が飛び出してくる。
ちっ、地槍か! 流石はボスだ。魔法まで使いやがる。
「跳躍!」
貫かれる前に跳躍で回避すると、今度は氷の槍が飛んでくる。
「くそっ、一体どれだけの魔法が使えるんだ?」
そこで初めて気付いたのは、ライオンの尻尾が蛇となり、背中からは雄ヤギが生えてきたことだ。
「なにっ、唯のでかいライオンじゃないんだな」
『キマイラだね』
俺の疑問に、カオルが助言してくるけど、奴は呑気に寝っ転がっていた......
くそっ、あいつ、やる気があるのか? まあいい、あいつに戦って貰うつもりは無いのだから。でも、怪我をしても知らないからな。
悪態を吐きつつも、キマイラを倒す算段をするのだが、俺は己の知能の低さに絶望するだけだった。
『颯太に頭脳労働を期待してないよ。特に弱点という程のものはないから、地味に削って行くしかないね』
くそっ、カオルめ! 俺はバカにした割には、なんの役にも立ってないじゃないか。
しゃ~ね~、ここは根比べといくとするか。
『エル、長期戦になるが、途中で気分が悪くなったとか言うなよ』
『む、む、無論だ』
持久力に欠けるエルに釘を刺すが、怪しい態度で応答してくる。
とても不安に思いながらも、俺は両手でエルの宿った大剣を握り締める。
「さ~、気合を入れて倒すぜ!」
「あんぎゃ~~~~~!」
俺の声にキララが大喜びで答えてくる。
彼女のその元気の良さに、活気を分けて貰う事にするのだが、俺の背中をおしっこで濡らすのは止めて欲しいと思うのだった。
雄ヤギを背負ったライオンとキララを背負った俺の戦いは、長期戦になりつつも俺の方に軍配が上がった。
階層ボスであるキマイラが、悲しく響き渡る雄叫びを発すると、その巨大な身体を霧散させる。
『お疲れさま。よく頑張ったね』
長期戦の疲れに膝を突いて息を切る俺に、カオルが労いの言葉を掛けてくる。
「頑張り過ぎてお腹空いちゃった」
弓と魔法で後ろから支援を頑張ってくれたマルカも駆け足で近寄って来る。
確かにマルカの言う通り、長い時間の戦いで神経をすり減らした所為か、お腹が空いたような気がしてくる。
だが、その前に遣る事があるのだ。
というのも、今の階層ボス戦でレベルが上がったのだよ。
結局、八十階までの五階層とボス戦で、レベルが四十四になったのだ。
サクサクっとステータスの更新を先に済ませてしまおう。
――――――――――――――――――
LV:44
HP:13073/13073
MP:2015/3012
――――――――――――――――――
STR:724/3900/93
VIT:482/2410/68
AGI:512/2800/74
DEX:586/2150/137
INT:264/1600/44
LUK:10/1200/54
――――――――――――――――――
EX:2,225,643/137,959,795,090
――――――――――――――――――
リセット前と比べて、基礎値と割り当て値が正反対な状況となっているが、かなり元の通りとなったと言えるだろう。
オマケにスキルは、リセット前よりも向上しているので、かなり成長したような気がする。
リフレッシュした気持ちで、今夜の休息地を決めようとしたのだが、そこで想定外の者達が現れた。
「やっと、追いついたぞ。今日こそは討滅して遣る」
そんな台詞と共に、四人の仲間を連れた男が剣を抜いて構えるのだった。
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