第14話 囲碁を学ぶということ

 学校に着き、クラスメイトと挨拶を交わした後に、始業のベルが鳴り、授業が開始される。囲碁専攻のコースとはいえ、中学校は義務教育の期間であり、学園も文武両道をモットーとする校風から、普通の授業が月曜日から土曜日までしっかりとカリキュラムが組まれている。


 夏実は授業を受けながら、前の学校と進み具合に違いに四苦八苦する。もともと授業が得意ではないが、囲碁の勉強をもっと出来ると思っていただけに、期待が外れ、授業に身が入らない。


 担任である香村は、理科の授業を受け持っていたが、うとうとしていた夏実に向かって、手にしていたノートで軽く頭をはたく。


「転入早々に居眠りとは感心しないな。昔のマンガみたいに廊下に立っていたいか?」香村の言葉に、教室内で軽く笑い声が上がる。


「頑張ります……」夏実は頼りなさげに言う。


 授業は平日、六時限目まであり、授業の後は夕礼や掃除となる。全部が終わるころには十五時過ぎになり、そこから部活動や個人の時間になるが、寄宿舎の門限が一部の運動系のコースに入っている学生を除き、中学生は十八時と決まっているため、それまでには帰らなくてはいけない。


 囲碁専攻の生徒たちは、放課後こうしなくてはいけない、という決まりはないが対局室に集まって自主的に勉強をしている生徒も多い。


 夏実と優子も対局室に入って、囲碁を打つ。


「沙也加先輩、いないね」夏実が部屋を見渡して優子に話しかける。


「普段は姿を出すことはあんまりないかな。ここでの勉強も全員がしているわけでもないし」


「せっかく来ているのに、打たないなんてもったいないね」


「勉強の仕方は人それぞれだから。一人で棋譜を並べたり、碁会所に行ったり、インターネットで対戦する人も多いかな」


「はえー、色々あるんだね」


「色々って、夏実ちゃんはどうやって勉強していたの?」


「あたしはおじいちゃんと打つことが多かったよ、インターネット何てのも、こっちに来るときに連絡が取れるようにって、スマホを持たされてから初めて使ったし」


「そうなんだ、知ってると色々便利だし、寄宿舎にもパソコンがあるから後で教えてあげるね」


 一昔前であればプロになるためには、弟子入りをして師匠の家で共に暮らしながら腕を磨いていくというのが一般的だったが、囲碁に限らず時代の流れからか、そういった師弟関係を築くことはほとんどなくなっていた。


 技術というものが個人とは不可分な切り離せないものではなく、体系化してマニュアル化し、多くの人が使いこなせるように学校と行った教育機関での養成を主とするのが、戦後以来の教育の在り方になっている。


 けれども、一定の水準以上に達していればよい職業であればその方式でもうまくいくのだが、囲碁のプロに必要な条件は同世代と比べての相対的な強さであり、横並びで同じ教育を受けていれば何とかなるというものではなかった。


 他と比べてどれだけ抜きんでることができるか、それは各人の素質をいかに見極め、独自に伸ばしていくことが大事になる。

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