第6話 対話が始まる
開幕は、互いに碁盤の四つの角をお互いに二つずつ取り合う形になる。ここまでの進行は穏やかな形で進んできたが、本格的な勝負はここから始まる。
その次の一手、優子は右上スミに置いた石から、自分の陣地を広げるような形で碁盤の上辺に石を置く。
角の次に陣地を作りやすいのは、碁盤の外側部分にあたる辺の場所になる。角と角を繋げるようなこの辺に向かって、進出しよう、進出させまいと互いの構想がぶつかり合う場所になる。
囲碁には性格が出ると、夏実は思う。相手の石にどんどんぶつかっていく荒っぽい、ケンカのような囲碁が大好きな人、自分の陣地を確実に増やしていく計算好きな人、定石にとらわれないような意外な手を打ってくる人、いろんな人がいるのだから楽しいのだと。
自分はどんな手を打とうか、それが相手にはどう見えるのだろうか。緊張するし、とてもワクワクする。どんな言葉よりも、どんな手を打つかがその人の性格をよく表しているような気さえする。もっと、あなたの声を聞かせて欲しい。
夏実は、優子が置いた石の近くに自分の石を置く。相手の進出を抑えながら、そのまま自分の陣地を作ろうという手だ。それに対して、相手がどう出るか様子を伺う。
優子は置かれた石に対して警戒しながらも、右側の辺へと石を置く。右上に広大な陣地を築こうとする構えだ。
それに対する夏実の選択肢はたくさんあった。相手に陣地を築かせないために深く切り込んでいくか、対抗して自分も大きな陣地を築くか、相手に陣地を築かせながらも封鎖して、中央に大きな陣地を作る、という手もある。
思考の分岐が始まる。無数にも思える選択肢の中、囲碁をプレイする人たちは自分の経験と直感を頼りに、盤上に模様を描いていく。
未だかつて誰も、囲碁の正解を見つけたことなんてない。数多のプレイヤーたちが人生を賭け、膨大な量の対局と研究の蓄積があり、それでもなお答えを見つけられないでいる。何を打てばよいのかが決まっていないからこそ、人は囲碁を打ち続けるのかもしれない。
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