第4話 校内案内
「それじゃ、気をつけて帰れよ」香村先生の声に合わせるように、授業終了のチャイムが鳴る。日直の号令に続いて生徒たちも挨拶をする。
転入初日の授業が全部終わった。とっても緊張したが、どうにかうまくやっていけそうだと夏実は思った。
教室では早々に出ていく人や、残って仲のよい友達と雑談をしようと集まる人、ノートを広げながら勉強の復習をする人など様々だった。夏実は辺りの様子を伺いながら、一人の相手を捜す。
ゆっくりとノートや教科書を片づけながら、帰り支度をしている優子の姿を見つける。近寄って行って、夏実は声をかける。
「ねえ優子ちゃん、頼みごとがあるんだけど」
「あ、夏実ちゃん。頼み事って?」
「学校の中、案内してもらえないかな? どこに何があるのか知っておきたくて」
「うん、いいよ。私もそうしようと思っていたんだ」優子が笑顔を見せながらうなずく。
ここリンドウ女学園では、中・高と一貫教育の体制が整っており、一つの敷地内にその全ての学校がそろっていた。けれども、全ての生徒が一貫教育をしているわけではなく、高校から途中編入してくる生徒もいる。優子も二ヶ月前の四月に中学に入学したばかりだと告げた。
そんな広大な敷地の中を、二人で並んで歩く。
「体育館が二つもあるなんて、すごいねえ」夏実は立ち並ぶ大きな建物を見ながら、驚嘆の声を上げる。
「まだ慣れないから、時々使う体育館を間違えそうで怖いけれど」優子が苦笑しながら応える。それぞれの体育館に立派な設備が整っており、放課後になった今では部活動を始めている生徒たちの声が聞こえる。
バスケットボールが弾む音や、異性のよい掛け声が聞こえてきて、前の学校とはずいぶん違うな、と夏実は思った。
「ねえ、囲碁はどこでやっているのかな?」夏実は一番気になっていたことを尋ねる。早く遊びたくてたまらない、子犬のような夏実の様子に優子が思わず笑い声をあげる。
「もー、なんで笑うのさ」頬をふくらませながら、冗談めかして夏実が抗議する。
「ごめんなさい、朝から囲碁のことばっかりで本当に好きなんだなぁ、って」
「いいじゃん、前はずっとおじいちゃんだけが相手だったんだし」
「へえ、おじいさんに囲碁を教わったんですか。私もお父さんに——」優子が言葉を話している途中で夏実の変化に気づき、言葉を詰まらせる。まるで話してはいけない何かを口にしたように、表情が凍り付いていた。
「あの……、夏実ちゃん?」優子がおそるおそる声をかける。夏実が夢から覚めたように、ハッとして優子の方を向く。
「ごめんごめん、ついボーッとしちゃって。さ、早く行こうよ」ぎこちなく笑顔を作って、話題を逸らす。優子もそれ以上追求することもなく、次の場所へと移動を始める。
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