第17話、扉は開かれた

 薄暗い室内・・・

 天井は高く、吹き抜けの3階くらいはありそうだ。 様々な、通信機器らしきものが配置され、点灯しているランプが星のようである。 中央に大きなタワーのような構造物が設置されており、その高さは、天井近くまで達していた。 無数の配線が血管のように張り巡らされており、その多くは、側面の壁にある機器に接続されている。

 リベラが、1歩、足を室内に踏み入れた。 その後ろから、中をのぞき込んだリックが呟いた。

「 ・・何て、でかいホストコンピュータだ・・! 」

「 ここまでは、セキュリティーは無いようです。 中尉、どうぞ・・ しかし、私の陰からは、出ないようにして下さい。 油断なりません・・! 」

 リベラに続き、室内に入るリック。

 後に続くマックの陰から室内をのぞき込んだペレスが、呟くように言った。

「 どれが、どれだか・・ 分かるのか? リック 」

 正面にそそり立つ、タワーのような構造物・・ それを、じっと見据えながら、リックが答える。

「 おそらく・・ 真正面のタワーが、メインホストだ・・! コントロールパネルらしきものがある。 アクセスには、またパスワードの解析が必要だな・・ これは、一筋縄では、いきそうも無いぞ・・! 」

「 フッ飛ばしちゃいましょう! 曹長! 」

 ベラルスが言った。

 しかし、ペレスは室内を見上げながら、慎重な表情で答えた。

「 ・・手を出すと・・ 何か・・ とんでもないコトに、なりそうな気がせんか・・? 」

 リックが言った。

「 正解だな、曹長・・! 右上の、束になっている配線、見えるか? 」

 室内をのぞき込む、ペレス。

「 ・・ああ・・ 見える。 壁に、つながってるな・・ あの、飛び出た出っ張りに、つながっているようだが・・ ナンだ? あの出っ張りは 」

「 超重磁力爆弾の、弾頭だ・・! しかも、3つある 」

「 ・・・! 」

 つまり、メインホストを破壊すれば、あの、地球をガレキと砂漠に変えた超重磁力爆弾が、再び作動するらしい。 しかも、3つ・・・! このライトポリスは、跡形も無く吹き飛び、直径100キロくらいの、巨大なクレーターが出来る事だろう。 おそらく、この基地に配備してある、他の弾道弾にも連動していると思われる。 そうなれば、間違い無く、人類の破滅だ・・!

「 ちきしょうっ・・! オマケ付きかよ! どうすれば、良いんだっ・・? 」

 デンバーが叫ぶ。 ベラルスも言った。

「 せっかく・・ せっかく、ここまで来たのに・・! 景気良く、フッ飛ばせないのかよォっ・・! 」

 リックは言った。

「 メインホストに侵入し、CPUの指令系統回路を、遮断するしかないだろう・・! 」

 その時、ポーンという音が聞こえ、壁に設置してあったパネルに、赤いランプが点灯した。

 リベラが叫ぶ。

「 時限セキュリティーだッ・・! 中尉! 私の陰に、隠れて下さいっ・・! 」

 入室した者が、敵か味方か、コンピュータが赤外線などを使って観察・分析をし、結果、排除すべき者と認知した場合、攻撃をするインテリジェンス・セキュリティーだ。 次の瞬間、赤いビーム光線が、壁から発射された。 超高音のビームライフルである。 リベラの、アーマーの陰に隠れるリック。

 カンッ! キイーン! と、火花を散らしながら、ビームライフルの光線が、リベラのアーマーに着弾し、跳ねた。

 リックが言った。

「 リベラ! 応戦するなっ・・! 正面のコントロールパネルまで、一緒に走ってくれっ!セキュリティーは、ホストに向かっては、撃てないはずだ! 」

「 了解っ! 」

 後にいる、皆に向かって叫ぶリック。

「 皆も、応戦するなっ! セキュリティーを破壊したら、超重磁力爆弾に連動する! 」

「 ・・くっ・・! 」

 今まさに、壁のセキュリティーを撃ち抜こうとして銃を構えたペレスが、唇を噛んで悔しがった。

 尚も、執拗に発射される、ビームライフル。

「 ・・リック! リック・・! 」

 扉の向こうで、悲痛な声を上げるターニャ。

 飛び散る火花を受けながら、リベラに守られたリックは、コントロールパネルに取り付いた。

 沈黙する、セキュリティー。

「 普通の人間だったら、穴だらけだ・・! 見たところ、温感センサーは付いていないようだ。 多分、侵入者は始末したと判断しているだろう 」

 リックの言葉に、リベラは答えた。

「 機械を欺くのは、何か・・ 気持ち良いですな 」

「 このまま、作業を開始する。 悪いが、盾になっててくれ・・! 」

「 了解です! ・・しかし、このコントロールパネル・・ キーボードが無いようですが・・? 」

 リックは、メディカルケースの中から簡易ボードとテンキーを出しながら答えた。

「 ロボ共は、体にあるポートからシールドを装着して、直接アクセスするのさ。 キーボードなんて使わないよ 」

「 なるほど・・ 」

 コントロールパネルのポートに、キーボードのラインを差し込み、操作を始めたリック。 リベラは、セキュリティーに感知されないよう、ゆっくりと動き、リックに覆い被さるように、体位を変えた。

 扉の向こうでは、皆が、再び固唾を飲んで見守る。

 フーパーが、呟くように言った。

「 リックは、どうやら・・ このまま、始めるつもりだな・・! 」

 ターニャが両手を組み、祈るような表情で言った。

「 リックなら・・ リックなら、出来るわ・・! 絶対に・・! 」


 パネルを起動させる、リック。 ウインドウが開かれ、最下層のデータ内に侵入を開始する。

 複雑に、キーボードを操作するリック。 左腕のキズ口から、ポタポタと血が、滴り落ちる。

「 ・・中尉・・ キズが・・! 」

 心配するリベラ。

「 構ってなど、いられない・・! しかし、血がキーボード内に入って、ショートしたらコトだ。 何か、もっと肘を縛って、止血してくれ 」

 リベラは、アーマーの左肩にある、メディカルキットの格納ボックスを開けると、止血剤のチューブを出し、言った。

「 瞬間接着剤のようなものです。 少し、しみますよ・・? 」

 キーボードを操作しながら、リックは答えた。

「 ハッキリ、言ってくれ。 しみる程度じゃなくて、痛いんだろ? 」

「 ・・はい 」

「 かなり? 」

「 ・・ええ。 強烈に・・! 」

「 ・・・・・ 」

 ルベラが、止血剤を塗る。

「 ○×うお・・ ☆☆∇!!!! Ω仝~~~ぐお・・∽≦∴! おおお~お~~・・・ 」

 強烈に、しみる・・!

 激痛に悶える、リック。 だが、いくらかではあるが、出血量は少なくなったようだ。

「 ・・ふうう~~っ・・! 目が覚めるぜ・・! 」

 操作を続ける、リック。

 後の扉の方から、フーパーが尋ねた。

「 大丈夫かぁ~? リックぅ~ 」

「 ああ、大丈夫だ。 今、最下層のデータを処理している。 もうすぐ・・ ん? あ・・ くそっ・・! 」

「 どうしたっ? 」

「 人手が要る・・! 」

「 人手? 」

 後を振り返りながら、リックは答えた。

「 通報回路に侵入する為に、サブターミナルの情報ホスト信号を、遮断しなきゃならん・・! 誰か、コッチに来て、それをやってくれ。 俺は、ここからアクセスしなくてはならないので、動く事が出来ない・・ 通報回路は、常に自動再生するプログラムだ。 偽装コードで対応しようとしたんだが、すぐに拒絶されてしまう・・! 」

 フーパーが言った。

「 ・・よ、よく分からんが・・ それは、誰でも出来るのか? 」

 キーボードを操作しながら、リックは答えた。

「 俺の指定する回線コードを切断して、別の配線につなげるだけだが・・ おそらく、サブターミナルは・・ 多分、このメインパネルの下だ・・! 隙間は、30センチも無い・・! もしかしたら、基盤の裏側かもしれん。 手を突っ込んで、届くかどうか・・ 際どいな・・! 」

 フーパーは、体格が一番小さいデビーを振り返りながら言った。

「 ・・行ってくれるか? てゆ~か、行けっ、デビー・・! 」

 幾分、声を震わせながら、デビーは言った。

「 い・・ いいっスけど・・ オレ、ウエスト86っスよ? 入り込む隙間って・・ あそこに見えてる、小さな穴ポコの事っスよね・・? 」

 リックが操作しているメインパネルの下に開いている、通気口のような小さな空洞・・・ その間口と、デビーの腹を、交互に見比べるフーパー。

「 てンめええぇ~~・・! もうちぃ~と、ダイエットせんか! 何で、ウエスト86なんだよっ・・! 」

「 そんなん、知らないっスよ! 」

「 大体、てメーは・・ ポテトチップスばっか食ってっから、こういう時に、役に立たねえんだよっ! 」

「 そんなコト言ったって・・ 」

「 あたしが、行くッ・・! 」

 デビーの声を制し、叫んだのは、ターニャだった。

「 ・・ターニャ・・! 」

 フーパーが、唖然とした表情でターニャを見つめる。 ・・確かに、ターニャの体格は小さく、この作業には適任だ。 しかし・・!

 ターニャは、キッとした表情で言った。

「 あたしが、行く・・! 他に、あたしより小さい人、いる? 」

 他の兵士たちを見渡す、ターニャ。

 フーパーが言った。

「 ターニャ・・! 」

「 女じゃ、ダメなの? 」

「 ・・いや、そんなんじゃねえが・・ 」

 ターニャは、決意を秘めた目でフーパーを見ながら言った。

「 あたしだって、兵士よ? リックは、戦闘員でもないのに頑張ってる・・! ケガをして・・ それでも尚、この窮地を脱する為に奮闘しているのよ・・? 今こそ、あたしの出番なの・・! 絶対、誰にも譲らないわよ? あたしが行く・・! 」

 ペレスが、ターニャの肩を叩き、言った。

「 頼む、ターニャ・・! リックを、しっかり補佐するんだぞ・・! 」

「 ・・叔父さん・・! 」

 ペレスに向かい、にこやかに微笑むターニャ。

 事態を見定めたリベラが言った。

「 マック! そのお嬢さんをエスコートして、コッチまで送り届けろ! 」

「 了解です、リベラ伍長殿っ! ・・さあ、行きましょう。 私の、陰に隠れて・・! 」

 マックのアーマーに隠れ、ターニャは、扉をくぐった。

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