第16話、エリア3

「 こちらですッ! リック中尉! 」

 正面のエリアから展開して来たと思われる、第4師団のクラッシャーズの3人が、エリア3から入った地下1階で待機していた。 皆、サンドカラーで塗装されたアーマーを装着している。

 黒いサンバイザーの付いたヘルメットに、伍長の階級章をペイントした下士官が言った。

「 特務技術士官のリック中尉ですね? 第1レンジャーのロメル大隊長から指令を受けて参りました。 第4師団、第38突撃兵連隊のリベラ伍長です。 我々3人が、弾除けとして同行致します! ・・こちらの女性は・・? 」

 ターニャを見とがめ、いぶかしげに尋ねる機械化歩兵の伍長。

「 大切な、道先案内人だ。 動く、ライトポリスの明細地図とでも紹介しようか 」

「 ・・何と・・ 女性でしたか・・! 分かりました、参りましょう。 地下3階より階下は、まだ敵の勢力下です。 充分なご注意を・・! 」


 アーマーを装着したクラッシャーズ3人に囲まれながら、地下6階の中枢区へ向かう。走る度に、クラッシャーズたちのエアサスペンションが、カシュン、カシュンと音を立てる。 何とも、心強い音だ。

「 待って! 次の角より・・ 向こうのスロープを通って、16号通路を抜けた方が早いわ! 」

 適時、ターニャが進行を案内する。

 リベラ伍長が答える。

「 了解! ・・もう既に、どこを走っているのか、見当がつかんな・・! 」

 脇を走っていたクラッシャーズが言った。

「 リベラ伍長っ! レーダーに、敵兵! 次の角、右ですっ! 」

「 ランチャー、用意! 適時、撃破! 」

 数体の、ジミーが出て来た。 これを、ランチャーで撃退する。 5体ほどのジミーが、粉々に吹き飛んだ。

 クラッシャーズのヘルメットには、小型レーダーが内蔵されている。 ハチ合わせする事無く、危険を回避出来、この上なく便利だ。 だが、バッテリー消費が早く、使用可能時間は、せいぜい30分程度だ。 アーマーの人工関節や火器類は作動するが、レーダーは沈黙してしまう。 その為、複数で行動する。 交代で、レーダーを作動させるのだ。

 ターニャが言った。

「 右に、階段があるはずよ! 8号通路に通じてるわ。 降りたら、左よ! 」

「 了解! 」

 時折り、通路脇に、兵士の死体が転がっている。 ターニャは、その都度、顔を確認し、知り合いでは無いかを確かめている。

「 防火壁だ! 閉まっているぞ・・! 」

 行く手を阻むように、鋼鉄の壁が現れた。

「 破壊するなッ・・! 警報と連動しているはずだ! ブッ壊したら、そこいらじゅうから、ジミーが涌いて来るぞ・・! 」

 リックの言葉に、構えていたランチャーを下ろすクラッシャーズたち。

 扉の開錠パネルに取り付き、リックは言った。

「 パスワード付きのヤツだな・・ 1度、リセットしてやる。 任してくれ・・! 」

 腰に付けていたメディカルケースの中から、何やら小型のセンサーのようなものを出し、開錠パネルに装着するリック。

 伍長が、サンバイザーを開きながら言った。

「 中尉の仕事ですな・・! お任せ致します。 ・・おい、マック、スミス! 後方を警戒しろ! 」

「 了解! 」

 2人のクラッシャーズたちが、後方を向いて銃を構える。

「 ・・よし! リセット、完了! 開けれるぞっ! 」

 叫んだリックに、伍長が言った。

「 中尉! 自分が開けますっ! 防火壁の向こう側へは、レーダー波は届きません。 向こう側の状況は、未確認で危険です。 扉の陰に隠れて・・ お嬢さんもです! 」

 防火扉を開ける、リベラ伍長。 途端、扉の向こうから銃撃があった。

 伍長のアーマーに、カンカンと銃弾が跳ね返る。

「 ジミーが、いるッ・・! 伏せろッ! 」

 その瞬間、薄赤い噴射光がリベラの横をすり抜け、少し後ろにいた1人のクラッシャーズの胸元に命中、炸裂した。

「 伏せろッ! ターニャ・・! 」

 そう叫びながら、ターニャを床に押し倒す、リック。

「 きゃあっ・・! 」

 被弾したクラッシャーズが、後方に吹き飛ぶ。

「 スミスッ! 」

 リベラが叫ぶと同時に、もう1人のクラッシャーズが、ランチャーを打ち込んだ。  激しい爆発音と共に、防火扉の向こう側で、火の手が上がる。

「 スミスッ・・! 」

 リベラが再度、呼び掛けたが、10メートルくらい後方に吹き飛ばされたクラッシャーズは、ピクリとも動かない。

「 くそうッ! ロボ共めッ・・! 」

 防火扉の向こう側に、銃撃を加えるリベラ。

「 動体反応、無しっ! 敵は、沈黙しましたッ・・! 」

 1人残った、マックと言うクラッシャーズが、レーダーで確認しながら叫んだ。

「 リックが・・! リックが、ケガをしてるッ・・! 」

「 何ッ? 」

 ターニャの叫びに、リックに駆け寄るリベラ。 マックも近くに寄り、ランチャーを構え、辺りを警戒する。

「 大丈夫ですかっ? 中尉・・! 」

 リベラの問いに、左腕を押さえながら床から起き上がるリック。

「 ・・大丈夫・・だ・・! 」

「 ランチャーの破片を、受けましたな・・? 出血が酷い・・! 」

 左腕上部が裂け、出血した血が、肘の方へと垂れている。

「 ・・リック・・! 私の為に・・ 私の為に・・! 」

 オロオロとする、ターニャ。

 リックは言った。

「 先へ急ごう、伍長ッ・・! 何か、止血出来るものは無いか? 」

 ターニャが、胸のポケットからデザートパターンのバンダナを出し、言った。

「 こ・・ これで・・! ちょっと、痛いかもしれないケド・・ 縛るね・・! 」

 リックの左腕を縛り上げる、ターニャ。

 リベラは、吹き飛ばされたクラッシャーズの方を見ながら言った。

「 ・・スミス・・! 」

 マックが言った。

「 直撃では・・ どうしようもありません。 もう、ヤツのハーモニカも、聴けませんね・・! 」

 リベラは、回想を断ち切るかのようにサンバイザーを下ろし、言った。

「 ・・行きましょう、中尉・・! 勝利の為に・・! 」

 倒れた戦友に、気心を残しながらも、先へと進む。


「 突き当たりを、右! 15号通路だから・・ 2本目の廊下を左よ! 階段が、あるはず・・! そこを降りた所が、地下6階よっ・・! 」

 ターニャが叫ぶ。

 マックが言った。

「 リベラ伍長殿! レーダーの電源が、切れましたっ・・! 」

「 イッキに、走り抜けるぞッ! マック、後を警戒しろ! 」

「 了解っ! 」

 階段に取り付く。 これまでにあった階段とは違い、鉄製のメッシュ階段である。

「 止まれッ! 誰かッ・・? 」

 階下から、叫ぶ声がする。 ペレスの声だ・・!

「 叔父さんッ! あたしよ、ターニャよッ・・! 」

「 ターニャ・・! リックも、いるのかっ・・? 」

「 ええ、いるわ! 今から降りて行く 」

 中枢区画の防護壁前・・・

 先遣隊のA中隊・B中隊の残存兵士たちが、6階フロアを死守していた。 C中隊のペレス・ベラルス・フーパーに、デンバー・・ デビーの顔も見える。

 リベラが言った。

「 第4師団 第38突撃兵連隊の、リベラ伍長です! B中隊 第6小隊のバックナー軍曹殿は、おられますかっ? 」

「 バックナー軍曹は、ヤラれた・・! オレは現在、ここを指揮している第1レンジャー C中隊のペレスだ。 ご苦労! リックを連れて来てくれたのか? 」

「 は! ・・リック中尉、こちらへ 」

 ターニャに支えられながら、ペレスの前に歩み出るリック。

 フーパーが言った。

「 おう、リック・・! その腕は・・・ 大丈夫か? 」

「 ああ・・ おかげ様でね。 ちょっとしびれて来たが、いい刺激だ。 たとえ片腕が無くなったって、生きていくには問題ない。 心配するな 」

 ベラルスが答えた。

「 何か、あんた・・ ウチの大隊長みたいな喋り方になって来たぜ? そのうち、ヒゲなんぞ、生やすんじゃねえだろうな 」

 ニッと笑いながら、リックは言った。

「 歳をとったら、そうするかな? ・・早速だが、始めよう・・! 」

「 よし来た! コッチだ、来てくれ 」

 防護扉のパネル前に案内する、ペレス。

 リックは、先ほどのセンサーを出し、作業にかかった。 皆、固唾を飲んで見守る。

 ターニャが、脇の壁にある銃痕を触りながら言った。

「 ・・ここで、ハイマンが死んだわ・・ あっちの隅では、ホッジスが・・ 」

 フーパーの表情が、一瞬、ピクリとする。 ターニャが触っている銃痕を見ながら、フーパーは言った。

「 おめえらのカタキは、オレらが取ってやる・・! どのみち今日で、ロボの天下は、終わりだ。 リックが、ココを開けてくれたら・・ 根こそぎ、フッ飛ばしてやる・・! 」

「 パスワードに、トリップが仕掛けてあるようだ・・ 手の込んだ事しやがって・・ 」

 舌打ちしながら言うリックに、デンバーが言った。

「 ・・イケそうか? 」

「 ワザと引っ掛かって、警報へ流れる回線に入り込んでやる。 誤報の情報を流して・・ あとは、確認情報のフリをして、リセットだ・・! そら来た、コッチだ・・! いいぞ・・ よしっ! 」

 ベラルスが言った。

「 ナンか・・ 楽しそうだな、おい 」

 ガチャン、とパネルの中から音がした。

「 ・・開いたぞっ! 」

 皆の方を振り返り、親指を立てて言うリック。 おお~、と言うどよめきの中、デビーが言った。

「 さすが、リックさんだ! 特務技術士官の肩書きは、ダテじゃないねぇ~! 」

 リベラが、パネルに手をかざして進言した。

「 中尉、私が・・! マック、オレの脇に付け! ・・皆、下がっていてくれ 」

 リベラとマック以外が、扉の陰に避難する。 全員が、扉の陰に隠れたのを見計らい、リベラは開閉ボタンを押した。

 ゆっくりと、ぶ厚い扉は、開かれた・・・!

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