第14話、死闘
バッファローの、4ストローク 水冷ディーゼルエンジンが、唸りを上げて始動する。 突入支援用に、3軍から借りたものだ。
ドライバー用ハッチから頭を出し、アイドリングを調整していたドライバーのヘルメットを叩きながら、戦車長が聞いた。
「 燃料は、どうか? 」
「 誘爆を防ぐ為に、半分、抜きました 」
「 ようし! 」
ロメルが近付き、戦車長に声を掛ける。
「 ミューラー曹長。 第3エリアの両脇には、36ミリの速射砲が2門ある。 先遣隊が手を焼いているらしく、前進も後退も出来ずにいる。 まずは、そいつを叩いてくれ! 」
「 了解しました! ウチの砲手のウデは、3軍一ですからね? 任せて下さい 」
「 期待しとるぞ! 」
ウインクしながら答える、ロメル。
エキゾーストから黒煙を上げながら、リヤ装甲上部に、数人の兵士を乗せたバッファローが塹壕を乗り越え、力強く前進を始めた。
兵員輸送車に乗り込んだロメルが、拳を空に突き上げながら叫んだ。
「 第1レンジャー、前へーッ! 」
高さ30メートルほどの、垂直に切り立った崖のようにそそり立つ、構造物・・・ その壁に、10メートルくらいの大きな入り口が開いている。 中距離ミサイルを出し入れする為のスペースだろう。 第3エリアと呼ばれる、ライトポリス東側の入り口である。
その両脇、高さ20メートルほどの位置に、速射砲が2門、設置してあった。 装甲で覆われた36ミリ砲で、おそらく、元 政府軍の歩兵支援火器からの流用であろう。 その前で、死闘は行われていた。
第3エリア内からは、絶え間無く機銃弾が発射され、まさに銃弾の嵐だ。 布陣する第1レンジャー、A・B中隊は、突然に始まった戦闘に、支援重火器や装甲車も無い為、塹壕に身を隠し、擲弾筒やグレネードランチャーで応戦しつつ、敵弾の合間を縫って体制を整えていた。 戦況は、アンドロイド軍に有利に展開しているようである。
「 シェイファー曹長ッ! ニコルソンの所が、砲撃を受けましたッ! 兵長以下、3名戦死! バード( 軽歩兵砲の愛称 )も、オシャカですッ! 」
中腰で、塹壕を走って来た兵士が報告をする。 調子の悪そうな携帯無線機を手で叩きながら、兵士からの報告を受けた曹長は、塹壕の、のり面に腹ばいになったまま、指示を出した。
「 ウォーレンスのトコの、50ミリを持って来い! この際、場所が特定されても構わんっ! あの砲架を潰さんと、厄介だ。 ・・くそっ、このポンコツめ・・! 軍曹たちは、どうしたっ? 」
シェイファーの隣に腹ばいになり、兵士は答えた。
「 36ミリの、真下に到達してますが・・ 第3エリアの奥にある銃座からの攻撃が激しく、クギ付けになってます! 」
耳元を機銃弾がかすめ、一瞬、首をすくめながら、曹長は言った。
「 仰角下か・・ 行くには行ったが、どうしようも無く、動けなくなったか・・! 」
2人が身を隠している塹壕の至近距離に、数発の迫撃砲弾が着弾し、炸裂した。
「 A中隊は、どうかッ? 」
バラバラと降って来る砂の塊に片目をつぶり、被っていたヘルメットを押さえながらシェイファーが尋ねた。
・・応答が無い。 シェイファーが振り向いて見ると、兵士の頭は、えぐられたようにフッ飛んでいた。
「 くそっ・・! 」
塹壕内の底を、這いずりながら移動するシェイファー。 向こう側から、20ミリの単装車載重機を背負った別の兵士がやって来た。
シェイファーが叫ぶ。
「 そんなモンまで、持ち出して来たのかっ? 銃架無しでは、重過ぎて撃てんぞ! ・・コッチは、ダメだ! ウォーレンスの所まで戻れっ! エリア3に、近付き過ぎた! 」
「 しかし、軍曹たちが・・! 」
「 バックナーたちは、36ミリの真下でクギ付けだ! あそこは、砲の仰角下だ。 心配するな。 ヤツも、バカじゃない。 援護があるまで、じっとしているハズだ! 」
また、至近弾が炸裂する。 兵士のヘルメットに、砲弾の破片が当たり、カイィーンと音を立てた。 続いて、機銃掃射。 塹壕の上部に、幾つもの銃弾が着弾する。
「 狙われているぞッ・・! 動くなっ! 」
兵士のヘルメットを塹壕の底に押し付けながら、シェイファーが叫んだ。 執拗な機銃掃射が続き、軍服の背中に、塹壕上部の砂が舞い落ちる。
「 ・・くそうっ! 応戦待機の状態が・・ これじゃ、まるで戦闘状態だ・・! 敵の増援が来ちまう・・! 」
シェイファーの下になっている兵士が言った。
「 し・・ C中隊に、出動を要請しましょう、曹長っ・・! A中隊も、もう持ちません。 指揮官のライトレー大尉も、サムのランチャーを食らって戦死したようですッ・・! 」
「 無線機は壊れていて、役に立たんっ! ・・くそっ、ジミーが出張って来たらアウトだな・・! 白兵戦の用意をしておけ! 」
塹壕内の底に仰向けになり、手榴弾を出すシェイファー。 その時、シェイファーの目の前に、塹壕をまたいで、突然、分厚い鋼鉄のキャタピラが出現した。
「 ! 」
装甲に、敵の機銃弾が跳ね返り、キンキンと音を立てている。 大口径の車輪に、低い砲塔・・ どうやら、突撃砲戦車らしい。 盾に、3つのダイヤモンドが描かれた部隊章が、戦車の側面に見える。
シェイファーが叫んだ。
「 3軍の、バッファロー・・・? そうか、C中隊が来てくれたんだッ! 」
側面にあったドライバー用の防弾強化ガラス窓から、ドライバーの横顔が見える。 彼も、塹壕内のシェイファーたちに気付いたようだ。 シェイファーたちを指差し、後ろにいる戦車長に、何か叫んでいる。
『 大丈夫か? 』
外部スピーカーから、砲塔内にいる戦車長の声が聞こえた。
「 助かったぜ、天使・・! 正面のゲートが、天国への入り口だ。 両サイドにある、クソ邪魔な36ミリを叩いてくれ! ・・ただし、右の36ミリの真下には、友軍がいる! クギ付けになってんだ。 一緒に、フッ飛ばすなよっ? 」
『 了解した! 多少、火の粉が掛かるかもしれんが、我慢してもらおう 』
防弾ガラスをはめ込んだ小窓から、戦車長が砲手に指示を出すのが見えた。 砲塔が回転し、砲身が、獲物を探すように上下する。 戦車長が、何かを叫んだ途端、マズルブレーキの付いた76ミリ砲身が、大音響と共に火を噴いた。 次の瞬間、入り口左の36ミリ砲が炎に包まれ、砲身が装甲カバーごと飛び出して来た。
小窓越しに、ガッツポースを取る戦車長が見える。
塹壕から、顔を出したシェイファーが叫んだ。
「 やったぞっ! 」
やがて、右の36ミリ砲が、ゆっくりと戦車の方を向いた。
「 反撃して来るぞ・・! 伏せろッ! 」
頭を出し始めた兵士を押さえ込み、再び塹壕の底に伏せる、シェイファー。
36ミリ砲が、発砲した。 ガキーンッ! という音と共に、バッファロー戦車の天蓋に命中した砲弾が装甲に跳ね返され、数十メートル先の空中で炸裂する。 戦車は、グラグラと揺れたが、何とも無い。 着弾の振動が、ゴワワワ~ンと、シェイファーたちにも伝わって来た。
ゆっくり回転する、突撃砲戦車の砲塔。 36ミリ砲からは、次弾が発射された。 さすが、速射砲だけはある。 次弾発射まで、7秒も無い。 バキーンッ! と、再び、天蓋に命中し、跳ね返される砲弾。 しかし、バッファロー戦車は、何事も無かったように、砲身を上下させている。 車内は、打ち鳴らされる教会の大鐘の中のような振動だろう。 戦車長が、耳を押さえながら、何か叫んでいる。 次の瞬間、大音響と共に、バッファローの砲身が火を噴いた。 ライトポリスの構造物に着弾する砲弾。 今度は、砲塔では無く、その脇にあったコントロール室のような、少し構造物の壁から出っ張った所が火を噴いた。 アンドロイド兵の手足らしきものが、炎と共に噴き出して来る。 砲身を落下させ、友軍を傷つけまいとした配慮らしい。 着弾の衝撃による激しい揺れの中、見事な照準である。
「 よっしゃァーッ! 」
小窓越しに、戦車長とガッツポーズを取る、シェイファー。
外部スピーカーから、戦車長の声がした。
『 C中隊の主力が、後続している! このまま、エリア3の『 受付窓口 』まで行くぞ! その、孤立している貴殿の戦友たちと合流だ! コイツを盾にして、くっついて来てくれ 』
「 了解だ、天使! 連れて行ってくれ! 」
押さえ込んでいた兵士の襟口を掴んで引き立たせ、突撃砲戦車の後に廻るシェイファー。
付近の塹壕の中で、身を伏せていた兵士たちに言った。
「 バッファローの陰に隠れて進軍する! 立てッ! ここにいても、死ぬだけだぞっ! 」
塹壕の中から、生気を失った兵士たちが次々と這い出して来て、戦車の陰に隠れる。 すぐ横を、3台の兵員輸送車が、エリア3に向かって突進して行った。
「 うおっ・・! C中隊に、先を越されちまうぞ! 続け、続けェーッ! 」
叫ぶ、シェイファー
バッファローの砲身が、再び、火を噴いた。 エリア3の内部にある銃座が、木っ端微塵に吹き飛ぶ。
構造物の壁面には、等間隔に無数の銃座が設置してあった。 それらからの銃撃が一層、激しさを増し、戦車の前面装甲や天蓋には、絶え間無く機銃弾が着弾して、カンカンと音を立てた。 同じように、突進する兵員輸送車の装甲にも、降り注ぐ豪雨のように機銃弾が跳ねている。 何人かの兵士が、跳弾した弾に当たり、倒れ込む。 兵員輸送車の後部ハッチが開かれ、数人の兵士が中へ逃げ込んだ。
『 エリア3、到着! 段差があって、我々は、この先へは行けない。 砲撃で援護する! 突っ込めッ! 』
スピーカーからの戦車長の声に、シェイファーは、答えた。
「 了解した、天使! 援護を頼むッ! 」
火を噴く、バッファローの砲身。 エリア3の奥に着弾し、火災を引き起こす。
戦車に続き、先行していた兵員輸送車も、エリア3に到達していた。 銃弾が飛び交う中、次々と車の側板を乗り越え、兵士が飛び降りて来る。
ペレスが、腕を回しながら叫んだ。
「 各車のドライバーは、車載機銃で援護! 残りは、突撃だ! いけ、いけ、いけえェーッ! 」
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