機械仕掛けの虚像
夏川 俊
第1話、変わり果てた大地にて
あの戦闘が終わって、どのくらいの月日が経ったのだろう・・・
1発で、地球上の15%をガレキに変える超重磁力爆弾が13発、成層圏を
飛び交っていた、あの日以来・・ 人の姿は、一度も見ない。
基地の地下、約150メートルにあった非常シェルター。 リックは設備点検の為、偶然、その中にいた。
基地の近くに超重磁力爆弾が着弾し、シェルターはセンサーの自働ロックにより、緊急閉鎖された。 半ば、シェルター内に閉じ込められた状態となったリック。
出入り口ハッチに設定してあった施錠タイマーの自動解除期間は、1年。 シェルター内に常備してあった食料で食いつなぎ、リックは1年後、やっと地上に出る事が出来た。
山間部奥地にあった、政府軍の前線観測基地・・・
元々、乾燥地帯に属する地域に設置されてはいたが、基地の周りは、短い草も生え、基地施設の間じかに迫っていた山々には、小さいながらも、木も茂っていた。
牛を飼い、テントで生活する移動民族のバラックも近くにあったはずであるが、シェルターを出たリックの目に映る景色は、それらとは程遠い、砂漠の景色であった。
・・緑は、全て、乾いた砂に変わり、所々に遺棄された軍の車両や施設の残骸が、砂に埋もれながら残っている。 空は厚い雲に覆われ、薄暗い。 シェルターの出入口脇に設置してあった寒暖計を見ると、気温は、38度を越えていた。
「 政府軍、解放軍とも・・・ バカばかりだ。 遂には、地球を破滅させやがったか・・・! 」
1人、筋力が衰えた足で砂丘に立ち、遥かに続く砂漠の景色を眺めながら、リックは呟いた。
それから、2年。
今日もリックは、延々と砂漠を半日掛けて歩き、所々、砂漠に転がる遺棄車両や、倒壊した施設の残骸の中から、使えそうな機材をかき集めて来ていた。
・・昨年頃、だったろうか。 電力を使い果たしつつある無線機から、人の声が聞こえて来たのだ。 それは、かろうじて聞き取れる声だったが、確かに人の声だった。 電波の発信地は、かなり遠方のようである。 何か、部隊への指示のような内容だった。
( どこかで、生き延びている者たちがいる・・・! まだ、どこかで戦闘が行われているのだろうか? 地球を、こんな状態にしても、まだ闘っているのか・・・? )
やり切れない気持ちにはなるが、自分以外の人間が生きている、と言う事の方が、リックには重要だった。
今のところリックには、電波の発信地まで行く手段が無い。
回収修理したエアバイクがあるが、無線機同様、バッテリーが持ちそうも無い。 せいぜい、100キロ程度だ。 傍受した無線の発信個所は、推定でも、1000キロは超えている。 斯くなる上は、何とか他のバッテリーを見つけ、救助信号を発するしかない。
リックは連日、基地やその周辺を掘り起こし、電力の確保に努めた。 だが、そうそう運良く見つかるモノでは無い。 最近は、今日のように、何キロも歩いて探索するようになって来ていたのだ。
家代わりにしている、大型の兵員輸送車。
半分、砂に埋もれてはいるが、自発熱式の携帯食料を大量に積んでいた。 大型の無線機も搭載されていた為、地上に出てからは、リックは、ここを寝ぐらにしていた。
「 ・・このバッテリーも、ダメだな・・! 半日掛けて、探して来たんだがな・・ 」
今日、大破した自走砲から持って来たバッテリーを、バッテリーチェッカーで点検しながら、リックは呟いた。
大型無線機はあるが、バッテリーが無くては、どうにもならない。
( いっそ、行ける所までエアバイクで行くか? うまくいったら、発見してくれるかもしれない )
だが、相手が、解放軍だったらどうする・・・?
自問自答する、リック。
( ここで、干乾びて死ぬよりかは、マシだろう )
しかし、無謀な考えである。
無線の発信地まで、到達出来る可能性は、ゼロだ。 残された数百キロを、徒歩で行く事になる。 これもまた、途中で干乾びて死ぬ事となろう。 砂漠でなければ、徒歩での強行軍も一利の望みはある。 しかし、何も無い砂漠では、無謀と言うよりも、自殺行為に等しい。
( 水素還元の飲料水も、原料が底をついて来た・・ いよいよ、お終いかもな・・ )
諦めの心情になる、リック。
出発するなら、ここ数日間の内だ。 いずれは、ここにいても死ぬ事になるのだ。 出発するか、諦めて、ここで死を待つか・・ どちらを選択しても、現在のところ、結果的には『 死 』に行き着く。
・・・リックは、ため息をついた。
家にしている、兵員輸送車の指揮官シートに座り、ぼんやりと、砂丘の稜線を眺める。 灰色の空をバックに、褐色の稜線が、緩やかに続いていた。
( あがいても、ムダか・・ だったら、ここでこうして、このまま骨になるか・・・ )
どうしようもない限界が見えて来ただけに、虚脱状態になって来たリック。 シートに座ったまま、両足のかかとをパネルの上に乗せ、力無く、永遠に続く砂丘の稜線を眺め続けていた。
( ライザ・・・ )
先の戦闘で戦死した、恋人のライザを思い出すリック・・・
ライザは、優秀な、3次元レーダー士官だった。 技術士官を示す技術科章を、軍服に3つも付けていた。 特殊技術 1等士官である。 階級は、少尉。 リック、自慢の彼女であった。
( 早く結婚して、後方に護送すれば良かったな・・ )
地球自体がこの有様では、その手続きも、項を奏したかどうかは不明である。
士官学校 技術科出身のリックは、先任士官として、この前線観測基地に配属されていた。戦闘を避ける事が出来る部署を選んだ、リック。 1年遅く、士官学校を卒業したライザもまた、技術科を選んだ。 2人とも、この基地に配属されていたのである。
『 ライザ・ブレンナー少尉です! 本日より、この観測基地に配属されました。 宜しくお願い致します、リック中尉! 』
嬉しそうに、リックに敬礼し、挨拶するライザの顔をリックは思い出した。
( ライザ・・ もうすぐ俺も、お前の所に行くよ・・ )
4つの技術科章が付いた軍服の胸ポケットのタブを開け、リックは、最後の1本になっていたタバコを取り出した。 ライターでそのタバコに火を付けようとしたリックの目に、何かが動いたのが映った。
「 ・・・・・? 」
くわえたタバコを持ち直し、座っていたシートから、上半身を起こす。
・・今、砂丘の稜線で、何かが動いた・・!
じっと、目を凝らす、リック。
「 目の錯覚か・・・? 」
いや・・ 稜線の上に小さく、何かがいる・・! 先程までは、何も、物体は無かったはずだ。
「 ・・・人・・・? 」
また、動いた・・!
リックは立ち上がり、食い入るように、その物体を凝視した。
頭らしきものが見える。 稜線上に倒れ、力無くもがいているようだ。
「 ・・ひ、人だっ・・! 人が、倒れているんだっ! 俺以外にも、人がいたんだ・・・! 」
自分以外の、人間との遭遇・・!
リックは、小躍りした。 持っていたタバコを放り出し、慌てて、兵員輸送車のハッチから飛び出す。 リックは、まっしぐらに稜線へ向かって走った。
乾いた砂の砂丘は、登り難い。 足元から、どんどんと崩れて行き、なかなか登れないのだ。 しかしリックは、お構い無しに、がむしゃらに登った。 何せ、3年振りの人間なのだ。 新しき仲間に会う喜びに喚起しながら、リックは、砂丘を稜線へと登った。
・・・ぐったりと、稜線上に倒れている人間。
どうやら、兵士のようだ。 解放軍の軍服を着ている。 敵兵だが、リックは、そんな事はどうでも良かった。
うつ伏せに倒れ、力無く、肩で息をしており、披露困憊のようだ。
声を掛けようとしたリック。 その気配を感じたのか、弾かれたように、その兵士は突然、起き上がった。
「 誰ッ・・? 」
体の下にあり、リックには見えなかった重機銃を、リックに向けて構え、叫ぶ。
リックは、呆然となった。 何と、その兵士は、女性だったからである。 更には、ひ弱そうな体格に不釣合いな大型の重機関銃を構え、その銃口を、リックに向けている・・!
「 ・・・・・ 」
返す声も無く、彼女を見つめ続けるリック。
女性兵士は、言った。
「 ・・せ、政府軍ね・・! 所属はッ? 階級はッ・・? 」
機銃のコッキングレバーを引き、新たに、リックに狙いをつける。
どう見ても機銃は、歩兵支援機銃では無く、車載用である。 こんなものを、歩兵が持っている訳が無い。 ゲリラか・・?
その時、爆音と共に、ヘリが砂丘を越えて、突如として現れた・・!
振り向く彼女が、短く言う。
「 ・・せ、戦闘ヘリ・・! 」
政府軍の、偵察用小型戦闘ヘリだ。 別名、コブラ。
突然の展開の連続に、リックは我を忘れた。
( ・・ま・・ まだ、戦闘は続いていたのか・・! 地球を、こんなにしても・・ 尚・・ 殺しあっているのか・・? )
ヘリの搭乗員が、稜線を飛び越える際、こちらを向いた。 黒いサンバイザーの付いたヘルメット。 頭部からは、幾つもの配線が出ている・・・
操縦しているのは、アンドロイドだ。 ヘリは、稜線から一旦、上空に離れ、旋回を始めた。こちらに、向かって来るつもりらしい。 どうやら、この女性兵士は、この戦闘ヘリの追跡を受けていたものと思われる。 ヘリの機首には、20ミリのバルカン砲が装備されているはずだ。 掃射されれば、人間の体など、木っ端微塵である。
リックは、腕に付けていた身分証リングを見た。
( ・・リングは、1年前から電池切れだ・・! 認識電波は発信されていないから、アンドロイドは、俺も味方とは、判断しないだろう・・! )
2人とも、射殺される・・!
リックは、叫んだ。
「 応戦しろっ! ロックオンされたら、おしまいだっ・・! 」
「 ・・あ・・ あ・・ 」
重機を構える力が残されていないのか、女性兵士は、恐怖に引きつった表情で戦闘ヘリを見つめるばかりである。
「 ・・かせっ! 」
重機を掴み取る、リック。 威嚇の為か、ヘリからはバルカン砲では無く、17・5ミリの軽機銃が掃射された。
2人の足元に着弾し、激しく、砂が巻き上がる。
「 キャアァッ・・! 」
両手で耳を塞ぎ、砂に伏せる女性兵士。
リックの重機銃が、火を噴いた・・!
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