吸血鬼に噛まれてもドラキュラにはなれない
猫田芳仁
1夜め みんな大好きドラキュラ伯爵
問:この文章のおかしなところを答えよ(配点10)
「吸血鬼に噛まれてドラキュラになる」
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ちなみに「吸血鬼に噛まれて吸血鬼になる」は正しく、「ドラキュラに噛まれてドラキュラになる」は間違いです。
ある程度ファンタジー慣れした方でしたら、あっさり答えられることでしょう。
答:ドラキュラは固有名詞であるから。
平たく言うと人名です。ドラキュラ伯爵はそういう名前の吸血鬼ですので、彼に噛まれても吸血鬼という種族にはなれど、ドラキュラという人物そのものにはなりえないわけです。
児童文学などで、「ドラキュラ」という種族がある作品もありますが、まぁそれはそれで。
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さて、ドラキュラ伯爵というとどんな姿がベーシックでしょうか。作者が親しんだ小学生~中学生向け翻案では「黒髪オールバックで頬のこけたオッサン」の挿絵がスタンダードでしたが、この挿絵はドラキュラ映画の影響をもろに受けている……と作者は思っております。
というのも、原作のドラキュラ伯爵にはヒゲが生えているのです。
登場時は白髪白髭のおじいさんで、血を吸うごとにごま塩から黒髪へと若返っていく描写があります。じゃあ物語が始まるまで絶食していたのかよという話になりますが、それはどうぞ突っ込まないで。
またその他の描写についても、よくある貴族的な美形の吸血鬼とはかけ離れており、寸詰まりで毛むくじゃらの指だの、部屋の中を「のしのし」歩き回るだの、悪く言うと「野蛮人」的でさえあります。
それが何で美形になったのか? というと、そりゃあ舞台化したからでしょう。
なんてったって主人公(?)ですもの、不気味なおじいちゃんよりイケメンを置いておいたほうが席も埋まるってもんで。
原作より舞台、そしてのちの世には映画が広く出回って、あの容姿が定着したものと思われます。
ちなみに吸血鬼のトレードマーク、「襟の立ったマント」も舞台で導入されたそうですよ。ぱっと姿を消す演出に、都合がよかったのだとか。
さんざん容姿をけなしておいてなんですが、原作、実に骨太な作品ですから吸血鬼好きなら読んでおいて損はないですよ。
イマドキのナヨナヨした吸血鬼とは一味違う、「人類の敵」で「怪物」たる存在感を見せつけてくれます。
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典型的美形吸血鬼の出てくる、古典的な小説が読みたい! という方にはジョン・ポリドリ作の「吸血鬼」がおすすめです。しかし邦訳が少なく、あっても短編なのでどれに収録されているかわかりにくく、ようやく短編集を発見しても絶版の憂き目に……と散々な有様なので、図書館やAmazonで探しましょう。一様に古い本なので、Book offはあまり期待ができません。
国書刊行会から発行されている「書物の王国 吸血鬼」が図書館では探しやすいかも。
図書館で見つけられる本はほかに児童書「わくわくミステリーランド」もありますが、こちらは小学生向けなのでひらがなが多く、尚且つラストが甘め(原作は誰も救われないバッドエンド!)。
これに登場するルスヴン卿はとにかく邪悪で、なおかつ美しいです。「陰鬱な誘惑者」と評されるところからお察しください。
ドラキュラ伯爵と言いながら、結局ルスヴン卿も熱く語ってしまいました。
今晩はこれにて。
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