告げられなくても

ホタルブクロ

運命の悪戯

「どうしてもいっちゃうの?フロー」


目の前の少女が涙をためた目で僕を見て言葉を紡いだ。

まだあって1か月もたたない少女は僕と離れるのが嫌だと、表情や声で一様に表していた。

そんな顔をされると別れがとても辛くなる。


「うん、僕は明日自分の屋敷に両親たち帰るんだ」

「嫌だ、ずっとこっちにいてよ!フローがいないと嫌だよ!」


少女は目にためた涙を溢れさせて僕に訴える。

僕はその涙を手でふきながら、少女に言葉をかける。


「大人になったらまた会おう、僕必ず君に会いに行くから」


少女は涙を一旦止めて僕を不安そうな目で見る。


「本当に?」

「うん、はいこれ」


母上に用意してもらった花の小さな花束を少女に渡す。


「これは何···?」

「これはミオソティスと言う花なんだ。花言葉は私を忘れないで。まだあるけどね」


僕はにっこりと笑って少女を見る。


「僕がここにいなくても君は僕を忘れないでね」

「····忘れない、忘れないわ。だから、今度あったら他の意味も教えてね」


涙で腫れた顔で笑って僕を見る少女。

僕はそれに答えて笑みを向ける。


「約束だよ」




10年後

僕は一人称を私とかえ、騎士となった。

騎士となり、近衛兵となったのだ。

まだあの少女、彼女には会えていない。

休みの日に遊んだ広場や商店街など行くがどこにもいないのだ。

王都に来て3年の今日、私は国王陛下のご息女ヴィステリア様の護衛を任される事となった。


「何辛気臭い顔をしているんだよ」


となりにいた10年来の友であるヅィストが私に話しかけてきた。


「何でもないよ···」

「何でもないんだったらそんな顔をするな、これから王女殿下にお会いするんだろ」


そうこれから私は王女殿下にお会いする。

王女殿下はパーティーにもあまり出ず部屋の中に閉じ籠っているらしい。

幼い頃はお転婆で城下にも1人で行ってみたりもしたそうだ。

だけど今では引きこもり侍女や騎士に無理難題を言い、我が儘な王女となって仕舞われた。その理由は分かっていない。

その為、王女の侍女や騎士は頻繁に変わる。

私もその中の一人になるのだろうか。




前任の騎士の先輩につれられ、王女の私室に来た。

コンコン

先輩が扉をノックして中に入室の許可をもらう。


「ヴィステリア様、後任の騎士をお連れしました」

「入りなさい」


中から聞こえたのは若い女性の声。

きっと王女殿下だろう。

しかしどこかで聞いた声だ。

そう疑問を持ちながら先輩に続き部屋にはいる。

中には壁際に一人の侍女と窓の外を見ている背中を向けた彼女と同じ深い緑の髪の女性。

私の心臓は鼓動を早め、緑の髪の女性に目を向けた。

頭の中ではもしかしてとそして否定したい気持ちで溢れていた。


「ヴィステリア様、つれて参りました」

「ええ」


そう言うと緑の髪の女性、王女殿下は体をこちらに向け顔を露にした。

そして私は自身が無意識に予想していた事が当たっていたことを確信し、静かに自身の不幸を思った。

なぜ王女殿下が彼女何だっと。


「ヴィステリア様、この者があなた様の新たな騎士となったフロート·グーチェンでございます」

「グーチェンともうします。···王女殿下」


王女殿下は美しいお顔に驚きの表情を一瞬見せ、無表情にと戻った。


「あなたが新たな騎士となったグーチェンね。グーチェンは長いからフローと呼ぶわ」

「はっ、精神誠意護らせて頂きます」


私は王女殿下の護衛騎士となった。

何年も会いたいと想っていた初恋の彼女の護衛騎士に。

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