第10話 性能

 俺が体に戻ると同時に、神器を握っていなかった左手に人のぬくもりを感じた。


 一体誰だ?


 俺はそう思いながら目を開け、左に視線をやる。

 するとそこには、心配そうな表情を浮かべながら祈るように両手で俺の左手を握りしめているナタリーが居た。


 そう言えば騎士達にかなり無理を言ってついてきたんだったな。

 最初は騎士達も反対していたが、気づいたらナタリーの同行を許可してたんだよな。

 道中どんな手を使ったか聞いてもはぐらかされてたし……


 俺はそんな事を思い出しながら、ホッとしたような、呆れたような表情を浮かべる。


「もう大丈夫、ナタリー。話はつけてきたから」


 俺は優しくそうナタリーささやく。

 それと同時にナタリーは、パッと目を見開き勢いよく俺の方を向いた。

 その眼には薄っすらと光る物が見える。


「……という事はやはり……、だったのですね?」

「そうなるね」


 俺は出来るだけ心配をかけないよう、優しく微笑みながらそう言った。


「ここは流石レオモンド様です……と、喜ぶべきところなんでしょうが……」


 ナタリーは悲しそうにそうつぶやきながら俯いた。

 ナタリーはわかっているのだ。

 強力な力を手に入れた代償として、俺は色々な意味で一生死の危険から逃れる事が出来なくなった事を……


「……ナタリーは優しいな」


 俺はナタリーを見つめながら、ナタリーに聞こえない程小声でそうつぶやく。


「ありがとう、心配してくれて。でも、いやだからこそ、今はコイツの性能を知っておきたいんだ」

「……わかりました。私はレオモンド様に仕えるメイド。貴方様が望まれる事ならば、例えどんな事であろうと付き従います。ですので何かあればご相談ください」


 ナタリーは真剣な表情でそう言うと、畏まって頭を下げた。


「わかった。その時は遠慮なく頼らせてもらうよ。でも今は、騎士達が居るところに居てくれると助かるな。俺もどれ程の性能があるかわからないから」

「かしこまりました」


 ナタリーはそう言うと、頭を下げてから騎士達の方へと歩いて行った。


「これが今の俺を取り巻いている環境……」


 俺はナタリーの後姿を見ながらそうつぶやく。

 現状、俺の事を心配して行動してくれるのはナタリーだけ……

 騎士達は持ち場を離れず、ただ俺とナタリーを遠くから警戒していただけだ。


 力を手に入れてしまった今、俺に必要なのは信頼できる仲間。

 強力な力を手に入れようと、一人で出来る事には限りがある。

 それを補い、助け合える仲間が必要だ。


 とは言え、それは欲しいからと言って今すぐに手に入るものではない。

 ならば今はそれがわかっただけで良しとし、今できる事をするべきだ。

 そしてそれは、俺が手に入れた力……の性能を確かめる事に他ならない。


 俺はそう思い、右手に力を込める。

 するとそれに呼応するかのように、剣身にはめ込まれている三つの水晶の内の一つが光始めた。


「青……」


 青色の水晶が光っているのを見て、水を連想したのは先程の神器内での話があったのからだろうが……これはあまりにもタイミングが良すぎる。


 ……仮に……仮にだ。

 この光っている水晶が水を扱える事を意味しているのだとすれば……他の三つの水晶もそれぞれ何らかの力を意味しているという事になる!


 つまりこの神器一つで、わかるだけでも四つの能力があるという事……

 流石にそれぞれが単体で強いという事はないだろうが、これはなるべく隠しておいた方が良いだろう。


 どう考えても喧伝して得られるメリットより、デメリットの方が遥かに大きい。

 ただどちらにしも、水を操るという能力がある程度使えるのが前提での話だ。

 無いとは思いたいが全く使い物にならない能力だった場合、喧伝する事も視野に入ってくる。


 それを判断する為にも、多少無理が出来る今性能を確認するべきなんだ。

 俺はそう思いながら、右手に握る剣に力を込める。

 そして剣身のみが薄い水で覆われるように強くイメージする。

 すると一瞬で剣身は水で覆われた。


「こんなにも簡単に……」


 いや、確かに何故だかイメージするだけで出来る確信めいたものがあった。

 これは予想だが、恐らく俺のイメージに合わせて神器自身が力を使ってくれたんだろう。


 だとすれば能力を使う事による負荷は無いだろう。

 次は射程だな。

 …………

 ………………


 その後色々と試したが、結果わかったのは、この水を操るという能力が想像以上に使える能力だという事だ。

 まず水を操る事が可能な範囲は大体目視できる距離まで。


 遮蔽物等で遮られ、目視できない場合は精度が落ちる。

 ただ約150m以内であれば、例え遮蔽物等で遮られようと精度は落ちる事無く水を操ることが可能。


 そして繊細な操作や細かい操作も可能である。

 例えば水を操り水でバラを作ったり、剣身に水を螺旋状に高速回転させて付与するなんてこともできた。

 

 正直、負担なくこれ程の事を自在に出来てしまうのは強すぎる気がする。

 勿論死ぬまで精神が乗っ取られる危険性にさらされるというリスクはある。

 だがだとしても、だ。


 それにこの神器には更に三つの能力があるかもしれないんだ。

 これは絶対に人に話さない方が良い事だろう。

 とは言え、ここで試していたことに関してはある程度漏れるのは覚悟すべきだろうな。

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