渡し舟

今日はついに先頭に並べた。


ここは大きな運河を渡る渡し舟の乗り場。

観光用のゴンドラとは違い、観光客も仕事をしてる人も一緒になって30人ぐらいで運河の向こう側まで渡るだけの舟。だから観光案内もなければ歌もない。


そんな渡し舟も、もうすぐ橋が完成するから運行が終わる。

今日はそのラストチャンスを掴むことができた。

いつも先客がいて私は10番目ぐらいになる。そうなるとその他大勢の乗客に埋もれてしまう。

でも先頭になれば舟の端に行ける。漕ぎ手の彼の傍に行ける。


話すことなんて出来ないし目も合わせられないけど、でも降り際に「行ってらっしゃい」と言ってくれる。

私だけに向けられたものじゃなくても、ただそれだけが聞きたくて。

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