忘れたい

仕事から家に帰る電車の中。

ここ最近、仕事も順調で人間関係も穏やかで平和な日々が続いている。

あれからもう数年。先輩を思い出す時間も少ない。もう電話番号も忘れてしまった。

そろそろ大丈夫かもしれない。私のための一歩を踏み出してみようか。


特急の通過待ちの間に学生が乗ってきた。

その男の子の方がキャンバスを持っている。二枚の表側を向き合わせてクリップで止めていたため何の絵かは分からなかったが、その独特の匂いから油絵であることは分かった。

その匂いを嗅いだ瞬間涙が出そうになった。

先輩との思い出が一気に思い出されたから。

先輩と一緒に行ったところや過ごした時間、先輩が描いた絵まですべて。


私はまだ忘れられていない。

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