4月1日―四人の親友・その1―
結花がこの世を去って、二週間。
その日、近藤が結花のノートを返すため岡崎家を訪ねると、何やら言い争う声が聞こえた。
どうしたのかとこっそり見てみると、四人の女性――おそらく、結花と同い年くらいだろう――がそれぞれ泣きじゃくりながら、何やら叫んでいる。悲痛な声が、胸に刺さった。
「どうして……どうして、何も言ってくれなかったんですか!」
結花の母親は、困ったような顔で何度も「ごめんね」と繰り返している。まるで、そうすることしかできないとでもいうように。
彼女たちは、結花の友達だろうか。彼女が末期の癌で亡くなったことを、知らされていなかったのかもしれない。
だとしたらそれは、結花本人の希望だったのだろう。
確か日記にも、そのようなことが記されていたように思う。
だからこそ、かもしれない。
結花の身を案じ、わざわざ連絡してくれた……そしてその死を知り悲しんでいる彼女たちに、この日記を見せなければならないと思った。
近藤は偶然を装いその場へ姿を現すと、目を丸くする彼女たちと一緒に岡崎家へ足を踏み入れた。
「今日は結花さんの、日記をお返しに参りました」
「日記……?」
「君たちは、結花さんのお友達?」
結花が日記をつけていたことを知らなかったらしい女性たちは、泣き腫らした目で「はい」と力なくうなずいた。
「あなたは……」
「この方は、結花の主治医だった方よ」
結花の母親が近藤を指してそう言うと、四人のうちの三人が、まるで親の仇のごとくじろりと近藤を睨んできた。
「だったらどうして、治してくれなかったんですか」
「結花のこと、見殺しにしたんですよね」
「やめなよ、みんな……」
「だって!」
「あんたは、悔しくないの?」
「あなたがもっと、真剣に向き合ってくれていたら……結花は元気になれたんじゃないんですか!?」
確かに、その通りだったかもしれない。結花の病状を誰より知っていた自分が、責められるべき立場にあることは知っている。
だけど……。
「近藤先生を責めないで」
やんわりと、母親が止める。それで、おろおろしていた残りの一人はどこかホッとしたようだった。
一方の三人は、涙目で黙り込んでしまう。そんな彼女たちに、母親は柔らかく、穏やかな声で――結花のそれと、よく似た語り口で話し始めた。
「もともと結花の抱えていた病気は、見つかった時点で既に手の施しようがなかったのよ。薬を与えようが、手術しようが、どうやったって無事には摘出できない癌だった……だから、近藤先生は何も悪くないの。むしろ、感謝の言葉しかないくらい」
そして近藤が返した日記を手に取り、四人へと差し出した。
「これを」
「結花の日記……」
「読んでも、いいんですか」
口々の問いかけに、母親は目に涙を浮かべて、こくりとうなずいた。
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