第二部⑤『二人の日本人、撤退戦を戦う。』
前書
エリザベート旅団は国境に近い城塞都市アムルヌイに到着した。ここからはヴェレーロまで目と鼻の先、いよいよ本国に帰国と言う所までこぎつけた、しかし太一は元々ヴェレーロ側の人間ではない、本国に帰還する義務はないのだ。よってこの地に残りここを亜人特区とし、あらゆる種族が差別と偏見のない平和で安定した交易都市に育てたいと望む。
その為にはカズイチの科学的知識がどうしても不可欠なのだ、だがエリザベートと共に歩む事を望んだカズイチはこの地を去る事を決意する。
袂を別つことになった二人の日本人、はたして再開はあるのだろうか?また、再開があるとすればお互いどのような立場で再開する事になるのか?
そして別れ際に、太一は言った。
「どの道君はここに戻る事になるだろうから」と、その言葉の意味するところは一体なんであろうか?
「二人の日本人、撤退戦を戦う。」
第5話「カズイチの出奔」
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第16章『二人の日本人別れの時』
あれから、10日が過ぎた。
その日の午後に後方よりエドガー公爵率いる占領駐留部隊3個師団、およそ6万がアムルヌイに到着した、この3個師団をアムルヌイ方面軍として占領統治をする事になる。
しかも、これはエドガー家で保有すると言うから、太一とカズイチは開いた口がふさがらない。
国内有数の貴族とはこう言う事を言うのかと改めてその凄さに感心したのだった。
エドガー公爵は到着すると直ぐに、知将タイチ…ヤマシタの元へとやってきた。
そして、深々と頭を垂れて、娘の無事の礼を述べる。
「知将タイチ・ヤマシタよ、我が娘を無事に帰還させてくれて心より礼を言いたい」
貴族にしては、なんと言う人格者だ。
エドガー公爵は早速都市の拡張工事と街道の整備、国境の警備など様々な作業に着手する。
確かに、この地域は豊かな鉱物資源が眠っており金の埋蔵量も大変多い、また多少乾燥はしているがすぐ側を流れる大きな川により肥よくな大地も広がっているのだ、この一帯の富を集中できれば6万の軍勢など養ってなおお釣りがくる。
それは、良いだろう、この資源は私財を投じて娘の救出に来たお父さんの当然の権利である。
金、鉄、銅、石炭、錫、この広範囲に鉱山が分布する。これらの資源は全てエドガー伯爵の管轄になったのだが。
「侯爵様、それ以外の物は私が研究に使ってもよろしいですか?」
「何だね?カズイチ君それ以外にも貴重なものがあるのかね?」
「まぁ、それは今後の研究次第ですよ、色々調べてみたいのです」
「わかった、金、銀、鉄、銅、石炭、錫以外は全て君に任せよう」
「ありがとうございます侯爵閣下」
太一が僕に近寄ってきて、日本語で耳打ちした。
「カズイチ君、何か見つけたのか?」
「はい、土の精霊に調べさせました、その先のスクル平原の地下に石油らしき反応が出ました埋蔵量もかなりのものです。あと、ボーキサイトや各種レアメタルが豊富みたいですね」
「なんだと!そりゃすごいな…………、金鉱山で一喜一憂してる場合じゃないじゃないか!」
太一の目は輝いていた。
「シィ~~~!!太一さん声が大きいですよ!」
カズイチは、ちょっと俯いて小さな日本語で続けた
「もっと恐ろしいものを見つけてしまいました」
恐ろしいもの?太一の知識から言う危険なものと言えば、ウランやヒ素、水銀などを想像している。
「なんだ?カズイチ君ウランでも埋まってたか?」
カズイチは、ワナワナと震えながら
「いえ………もっと恐ろしい、しかも埋蔵量が桁違いなのです」
「なんだよ、もったいぶるなよ」
カズイチは深呼吸して先ずは落ち着き、太一の目をガン見して言った
「ルチルが大量に存在するんですよ、この周辺!!」
聞いた事のない鉱物に以外と拍子抜けする太一。
「………ああ、ルチルね、うん………ルチル………」
「で………ルチルってなんだ?聞かない鉱物資源だな?」
カズイチはニヤけた顔で、いや今世紀最大のドヤ顔で答えた。
「二酸化チタンを95%も含んだチタン鉱脈の事ですよ!」
ここで、やっと太一が目を丸くする
「チタニウムだと!本当か!そりゃすごいな!飛行機でも作るんか?」
カズイチはさらに太一の近くによってあたりをキョロキョロと見回しながら
「しばらく目処が立つまで、手付かずにしておきましょう。金鉱山から出た石などは色々成分分析して使える物はコッソリ精製してどこかに貯めておきますよ。」
太一はカズイチの肩に手を回し耳元でこう言った
「な?技術者として魅力的な土地だろ?」
しかし、カズイチは俯いて決心は変わらないと言う表情で答える
「…………一週間後にはエドガー公爵とエリザベートと本国に帰還します。」
「本当にありがとうございました。太一さんの事、忘れません!」
太一は心底残念そうにミントの葉を一枚口に放り込むと高い空を見上げ呟くように言った。
「そっかぁ、行っちゃうのか、寂しくなるね」
「あ、風精霊通信技術と雷精霊通信技術は確立してありますので、特定の風精霊持ちか、太一さんが折伏しておいて下さい、電話みたいに話せますよ」
「あ、そりゃ、毎日電話しちゃぉ」
「迷惑ですっ!」
それを横で聞いていた太一の秘書官、ノヴァが、日本語で付け加える。
「私、風精霊を所有しているところの、安心です」
ん〜文法が少しおかしいが通じる事は通じる
「そうか、じゃぁノヴァの精霊とうちのルーかポーを繋いでおきますよ」
「太一さんの事だから、どうせ抱き枕代わりにノヴァを使ってるんでしょ?じゃ夜中に電話しても大丈夫ですよね?」
「え?カズイチ君ウチに泊まった事あったっけ?」
太一は驚いた様子で僕に聞き返した。
マジでそれやってるんかい!と突っ込みそうになったものの、半ば呆れたように太一の顔を見た
「そんな事してよく、サラさん怒りませんよね」
僕がそう返すと意外な答えが返ってくる。
「むしろ、サラが抱き枕代わりに寝床に連れて来るんだよ…………」
「マジですか?そういう使い方してるんですか?秘書官殿を……まるで何処かのシャチョさん見たいじゃないですか」
「いや〜真ん中にノヴァを挟んで、左右からモフモフしながら寝るんだ」
「ぅ〜ん、亜人の習慣はよく分からんですね、よくサラさんを嫁にしましたね」
「あれはあれで可愛いとこあるんだよ。俺からすれば、君こそよくエリザベート師団長と結婚する気になったな〜と言いたいよ」
普段から太一の所には何かと寄らせてもらう事が多く、ラサさんには大変お世話になっている。太一の妻であるサラさんは小柄で細めの体型だ、それにより一層彼女は小さく見える。しかしいつもニコニコ笑い、家事に育児によく働く、テキパキと仕事をこなし太一を支える原動力となっていおり、何よりも夫婦仲がすごく良いのが印象的である。
そんな太一の家庭を見ていると、太一さんも良いパートナーと巡り合えたんだなと嬉しくなるのだ。
この地は、功績により正式にエドガー公爵直轄領という事が決まった。
アムルヌイ方面軍の総司令官に知将タイチ…ヤマシタが推薦され、太一はこれを受諾、さらに約束通り亜人特区として運営される事が決定し太一との約束は守られた形となった。
また同時に亜人特区総督も兼任し軍事と統治両方を行える、ある意味では太一帝国と言っても過言ではない、太一は平等で善政を行うだろう、これでこの地の心配は何もなくなった。
僕はお別れの前に、アムルヌイ方面軍に編入されたカズイチ特殊作戦中隊の面々に挨拶に出向いた。エレーナとローディは我々と共に帰国する事が決まったので、その他の面々に挨拶を済ませておきたかったのだ。
始めに訪れたのは第二打撃魔法小隊の隊長であったグロームの所である。
グロームはその後はカズイチの魔法開発部に所属して共に研究を行いカズイチの教えを十分に理解している、心許せる数少ない人間の一人にまでなっていた。
「グロームさん、本当にありがとうございました、新開発した魔法でこの地の住民達の平和と幸せをお願いします。」
「はっ!中隊長殿!必ず隊長の教え通り、人々の幸せの為に使いたく思います!」
「頼みました、グロームさん何かあったら貴方の雷精霊とリンクしておきます、連絡を下さい。」堅苦しい挨拶が終わると、グロームも握手を求め、本当に別れを惜しんでくれた。
「カズイチ中隊長殿、寂しくなりますね〜」
「隊長!寂しくなります!あなたと共に戦えて光栄です!」
「向こうでもお元気で過ごして下さいね、私も隊長の事憧れてたんですよ」
「隊長!自分は!自分は!ぅっ……うぅぅぅ……」
「カズイチ殿、あなたの魔法、感服致しました、いつかご教示いただけたら光栄です」
グローム小隊の隊員たちもカズイチの周りに集まって口々に別れを惜しんだ。
さてお次はアリビアールの率いる衛生小隊だ、ここが一番厄介である。
当然、エリザベートも抜刀可能な位置で僕についてくる、むしろ3歩下がって私の後ろをついて来いと言わんばかりだ、抜刀の邪魔にならない所に居ろという事である。
包帯を洗濯したり、縫物をしたりと何かと忙しそうに働いてるアリビアールに声をかけた。
「アリビアールさん、お忙しい所、すみません明日ここを立ちます、寂しくなりますがここでお別れです。」
アリビアールは仕事の手を止めて駆け寄って来た、瞳を潤ませながら、僕の手を握り別れを受け入れたくないと言うオーラを全開にする。
「カズくぅ〜ん!私も連れてってよぉ〜!!」
エリザベートの瞳がギラリと音がする位光る。
「あなたの衛生部は今やメディックの要です、僕の教えた新方式のヒールや医学魔法を軍だけでなく、広く住民の為に使って下さい、公爵には進言してあります、やがて総合軍病院ができるでしょう、広く門戸を開き治療をお願いします!アリビアールさんにしか頼めない仕事なんです」
「本当に私だけぇ〜?いろんな女の人に言って回ってないよねぇ〜?」
「ええ、もちろんですとも、僕の理論を真剣に学んでくれた数少ないメンバーです、特にあなたは柔軟な思考でしっかり僕の教えを学んでくれました、君にしかこれは任せられない」
そういうと、涙をいっぱいに貯めてアリビアールも渋々承諾した。
「離れても、私はぁ〜カズ君の2号さんだよ?毎晩思い出して寂しい時には使ってね?」
そういう事を言うとエリーが!!!!と、身構えたが以外にもエリザベートがアリビアールと握手している。
「アリー、あなたは大嫌いです、でもエドガー家関係なく私と対等に接してくれました、悔しい位にカズイチの弱い所とか扱い方教えてくれてありがとう、手料理もカズイチが気に入ってくれましたよ、マジで腹立つけど、あなたはいい友人です」
「友人じゃありませんよぉ〜エリザベート様ぁ〜どちらもカズ君のお嫁さんですよぉ〜正妻と2号!、仲良くするのは当たり前じゃないですかぁ〜」
青筋ピキピキ立てながら、握手の手に力を込めるエリザベート
「痛いっ!痛いですってばぁ!」
握手を振りほどいてブンブンと手を振るアリビアール、そしてニヤッと笑い
「か〜ず君!隙だらけですよぉ〜」
そう言うと、カズイチの首に手を回し、唇を重ねてきた。
涙を流しながら、貪るようにカズイチに熱い口づけをする。
周りのメディック達はヒューっと口笛を吹いたり、さぁ!エリザベート様とアリビアール隊長との追いかけっこが始まるぞ!と、いつもの光景を想像しどっちが勝つか賭けを始めるのだった。
ここでエリザベート堪らず抜刀!
「ちょっと!!!アンタなんてことすんのよ!!てか!カズイチ今のは雰囲気的に仕掛けてくるの予想できたでしょう!なんで避けないのよぉ!バカなの?死ぬの?わざとでしょ!この浮気者!!!」
騒ぎを聞きつけた小隊のみんなは、いつものこの風景をニヤニヤしながら眺めている。
「今回はどっちが勝ちますかね?分隊長」
「う~ん、そうだな何時もアリビアール隊長が逃げ切って勝つからなぁ」
「オッズはエリザベート様の方がレート高いですよ、今回はエリザベート様に賭けようかな」
「お!また始まるのかい?追いかけっこ、乗った!俺はアリー隊長に一口!」
二人の追いかけっこが賭けの対象になっているとも知らず、エリザベートは僕に剣を向け、そして顔はアリビアールを睨みつけて今にも斬りかからんばかりの態勢だ。
「先にこの雌犬仕留めて、次はあなたです!!!この雌犬!おとなしく刀のサビになりなさい!」
そう言うとブンブンブン!と剣を振り回しアリビアールを追いかけて行く。
その剣をひょいひょいとかわしながら、周囲に響き渡るほどの大声で叫ぶ。
「カズく〜ん!私を差し置いて2号作っちゃダメですよ!必ずそっちに行くからねぇ〜」
「ホント腹たつわぁ!!ちょっと!なんで避けるのよ!良いから大人しく斬られなさいよ!」
その光景を眺め、僕は苦笑しかできなかった、小隊の面々も僕の型をポンと叩いて、労を労ってくれる。
「カズイチ中隊長も大変ですなぁ、しかし美女二人に好かれて羨ましい限りです」
「いやぁ、エディー結構気を使うモンだよ?僕の国じゃ一夫一妻制だから、こう言うの耐性無いんだよ」
「ありゃ~、中隊長の祖国は随分不憫なお国ですね、はっはっはっは!」
小隊のみんなも大笑いして僕らの旅立ちの無事を口々に祈ってくれた
「しかし困ったな………あの二人、これって仲が良いって言うんだよね?一応………」
「どうでしょうね?まぁ、カズイチ中隊長殿、エリザベート様が戻ってくる前に撤退した方がいいんじゃないですか??」
「そうだね、太一さん風に言えば戦略的撤退って所だね」
そう言うと一目散に逃げ出し次に向かった。行き先は日頃からお世話にっている太一の家族が住む天幕だ、表で手伝いをしていたミシャが気付いて駆け寄ってくる。
「カズイチ兄ちゃん!いらっしゃい!」
「やぁ、ミシャお手伝いかい?頑張ってるね」
「うん!姉ちゃんを少しでも安心させたいんだ!」
「お!えらいな!サラ姉ちゃんいるかい?」
「サラ姉ちゃん~カズイチ兄ちゃん来たよ!」
ミシャがサラを呼びに元気に駆け出した、サラはニコニコしながらテーブルに案内しお茶を入れてくれた。
「ようこそカズイチさん、タイチから聞いたわ、明日出発なさるんですね」
「はいサラさん、それにミシャ本当にお世話になりました、今まで色々とありがとうございました。」
そう言って僕はお礼の品を渡した。受け取ったサラは不思議な包み紙を見ながらニコニコと言った
「そんなに気を遣わなくても良いのに、でもこの紙は何かしら?端っこにエンブレムがあって、なにか結び目のような模様………この真ん中の文字はタイチの国の文字ですの?」
「それは『のし紙』と言って、太一さんと僕の国で正式にお礼をする時の礼儀作法なんです、その文字は上が『お礼』と言う意味の文字で、下が僕の名前です。」
「まぁ、それはそれは、ご丁寧にありがとうございます。そうですか、この下の『蒼井一一』とはニホンの文字で書かれたあなたの名前なのですね。読めないけど、不思議と気持ちが伝わって来るわ、ありがとう、大切にしますね」
「いやぁ、腐る前に食べて下さいよ」
「それより、お願いがありますの。タイチの名前をこのように書いていただけないかしら?」
「お安い御用ですよ」
そう言ってのし紙の裏に「山下太一」と書いてあげた。
「僕の国では名前は逆に読みます、まず家の名前が来て、次に個人の名前です。タイチ・ヤマシタではなく、ヤマシタ・タイチと言うのがニホンの呼び方ですよ、山下サラさん」
そう伝えると、のし紙を大事そうにギュッと胸に抱いてニッコリ微笑んでくれた
「サラさんの手料理美味しかったです!また時間が出来たら遊びにきますので、それまでお元気でお過ごし下さい。」
「いいえ、お別れの前にあなたに伝えたい事があるの」
「はい、なんでしょう?」
「カズイチさん、あの時ミシャを救ってくれて本当にありがとう、あなたが居なければミシャは死んでいたでしょう。感謝してもしきれません、あなたには2度助けられています、あの時タイチを見つけて下さらなかったら、ミシャもこの子も生きてはいなかった。あなたは私の恩人なのですよ、本当にありがとう!」
「サラさんが幸せそうにニコニコしているだけで、僕の行動は間違ってなかったと胸を張れます」
「うん!胸を張って!それとね、私たちに亜人に差別、偏見なく接してくれた事、一生忘れません、あなたも私たちの家族です、どうかお元気で」
「すみません、ちょっと涙腺がゆるくなっちゃって・・・・」
「いいのよ、私だって泣きそうよ、あコレお菓子焼いたの、道中で食べてね、私の自信作よ」
「あぶぅぅぅ~」
目元がタイチにそっくりな薄緑の肌を持つ女の子が無邪気に僕に笑いかけた。
「お!起こしちゃったねサクラ、太一さんに似るなよ、君も元気で素敵なレディーになってくれ」
そう言って太一とサラの娘の頭を撫でてあげた。
本当に種を超えて行く人なんだなと太一の懐の深さに感心させられる、でも幸せそうな家族をみると胸が熱くなった、よかったあの惨劇からわずかでも幸せな暮らしを勝ち取ってくれたなら………
戻ろうとした時、ノヴァが帰ってきて僕にタイチからの親書を渡してくれた。
彼女は日本語で僕に告げた。
「これは、あたなが危険な時、読むカズイチ安心」
新領土総督官の公文書としての封が施してある、何かあった時に読めということだろう
僕はありがたく受け取って、ノヴァに詫びを入れた。
「ノヴァ……君を敵のスパイだと疑って本当にごめん、色々ありがとう、君は本当にいい秘書官だ、太一さんを宜しくお願いします。」
すると、ノヴァが日本語で再び僕に小声で何かを伝えた。
「今、太一いない、私なでる、カズイチ望み叶う事を許可する」
カズイチはにっこり微笑んで、ノヴァを心ゆくまでモフった。
頭を撫でられ、ノヴァは嬉しそうにする。
「カズイチ……んっ……そこいい……ぁぁ………もっとして……」
赤面しそうな言葉を言うなぁ………と思っていたら、サラがアドバイスをくれる。
「この子はここがとても好きなのよ」
ニコニコしながら、お腹を撫でるようにカズイチに言う、いいのかな?と思いながらもサラの言う通りにお腹を撫でてあげた、これは気持ち良い!このモフモフ感たまらない!
ノヴァもすごく気持ちよさそうに声を上げる。
「ぁっ………カズ………い……んっ!はぁはぁ………そこ………んんん!!!!」
僕は物凄い罪悪感に苛まれ、モフるのをやめた。
「も……もっとぉ………」
いや………そう言われましても………と躊躇していると、サラが一気にモフる
「途中で止めたらこの子がかわいそうですよ?」
そう言ってサラはノヴァが足腰立たなくなるまでモフり倒した。
横になったまま、はぁはぁと涙目で耳をピクピクさせながら満足そうに軽く痙攣している。
————これ………なんか悪いことしてる気分になるんだけど………
「カズイチ……さん………よかった……ばぃ……私うれしかよ………」
方言直ってないんだな………と思いながら、最後にノヴァの頭をすこし撫でてその場を後にした。
表に出るとガシャガシャと鎧の音を立てながら馬が走ってくる。
「カズイチのバカはどこ行った?!!」
エリザベートの声だ…………そして僕を見つけると馬に鞭を入れ戦場のそれより勇ましく突入してくる。
「そこに居たかぁああああ!カズイチ!じっとしてろ!避けるな!ピクリとも動くな!」
「わぁああ!アリビアールはどうしたんだよ!?」
「そんなにあの雌犬が心配かしら?!あのすばしっこい雌犬なら見失いましてよ!」
重装騎馬フル装備で槍を振り回しエリザベートが襲ってくる。全身禍々しい鎧に包まれてエリザベートとは認識できない程のフル装備だ
————ぎゃぁあああ!マジで怒ってる!それ無理ですからぁあぁぁ!!!
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第17章『故郷エールラント』
次の日、我々は新領土の城塞都市アムルヌイを後にした。国境までは二つほど山を越え4日程の行程となる、途中何事もなく我々はヴェレーロ国境に到着した、その後エドガー侯爵領であるエールラントへ向かう、敵の警戒をしなくて良く、街道も整備されていた為とてもスムーズに向かう事が出来たのだ。
エールラントの屋敷に到着する
「やぁ君の従者時代に過ごしたお屋敷、何か懐かしいなぁ」
そう言って敷地内の自宅へ向かおうとしたところエリザベートから制止された。
「どこ行くの?私の夫として戻って来たのだから、本邸に部屋を用意してましてよ?」
「あ、そっか……でも僕の荷物と言えば、ランドセル1個とシンプルなもんだよ」
早速荷ほどきをする為に馬車に向かうと、使用人達がせっせと荷物を運んでいる最中だ。
僕も手伝いますと駆け寄り、荷物運びを開始した。
「カズイチ様!恐れ多い!それは私共が致しますゆえ、どうぞ屋敷でおくつろぎください!」
「いやぁ僕も元は庶民の出だし、自分の事は自分でやるってのが鉄則なんだよ」
「私どもが親方様に叱られます!」
「まぁまぁ、人手は多い方が良いじゃないですか」
そう言って、積み込んだ覚えのない大きな蓋付きのカゴを引っ張り出そうそした、だがそれは妙な重さだった、まるで人間が一人入っているかのようなそんな重さだ。
よいしょ!と地面に下ろし、はて?積んだ覚えはないのだが?と疑問に思い蓋を開けてみた。
「はぁ〜ぃ!カズ……」
僕は蓋を閉めた。
僕は何も見ていない!
僕は何も見なかったふりをして、別の荷物を運び始めた。
ツカツカとエリザベートが寄ってきて、はて?身に覚えのないカゴですこと…………と蓋を開けて、そして閉めた。
蓋の上に少し重めの荷物を数個載せると、ギラリとサーベルを抜刀し目一杯突き刺した!
その瞬間、蓋ごとジャンプしてアリビアールが飛び出す。
僕はその光景をみて、ヒゲの海賊が飛び出す危機一髪な日本の玩具を思い出して懐かしさにふけっていた、エリザベートは奇声を発しながらブンブンと剣を振り回しアリビアールを追いかけている。
「いやぁ~ん!エリザベート様ぁ~目が据わってますよぉ!!!」
「キィィィ!このクソ雌犬!今日こそは切り刻んでカズイチの餌に混ぜてやるぅぅぅ!」
――――恐ろしく物騒な物言いだ・・・・
それは、駐屯地では既に日常の中に組み込まれた光景であったが、メイドや使用人達は初めてみる光景だ。
「エリザベート様?!」
「エリザベート様がご乱心あそばした!」
「お痛わしや・・・・荒んだ戦場に長くおいでになられたから・・・」
「何という事だ!あんなにお淑やかであったお嬢様が!」
と口々に驚きを表現し、一様にみな追いかけられるブロイラーのような
毎度の事で、アリビアールを捉えきれず諦めたエリザベートが次に起こす行動は決まっている。
「かぁ〜ずぅ〜ぃぃ〜ちぃ〜〜」
シャリシャリシャリ・・・・
エリザベートはノッシノシとこちらへ向かって歩いてくる、剣の切っ先は地面を引きずり火花を散らす、そしてその形相はまさに般若のようだった。
僕は胸ぐらをガッチリ掴まれながら、説教される。
「ちょっと!あんた!なんで連れて帰ってるのよ!そんなにアリーを第二夫人にしたいのかしら?なんか腹立つんだけど?連れて帰りたいなそう仰ればよろしいのですわ!それをあんなコソコソと!狡いやり方で!」
この場合、誤解だよと弁明して誤解が解けるストーリーを僕は見た事がないが、それでも誤解は解かねばならない、しかし僕の口から出る言葉は世界中のあらゆるストーリーで使われるそれ以外になかった。
「誤解だよ!エリー」
エリザベートの怒りは当然収まらない。
僕はその夜、エリーのベッドで彼女が寝落ちする朝の4時ごろまでずっと説教を受けていた、寝落ちしたのを見計らって自分の部屋に戻ろうとしたが、エリザベートが僕の寝間着を掴んで離さななかったので、結局その夜は同じベッドで眠る事にした。
ベッドの上で思った。日本の僕の部屋と同じくらいの大きさのベッドだと…………
そのころ、僕の部屋のベッドでは、アリーが忍び込んで臨戦体制をとっていた。
「カズ君遅いなぁ・・・・折角色っぽい下着で誘惑してやろうと思ったのに・・・・、カズ君の匂いまだもついてないから、私の匂いつけとこ~」
朝、部屋に戻った僕は枕に大きなヨダレシミを就けてスヤスヤ眠るアリビアールを目視しそっとドアを閉めて、朝食をいただくため食堂へと向かった。
説教の途中で寝落ちしたエリザベートは朝食のお誘いをしようと、僕の部屋のドアを開けてた
「カズイチぃ~朝ごはん一緒にたべよ♡」
エリザベートは廊下の絵画が衝撃で落ちるほど激しくドアを閉めた、その後僕は食堂で締められた。
理不尽、これ即ちエリザベートと見つけたり
貴族の毎日は以外と多忙である、領地内の視察や統治運営、そして社交界など様々な執務をこなしていく、エリザベートの夫として
僕はカズイチ・アフトマータ侯爵様となってしまった。でも、結婚後はエドガー侯爵家に婿入りし、カズイチ・エドガーとなるので、あまり意味はないように思えるが貴族というのは色々大変なんだな、と夜空を見上げため息をつく。
もともと奴隷の出身であった為、当初領民達からは「奴隷の侯爵閣下」と揶揄されていたものだ。
カズイチとエリザベートは基本的には仲がいい、アリビアールとエリザベートもそんなに仲が悪いわけではない、しかし間に僕が入ると修羅場と化す。その為エリザベートは僕からまったく離れようとはしない、常に短剣を携帯しトイレにまでついてこようとする始末である。
そのおかげで、お風呂にもエリザベートはついてくる、だがついてくるのはエリザベートだけではない。
「お風呂くらいゆっくり入ろうよぉ!エリザベート!」
「あら?私と一緒じゃゆっくりできないとおっしゃるの?」
「いや・・・その・・・ずっと前押えてないと・・」
「どうして?」
「どうしてって言われましても・・・・」
「あ!私の裸見て興奮しちゃうんでしょ♡」
「誰徳かと言われたら、僕得で良いと思うんだけどさぁ」
パシャッ!
「!!!!!誰?!そこにいるのは!出てきなさい!」
「あれ~カズ君だけじゃないんだぁ~エリザベート様ぁ、怖くて一人じゃお風呂にも入れないのかしらぁ?」
「誰かと思ったら、雌犬が勝手に我が家の湯船に入ってましてよ?」
「ふっふっふ、私もカズ君の第二夫人と呼ばれた女、ここにいるのは当然の権利でしょ?」
「あら、自称第二夫人のアリビアールさんではありませんか?」
そんな感じでアリビアールとハチ合わせとなり、3人のヌーディストが等間隔でジワジワと牽制しあう様はもはやハーレムとかそういう甘美で淫靡な光景ではない。
「はぁ……お風呂位ゆっくり入らせてほしいよ……」
あまりにもそういう事が続くので、エリザベートとアリビアールは2つの協定を結ぶ。
エリザベートの懐妊後であれば第2夫人として認める。ただし、アリビアールが男児を出産しても家督相続権は持たないの2点である。
それはそうである、想定の話であるがアリーと僕の子がエドガー家を相続したら、エドガーの遺伝子は何処にも入っていない。
その協定を結ぶと、アリビアールの積極攻勢は方向性を変えた。
エリザベートに、やたらと色っぽい下着を勧めてきたり、媚薬を渡したり、精のつく料理を持ってきたり、僕とエリザベートに艶話をしたりとにかくさっさとエリザベートが懐妊できるよう積極的に働きかけてきたのだった。
僕らはよく3人で領地内の視察に出かける、僕の知識を使い農業や生産流通の効率化を行い民を豊かにしたいとのエリザベートの願いを手助けするわけだ、最終的には6歳から無料で学校に行き学び、給食を与え栄養管理をし生存率を上げ、識字率を上げたいと言う事だ。
僕が魔導学校時代に話していた日本のようにしたいらしい。しかしその成果が上がるにはまだまだ時間がかかる。
そんな幸せな毎日の中、僕は突然王都に
表向きは…………
王都までは3日程の行程だ、エドガー侯爵、エリザベート、アリビアールと大勢の従者を従え一行はのんびりと王都へ向かった。
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[chapter:第18章『王都ヴィシュヴィル』]
ヴェレーロ国王都ビシュヴィル、人口は4万人を超える大都市であると聞かされた。
現代の日本で暮していた僕にとっては4万という人口は比較的小さな地方都市程度であるが、ではこれが大都市と呼ばれている、確かに市場は活気に満ち溢れ、広い道幅、堂々とした町の作り、さすが王都といったところだ。
僕たちは数日間、迎賓館で寝起きし王との謁見を待つ、その間様々なパーティーが開催されそれらの参加で忙しい日々を過ごしていた、これも公務の一環だとかで慣れない社交界に戸惑っていた。
貴族諸侯や街の有力者は僕を取り囲みお近づきになろうと色々仕掛けてくる
「アフトマータ侯爵様は、大魔導士様でいらっしゃるとか……是非当家にお招きしたい」
「アフトマータ侯爵様、私は当王都商会協会の会長を務めております、以後お見知り置きを……」
「アフトマータ侯爵様、先の戦では大変ご活躍されたそうですね、是非今宵その武勇伝を私の屋敷でお聞かせ願えないかしらぁ〜」
「アフトマータ侯爵様、これは当家の娘ジョセフィーヌにござります、是非侯爵さまとお近づきになりたいと……」
僕の周りは常に人だかりになる、ダンスになると貴族のお嬢様達が我先にとお相手を申し出る。
その光景をエリザベートは大変不機嫌な表情で遠巻きに眺めているのだ、ここまでオーラが伝わってくる。
アリビアールに至っては、自分より先に第二夫人を作られて堪るかと様々な妨害工作を仕掛けてくる。
そのうちエリザベートの周りにも貴族の男達が群がり口々にダンスのお相手をお願いしたり、手の甲にキスしたりとモテモテである。
僕をチラ見しては、これ以上ないドヤ顏でこれ見よがしに会話をしている。
僕はその光景を見ると心がザワついてしまう。そしてエリザベートも今までこんな気持ちだったんだなと、申し訳なく思った。エリザベートの所に出向いてダンスを一曲お願いすると嬉しそうな笑顔をはじけさせて……いや、勝ち誇ったような悪魔の微笑みで僕の相手を務めてくれた。
「我が家の作法は厳しいぞ、徹底的に鍛えてやるから覚悟しておけ」との言葉通り、様々な社交界で必要になるであろうお作法をメイド長のロッテンマイヤーさんから徹底的に叩き込まれた。
特に、こう言った場でエリザベートに恥をかかせるわけにはいかないと、ダンスは真剣に取り組んだのだ、その甲斐あって会場の皆が見とれてしまうようなダンスをする事ができた。
エリザベートもご満悦のようで、すこぶる上機嫌だ。そして驚きの言葉を放った。
「カズイチ様、どうか第二夫人とも踊ってさしあげてください」
「え?ええええええええええ!!!!!!」
僕は心底びっくりした、あの剣で追回し、カゴごと串刺しにして、アリビアールが半径10m以内に入るたびに、僕の近くで超厳戒態勢を取りZOC《ゾーンオブコントロール》を形成し全力で侵入を拒む、そんなエリザベートがアリビアールを第二夫人と呼び、さらには公の場でダンスを披露してこいと言ったのだ、それはつまりアリビアールが第二夫人として正式に認められた事になるという事で良いのだろうか?、これには僕も複雑な気分であった。
隅っこでつまらなさそうにしているアリビアール、年齢も他より少し上なので若い娘達とも話がはずむ事はなく、所在なさげに一人シャンパンを煽っていた。
「アリー、僕と一曲踊っていただけませんか?」
そう言って膝を折って手を差し出した。
アリビアールは最初驚きの表情を見せたが、すぐにニコリと微笑んで答えた。
「はい、アフトマータ侯爵様喜んで、アリーは嬉しゅうございます」
————あ、普通に喋れるんだ…………
アリーは顔だちは幼いが結構美人だ、僕より随分年上だがそうは見えないほど童顔で、その…………童顔巨乳というけしからん体型だ、しかしアリーは出身はどこかの貴族だったのだろうか?その立ち振る舞いとダンスは社交界を知っている者の所作だ。
「カズ君、わたし嬉しいです、まさかこんな日が来るとは思ってもみませんでした」
すこし、瞳を潤ませて見上げるように微笑むアリビアールに、心がキュンとしてしまった。
公認?いいのかな?僕はすごく不安になった。
そのような日々を数日過ごして、いよいよ国王謁見当日となった。
————————————————————————————
第19章『謁見、そして……』
高い天井、広々とした謁見の間、赤い絨毯に左には近衛騎士団、右には文官や貴族諸侯が並ぶ、奥に荘厳で雅な国王の玉座がある。
僕は極度に緊張しながら、膝を折り国王の入場を待った。
「国王陛下ご入場」
掛け声と共にヴェレーロ国、国王ガルヴァリン・ヴィシュタル3世が入ってくる。
30代半ばのまだ若い国王で僕がこの世界に来る少し前に即位した王である、簒奪により王位を継承したなど、色々と噂の多い国王である。
「そなたが、アフトマータ・カズイチであるか、面を上げよ」
「ハッ!国王陛下位にあらせられましては、ご機嫌うるわしゅう存じます、この度はわたくしめのような者に拝謁を賜りありがたき幸せにございます」
僕はちょっと噛みそうになりながら、慣れない言葉を発した。
「うむ、此度の侵攻作戦は大義であった、
「はっ!微力ながら国王陛下の御意志を果たさんと懸命に励みましてにございます」
僕は心にもない事を、丸暗記した原稿の通りに並べ立てた。
「うむ、余も卿の功績に恩賞を持って報いよう」
「ははぁ!ありがたき幸せにございます」
そう言って深々を頭を垂れて、さっさとこの堅苦しい謁見の早期終了を願った。
そうでないと何かしらやらかしてしまいそうで怖かったのである。
「ところで卿は我が国が誇る魔導兵団でも成し得ぬ強力な魔法を一人で使い、敵に多大なる損害を与えたと報告を受けておるが、まことか?」
「いえ、国王陛下私はただ懸命に一兵士として戦ったにすぎません、そのような大それた事などございません」
うわ、話がそこへ来たか……と一番懸念していたところへ振ってこられてしまった。
「謙遜などよい、その力を我が国の魔法兵団発展のため使ってもらうぞ」
————うっ!有無を言わさずそうきたか、返答いかんでは機嫌をそこね、まずい事になるぞ、まだエリザベートと正式な結婚の儀すら行ってないのに・・・・
「陛下、買いかぶり過ぎでございます、私のような最弱の風精霊しか使役できぬ者にそのような大役が勤まりましょうか?」
「ほう、余の申し出を断るというのか?」
「いえ、滅相もございません、ただこの魔法技術は陛下の民、ひいてはヴェレーロ国発展のため、平和利用に使いたと愚考いたします、さすれば国はさらに豊かになり陛下の治世も盤石の物となりましょう、そのためであれば新骨粉砕努力を惜しまず陛下のお役に立ちたい所存でございます。」
「そうか、国の発展のために使ってくれるか?ならばしかるべきポストを卿に与える、この王都に止まりその職責を果たすが良い」
————うわ……平和利用と称して絶対に軍事技術へ転用するな……
「ははぁ!ありがたき幸せ!ヴェレーロ国発展のため尽力いたします」
「うむ、下がって良いぞ」
「ははぁ!」
謁見の間から解放された僕は近衛兵に守られ王宮を後にした。
そのころ王の執務室に戻ったカルヴァリン国王は軍務と魔導の尚書を呼び意見を聞いていた。
「陛下、あの者いかがいたしましょう?」
「うむ、余の申し出を遠回しに断って来おった」
「ははっ!報告によりますと500名から詰めていた物資集積所をたった一人の魔法にて粉微塵に吹き飛ばしてしまったとの事です。更には500騎からなる騎馬隊を他の魔導士に命じてこれも一撃でなぎ払ったと……」
「こうなると、あの時の敵越境事件のおり1000からの敵兵力を瞬殺したのも、エドガー侯爵家の令嬢ではなく、かの者の仕業である可能性は大でございますな」
国王は魔導尚書に尋ねた
「そのような事が本当に可能であるのか?」
「ははぁ!本来魔法は精霊に己の生命力と言う糧を与えその対価として行使されます、ゆえに強力な魔法ほど術者は命の危険にさらされます、とても人間の所業ではございません、人一人の生命力全てを糧として与えたところで師団クラスの集積所を一撃で破壊するなど考えられぬ事でございます、おまけにかの者が折伏せしめしは最弱の風精霊2体のみと聞いております」
「ふむ、あの男人にあらずという事か?」
「あるいは、精霊の権化か、悪魔かのいづれかにございましょう」
「ふははは、余ではそのような悪魔を飼いならす事ができぬと申すか?」
「滅相もございません、ただ危険な存在である事は確かでございます、その力我が軍に向けられたら、太刀打ちできる者は国内ではそうそうおりますまい」
「あの大魔導士ローディリアでもか?」
「かの者はそもそもローディリア家の奴隷の身から成り上がった者、得体はしれませぬ底知れぬ不気味さを感じております、ローディリアはそれを知っていたのかもしれませぬ」
「つまり、大魔導士ローディリアもかの者とグルである可能性もあるという事か」
「用心に越した事はございませぬ」
魔導尚書はカズイチの排除を進言した。
「ですが、陛下あの力の秘密さえ解き明かせば我が軍の魔導兵団は世界最強となりましょう、この世のあらゆる国家を陛下が支配する事も可能になるかと……幽閉し拷問にかけてでも、秘密を吐かせ魔導兵団の戦闘力の増強を行い、すべて完了した暁には……」
「始末すれば安泰という訳か」
「ははっ、陛下のご見識には感服いたします。」
王宮のなかで、カズイチ暗殺か幽閉して拷問か不穏な空気が漂い始めた
今は表向きは平穏な王都だが、その裏で陰謀が渦巻いている。
だがカズイチはおろか、エドガー侯爵すらまだその事を知る由もない、それを知っていたのは、いや予想していたのはたった一人の人間だけであった。
『二人の日本人、撤退戦を戦う。』
第5話 「カズイチの出奔」
終わり
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