第百十四話 『……なにか問題でも?』

 ……新しい【真実の羽根】の一員?


「えっと……。先輩、詳しく説明してもらっていいです?」


 ウェルミ先輩はどうだと言わんばかりに踏ん反り返っているけど、いまいち言っていることが理解できなかったため、聞き返してみる。


「ロラン君もナナエちゃんも機石魔法科マシーナリーの生徒で、二人は幼馴染なんでしたよね?」

「違う、そうじゃない」


 一年坊の二人のことも気にはなるけど!

 聞きたいのは【真実の羽根】の方なんだって!


「新しい【真実の羽根】の一員ってどういうことです?」


 去年に【真実の羽根】として活動していた生徒は二人。ルルル先輩は卒業し、ヤーン先輩は禁術の魔導書を持っていたということで退学となった。なので【真実の羽根】は事実上解散しており、だからこそこの部屋も誰もいないと思っていたのに。


「私が、アルル先輩から【真実の羽根】を引き継いだんです! 元々、イベントがあったときはお互いに協力し合ってましたからね!」


 どこかのグループに所属するつもりは無かったのだけれど、無くなってしまうぐらいなら、ということで自分の活動に吸収(?)すると、卒業式の日に話をしていたらしい。


「ただ、流石に私一人じゃ何もできないから、何人か入ってもらうことにしたんだけど――」


「この二人を、新【真実の羽根】の一員として向かい入れた、と……」

「……なにか問題でも?」


 いかにも生意気そうな二人に、ルルル先輩たちの後釜が務まるのか、という不安はある。活動の裏にヤーン先輩の目的があったとはいえ、新聞部・情報屋としての能力には舌を巻くものがあったから。


「いや、今までは俺たちも活動に協力してたからな」


 ……自分達も【知識の樹】での動きもあるから、そんなに口を出せる立場でもないんだけど。それでも、この先付き合っていくのかどうか、という話にもなってくる。少し慎重に話を進める必要があるか、と考えていたところで――


「少なくとも、あんたらの手を借りる必要はないと思うっスけどね」

「ちょっと、ロラン君! 他の生徒に依頼することだってあるんですから! 仲良くしないとダメでしょう?」


「へぇ……」


『なんなら、ここで証明してもいいんスよ』と、明らかにこちらを挑発していた。今年の一年は血気盛んなのが多いとは聞いたけど、ここまでとは。


「面白れぇな! さっそく見せてもらおうじゃねぇか!」


 そして、売られた喧嘩をさっそく買ってしまった奴も。


「……武器がまだできてないんで、先輩のを借りてもいいっスか」

「え、私の? いいけど……」


 こちらの様子を『どうしようか』と窺うウェルミ先輩。んなこと言ったって、二人はもうやる気満々だし。


 先輩だって派手な事とか、ドタバタしたことが好きなんだろう。少し楽しそうなのが表情に滲み出ていた。


「こっちは別にいいですけど」

「それじゃあ……ここじゃなくて、上でやりましょ。確か少し広い空き部屋が、三階にあるはずだから」






 ――ウェルミ先輩に促されて訪れたのは、【知識の樹】の地下部屋よりも一回り小さいぐらいの空き部屋だった。中には何も置かれておらず、軽く試合をするのには丁度良さそうである。ただ……。


「室内だからな、分かってるよな、ヒューゴ」

「おう、任せとけ!」


 ホントに分かってんのかよ。窓


「先輩の剣……やっぱ少し重たいな」


 ロランはウェルミ先輩の“刃のない剣”――正しくは剣状の機石装置リガートを握りながら、振り心地などを確かめている。


 ……機石魔法師マシーナリーだったよな? 武器が無いから、臨時で使うとしても、その剣だと戦いにくいと思うのだけれど。


「まぁ、いけっか」


 そう呟く姿が、なんとも不敵に映る。


「なんだか面白い試合になりそうですね! ……やっぱり、もっとたくさん人がいるところでやりませんか?」


 そうして先輩も段々テンションが上がってきたようで。メガホンでも取り出さんばかりの勢いだった。


「……絶対やらねーっス」

「もう準備はできてんだぜ、先輩!」


「うーん、残念。失敗したなぁ。……それでは、試合開始っ!!」


 温度差のある二人に断られて、しかたなく試合開始の合図をする先輩。

 ――合図と共に動いたのは、ロランの方だった。


「フラドクス・ティアーティ・カルス!」


 魔法陣を浮かび上がらせ、二本ある剣のうち、片方から炎が噴き出す。その推進力を利用して、ヒューゴへと距離を詰めていた。詠唱からして、炎の妖精魔法だった。


「炎の剣……! 機石魔法師マシーナリーって言ってなかったか!?」

「ロラン君っては、妖精魔法師ウィスパーとしての才能が凄いのに、機石魔法科マシーナリーを選んだのよね!」


「どんな科を選んだって――俺の自由だろうがよォ!」

「炎の妖精魔法……奇遇だなぁ、俺もだぜ!!」


 ウェルミ先輩ほど洗練されてはいないけども、戦闘の初動としては、傍から見ていても悪くない動きだった。炎の勢いを活かしての急接近。そのまま振り下ろしからの――さらに空中で一回転しての追撃。


「先輩のならともかく、お前の炎はたいしたことねぇ!」

「――――」


 ――ただ、相手ロランのミスは、ヒューゴの実力を見誤っていたことだろう。アイツはアイツで、ヴァレリア先輩に鍛えられている上に、学生大会で既にウェルミ先輩と一度戦っている。


 先輩の剣の構造は把握済みだ。剣の柄にあるボール状の部分に炎の妖精が乗り込んでいて。その妖精が使った炎の魔法が、柄の先から放出される仕組みである。


 炎の妖精魔法で奇襲をかけたのはいいが、耐性のあるヒューゴには意味を成さない。武器での戦闘も、ヒューゴは十分対応できているみたいだし……。


「……こりゃあ、ヒューゴの圧勝なんじゃないですか?」


 そうウェルミ先輩に聞いてみると――『まだまだ! 勝負はこれからなんだから!』と目を輝かせて答えが返って来た。


「ロラン君も、なかなかに魅せる戦闘をしてくれるからね!」

「…………?」


「吹っっっ飛べぇ!」

「チッ……」


 一合、二合と、剣と鎚とを交わして。ヒューゴの魔法が炸裂する。打ち合わされた瞬間に起きた爆発に吹き飛ばされて、舌打ちをするロラン。やっぱり一年と二年じゃ、実力に差があって当然だろう。


 ――ましてや、二本ある剣のうちの一本しか使っていない。ヒューゴを舐めていたとしても、流石に身の程を知らないとしか言いようがない。


「……ほら、来た来た!」

「アド・エクセ、ティアーティ・カルス!」


 ウェルミ先輩が言ったように、もう一本の剣にようやく魔法陣が浮かび上がっていた。けれど。ここで炎の剣が二本に増えたところで、いったいなにが――


「……青い……魔法陣?」


 ――違う。あの剣の中にいるのは、


「――水っ!?」

「炎の妖精魔法師ウィスパーでもない!?」


 次の瞬間、刃の無い柄から水柱が飛び出した。


 勢いよく放出される水柱に、体勢を崩されるヒューゴ。水圧で上手く動けないところを、再びロランが一気に距離を詰めて畳みかけていく。――が、接近戦ならまだ、ヒューゴの方に分があった。


「甘ぇ!!」


 接近すればするだけ、水柱の狙いが甘くなる。一瞬の隙を見て、器用に長手の鎚を回しながらロランの剣を弾いた。


 ウェルミ先輩は自信に満々に送り出したようだし、確かに水の妖精魔法も使えることには驚いたけれども――それでも、戦闘能力の面では先輩を越えることはない。


 一年生なんだから、多少の小細工をしたところでこんなもの、と言ってしまえばそこまでだけども。……やはり、ここはヒューゴに軍配が上がるだろう。


 決め手に欠けていたロランが――小さく呟いた。


「……へぇ。

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