第707話 町内かるた大会で九尾なのじゃ
うちの町内はイベントが突発過ぎる。
いつものことながら思うのだけれど、どうしてこうも脈絡もないイベントがいきなり発生するのか。だいたい季節柄も考えていただきたい。もう三月ですよ三月。
かるたなんて正月にやるようなもんじゃありませんか。
そりゃ先週はあれですよ、なんか正月ネタやってたかもしれませんけれど、今は三月な訳ですよ三月。先週はちょっと作者がめでたくて、正月ネタ縛りでやってみたはいいけれど、思いのほか作中でいろいろと話が進んでいた関係上、なくなく時系列ずらしましたけれど三月ですよ三月。
やらんだろうかるたなんて。
なんでこんな時期にかるたやるかな。
そんでもって、なんでかるた大会の優勝賞品が、家族でハワイ旅行かな。
「……絶対勝とうな、加代さん!!」
「のじゃ!! ハワイでワイキキウキウキウクレレロコモコアローハマウナケアなのじゃ!! あるいは旅行チケットを転売してウハウハなのじゃ!!」
「一応、市から助成金が出ている大会なんだから、換金は駄目よ加代ちゃん」
「冷静に考えて、パスポート代の方が高くつくんじゃないか?」
親父とお袋はそうかもしれない。
けれど、俺と加代さんはなんだかんだでパスポート取ってるから大丈夫なのだ。
十年のパスポートをとっているから問題ないのだ。だから、旅費だけでオッケーグーグ〇ハワイのホテルを教えてでひとっ飛びなのだ。
ハワイが優勝賞品とあっちゃ、お前、いくら町内の催し物と言っても出ない訳にはいかない。俺たち桜家は、家族総出でこの大会に参加しているのだった。
ふむ。
それにしても周りの参加者たち――。
「……見たか加代さん」
「のじゃ。見たのじゃ。どれもこれも強者ばかり。並々ならぬかるたの気、略してかる気を発しているのじゃ」
「あまり略せていないんじゃありません?」
そしてなんかバケツに入れて天日にさらして抜く感じの奴じゃありません。
あるいは浄水器。
おふざけはともかく、町内のかるた大会だというのに、そこに集まった奴らはどれもなんだかすごい感じの奴らばかり。孫悟〇がオラワクワクしてきたぞと言い出しそうな、濃い感じのオーラを発しているのだった。
まず目に入るのがそう――。
髪を明らかに縦に伸ばし過ぎている男。
短パンに半そで。
そんでもって少年のような儚さを感じさせる顔立ちながらムキムキの身体というアンビバレンツさ。明らかに出てくる漫画を間違えている感じの奴だ。
さっきからじっと手を見つめているのはルーティンだろうか。
なんにしても、気というか、念というかが違う。
「あれはいったいどこの家の人なんだ」
「あぁ、あれはフランス系移民のカルロスさんところの一人息子だね」
「知っているのか父さん!!」
流石毎日家でごろごろしているだけあって、町内事情に詳しいな父さん。
まさかここで父さんが雷電メソッド炸裂させてくるとは、俺も思っていなかったよ父さん。
そんな驚きはさておき、父は淡々と続ける。
「なかなか大変な家庭みたいでね、ちょっと荒んでいるんだよ。子供会でもちょっと問題になっていてね」
「え、あれ、まだ小学生とかなんです?」
「小学生だよ。なのに、あんなに荒んじゃって」
「荒むって。あの荒み方はなんというか、荒むって感じじゃないのじゃ」
「話じゃお父さんが横領して捕まったんだけれど保釈金払って出た途端に国」
うぅん。なるほどね、よーく分かった。
そりゃ荒んじゃうよね。この世を呪うくらい荒んじゃうよね。
ゴーンさんって感じになっちゃうよね。分かるわ、流石に分かるわ。
そして、分かるからこれ以上危険な時事ネタは触れないで置こう。
俺と加代はさっさと、その危ないオーラを発する少年から視線を逸らした。
さて。
次に視界に入って来たのもまた違ったオーラを発している感じの奴だ。
なんていうかそう、まるで音楽の神様に愛されているような、そんな空気を醸し出す濃い奴だ。出る漫画を間違えているというか、そもそも出る世界線を間違えている、そんな感じのする奴だ。
そんでもってあれだ。
トップレスだ。
胸毛だ。
口元にはしっかりとした髭を蓄えて、そんでもってオールバックだ。
もう本当に音楽の神様に愛されている感が半端ない。
水星って感じで半端ない。
「……あれは本当に町内の人なのか?」
「……のじゃ。言いたくないのじゃが、どう見ても外国人なのじゃ」
「失礼なこと言うんじゃないよ。彼は水野さんとこのアミノくんじゃないか。歴とした日本人だよ。ちょっと彫の深い顔をしているけれど、日本人だよ」
「……
「……のじゃ、彼も触れるのはなんだか危険な感じがするのじゃ」
音楽の神に愛されていそうというだけで笑いが取れるのはどうしてなのか。
教えて野中先生ってもんである。バカ一代になる前に、俺たちはそっと視線をそむけた。
さて。
ジャン〇、マガジ〇ネタと続けば、次はもうだいたいお察しが付く。
次に俺たちの目に入って来たのは――。
「……黒すぎる、人!!」
「……のじゃぁ!! 黒い人なのじゃ!!」
黒い人であった。
なんかこう、物陰からこっちをこっそりのぞいているような、そんな感じのある黒い人であった。もう警察がやってきたら見た目で不審者としてしょっ引かれそうな黒い人だった。けれども、黒い人という形容以外に、特にこれといった特徴を言うことのできない、恐ろしいほどに黒い人であった。
うぅん。
「あれに優勝されるのは嫌だなぁ」
「のじゃぁ。なんか勝つためならなんでもするって感じの人なのじゃ」
「こらっ、さっきから二人とも失礼だぞ。あの黒い人はな、あれで結構真面目な人でな。毎日声をかけると気さくに挨拶してくれたり、よく家の前を掃除していたり、小学校の頃はクラスの人気者でとてもあんな黒くなるとは思わなかった――って言われてるんだぞ」
「完全に犯人のそれじゃねえか」
「のじゃぁ、社会の闇を煮しめたようなネタやめてなのじゃ」
はたしてこんな色物面子でいったいどうなってしまうのか。
カルロス家の人が念で無双するのか。
マーキュリーが歌唱力でオーディエンスを持っていくのか。
黒い人が暗躍するのか。
町内かるた大会。
その火ぶたは、満を持して切られたのだった――。
「……もうなんてーか、選手入場だけで息切れ感が半端ないよな」
「……最大トーナメント的な、始まりが一番盛り上がった感があるのじゃ」
そう。
俺たちの戦いはこれからだで、この話は終わる。
だってハワイはハワイでも、市内にあるハワイセンターへの旅行券(入湯券)だったからである。ネタが割れればあとはおざなり。終わり悪ければすべて悪し。
とんだ出落ちもあんたもんである。まる。
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