第683話 デトックスで九尾なのじゃ

 なぜ世の中の女性たちは、素直にダイエットしていると言わないのだろう。

 いやまぁ、自分で容姿に対してコンプレックスを持っていると喧伝するようなことをする訳がないか。

 そういう理屈というか心理はよく分かる。


 けれども、言い方を変えればどうにかなるってもんでもないだろう。


「のじゃ。いま、わらわの中に毒素が溜まっちゃってる感じなのじゃ。これ以上毒素が溜まってはいけないので、ごはんはちょっとこれから控えめにするのじゃ」


「なるほど生態濃縮と言う奴だな?」


「……せいたいのうじゅく? まぁ、たぶん、そういう奴なのじゃ」


 ふぐ毒とかができあがるやーつである。

 割と野生な加代さんだが、どうやら彼女は知らんようだった。


 生態環境によって、本来毒を持たないはずの個体が、環境から毒素を取り込み、結果として毒を持つ奴。

 つまるところ逆デトックスみたいな現象だ。


 そんな話をしているのに、食いついてこないあたり。

 どうやら、加代さんの今回のデトックス話は、その名を借りた別物。


 つまるところただのダイエットだと俺の中で解釈された。


 冒頭に戻ろう。


 どうして、ダイエットしていると素直に言うことができないのか。

 わかってやれよ女心というものだが、ちょっと面倒くさいというのが本音だった。もうちょっとなんかこう、腹を割って話してくれてもいいだろうに。


 ダイエットだけに。


「まぁ、別に俺は止めはしないよ。それは加代さんの自由だから」


「のじゃぁ!! 止める止めないとかではなくてのう、こう、毒がやっぱり体の中に溜まっていくのはよくないことだと思うのじゃ!!」


「はいはい、よくないよくない」


「話半分で返事をするでない!! わらわは割と真剣に考えておるのじゃ!!」


 真剣ねぇ。

 本当に真剣ならば、ジムとか通うと思うんだけれど。


 なんというか、加代さんも日和ったなぁ。

 昔の加代さんはなんていうか、目的のためならば手段を択ばない、動物としてギラついている側面がなきにしもあらずだった。


 けれども、やはり人間社会で暮らす性という奴かね。

 仕方ない側面という奴かね。


 デトックスとか言いだしちゃってまぁ。


 どれだけ人間世界に毒されているというのだろうか。


 俺は思わず眉間を押さえた。

 九尾としての心を忘れてしまった加代さんに眉間を押さえた。

 ただの乙女と化した加代さんに眉間を押さえた。


 はぁと漏れ出すため息。

 なんじゃその反応はと加代さんがこちらを睨む。


 彼女は彼女で真剣なのだろう。

 それを笑ってやるのはよくないことだ。

 そうだな、この小説はお気楽コメディでていけあんたは九尾さん――。


「まっ、いいんじゃないの。なんにしても健康になるのは悪いことじゃない。加代さんも女の子なんだし、いい歳なんだし、もしかしたらそういうこともあるかもしれない。今の内から体に気を遣うのは悪いことじゃないさ」


 ナチュラルなセクハラ返し。

 それで、落としどころとしよう。


 何を言うておるのじゃ桜、このたわけ。

 ふははという、いつもの鉄板オチですな。


 はいはい、たわけたわけとかわそうとした時――。


 加代さんが顔を真っ赤にして、口元を手の甲で隠した。


 視線は斜めに逸れている。

 俺の顔を直視できないという感じだ。


 え、ちょっと、まさか――。


「そ、その。最近ちょっと、月のものが来なくてのう――」


「――マジで?」


 デトックスするわ。


 そりゃ、九尾じゃなくても、デトックスしなくてはいけないものですわ。

 生まれてくる新たな命のために、体に気を遣うのは仕方ない話ですわ。


 けど、ちょっと待って。


「俺、ちゃんとゴムデトックスしてたよね!?」


「のじゃぁ!! ゴムデトックスをしていても、できる時はできるものじゃと聞いたのじゃ!!」


 マジかよフォックス!!

 おめでてえけど、ちょっと予想外だよ。


 え、ちょっと、ほんとまって。


 まだ実感が。


「俺が、ついに、お父さんか――」


 デトックス。

 これは俺も本格的に加代さんに協力しないといけないかもしれないな。


 家族として。

 親として。


 いつまでも尖ったままじゃいられないもんなぁ。


◇ ◇ ◇ ◇


「……すまんのじゃ桜。なんかちょっと、周期ずれただけで、普通に来たのじゃ」


「……ぬか喜びフォックス!!」

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