第681話 レアリティアップで九尾なのじゃ

 異世界転移によりスマホが使えなくなり、連続ログイン日数が中断された俺のMGO。

 けれども、一度始めたソシャゲはそう簡単にやめられないのが世の理。


 課金額を見よ――と、できないのが申し訳ないけれど、普通にガチャで集めたキャラクターの多さや、育成したキャラクターの多さから、軽率なことはできない。


 もはや、俺がMGOを止めるのは、公式がサービス終了を宣言した時だけだろう。

 まぁ、それでなくてもいまやすっかりとおじさん脳の俺には、こういうカジュアルライトなゲームしかできないのだが。


 いやはや、がっつりゲームを楽しむ余力を、持てなくなったのはいつの日か。


 とか、そういう郷愁話じゃない。


「ついに――神聖解放タマちゃん、紅白めでたいコスチューム実装だと!!」


 ということである。

 そう、MGOにおける俺の押しキャラ。

 低レアリティなのに愛され育成枠。


 スキルはそこそこ使えない、戦闘能力も微妙だけれど、愛と課金で何とかなる俺たちのアイドル。


 そんなちょっと難ありキャラクター。

 タマちゃんが、ついにイベントでスポットライトを浴びた。

 いわゆる、イベント限定グラ実装という奴である。


 しかも配布キャラクター。

 これは滾る。


「くっ、俺たちの金がついにタマちゃんをレアリティアップさせたか。胸熱だな」


 俺たちの金でアイドルがライブ開いたくらいの熱さだ。

 レアリティはイベント配布恒例の、上から二番目のものだが、最低レアリティの彼女がここまでパワーアップされるのは素直に嬉しい。


 たまちゃん――強くなったな。

 性能も使いやすくなっていて、これでポンコツとはいわせないのじゃとか、そんな感じになってくれると嬉しい。いや、まだイベント始まってないのでなんとも言えないけど。


「なんにしても、祝い課金の準備を進めねばならないようだな」


「……何をたわけたことを言っておるのじゃ」


 と、隣で俺のスマホを見ていた加代さん。

 たぶん、現実世界でのレアリティはタマちゃんと同じで最低レベル。


 仮想世界のポンコツキャラは愛されで片付けることができるけれど、現実世界のポンコツキャラはなんも言うことができねえのじゃ。そんな感じのオキツネさまだ。

 加代ちゃんとタマちゃん、どうしてここまで差が出てしまったのか。


 まぁ、現実逃避はこの辺りで。


「俺たちの金でタマちゃんがレアリティアップしたんだよ。それでこう、今、万感の思いに打ちひしがれていたと、そういう訳なんだな」


「のじゃ。ドル箱コンテンツの人気キャラクターとは因果なものよのう。シンデレラ効果という奴か。俺だけがこの娘の良さを知っているんだという奴で、いったいどれだけの男を虜にしたのやら」


「やめてくれるか加代さん!! タマちゃんはな、課金しなくても出るガチャ専用の低レア雑魚キャラクターなんだ!! むしろ、課金にはまったくといって寄与しない、MGOの戦略外キャラクターなんだ!!」


「やってないからそんな強弁されても分からんのじゃ」


 春夏のイベントごとに大量発生する、メインヒロイン顔とは違うんだ。

 エックス始末剣ジェット三段突き喰らわすぞ。ちくしょう、とにかくタマちゃんはそういうんじゃないんだよ。


 タマちゃんは、重課金クソゲーと言われたMGOの良心。

 そう言っても過言ではないんだよなあ。


 のそのそと俺の隣にすり足で移動して、スマホの中身を覗き込む加代。むっと、その眉間に皴が寄るのを、スマホの画面の照り返し越しに俺は確認した。

 その表情。

 明らかに意識している。


 やれやれ、加代さん、ゲームのキャラに嫉妬とは。

 かわいらしい所もあるじゃないか。

 心配しなくても、ゲームはゲーム。課金はするけど、そんなリアルの大切な人をおろそかにするほど、俺も落ちぶれちゃいないっての。


 そう、なんやかんや言っても、俺は低レアの加代さんのことが――。


「……なるほど、紅白コスチュームというが、ありていに言ってサンタのコスプレということじゃのう。そろそろクリスマスじゃものな」


「まぁ、そうだけど。けどまぁ、そこはほら、運営のしゃれっ気というか」


「しかし、桜も好きよな。現実でもコスプレを求め、仮想でもコスプレを求め」


「違う、そういうんじゃない。というか、そういう文化じゃないからこれ」


「……クリスマスは、わらわもこんな感じにした方がええかのう? しかし、こんなきわどい格好はその」


「だからそういうんじゃないって言っているじゃんか」


 俺の性癖とそこは切り分けてフォックス。


 そういう意図でこのゲームやっている訳じゃないから。

 コスチュームが変わることになんかこう喜びを感じている訳じゃないから。


 いや、喜びを感じているけれど、そういう趣味からくる喜びじゃないから。


 そもそも――。


「俺の趣味の話に飛び火させないでフォックス」


 いたたまれないから。

 こちらとしてもいたたまれないから。


 フォックス。(もう何も言えない)

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