第677話 保険見直しで九尾なのじゃ

 え、このタイトル二回目じゃない。


「なんか初期の方で、こんなネタやったような気がするのだけれど」


「のじゃのじゃ、気のせいなのじゃ」


 いや、気のせいじゃない感じじゃない?


 確か保険金の受取先を、加代さんにするとかしないとかで、もめた感じの話があったじゃないのよ。最初の頃は、それほど文章量もなくてさっくりと落ちる感じの話だったじゃないの。


 懐かしいな、あの頃は。

 もう、かれこれ――四年前になるのか。


「そりゃ、そろそろ保険を見直そうかと、そういう話も出てきますわ」


「のじゃ。保険も何年か経つと見直しが必要になるのじゃ。家族構成、ライフスタイルの変化。その時々に応じて、必要なプランに変える必要があるのじゃ」


「けどまぁ、言うて中途半端な年齢で他の会社に移ると、不利になったりするんですけれどね」


 保険あるあるである。

 見直した方がお得なのか、継続した方がお得なのか。

 そこのところはトレードオフ。まぁ、それこそ本当に、見直し・再検討が必要な部分になってくる。


 いつぞやのようにスーツ姿の加代さん。

 昼間のダイコンオフィスにやって来た彼女は、来客ブースを借りて俺にさっそく今入っている保険についての説明を始めた。


「のじゃのじゃ、まずはこの死亡特約についてなのじゃが」


「あぁ、まぁ、高いよね。そんな滅多に死ぬことなんてない訳だし。ここまでいらないんじゃないのとはちょっと思ったりするよね」


「のじゃぁ。その通りなのじゃ。けれども、保険の基幹は何といってもこれなのじゃ。外せないのが歯がゆいのう」


 共済とかにしてしまえば、そこそこに抑えて、病気とかの場合のみに絞ることもできるのだけれど――そういう抜本的な見直しじゃないのよね、これ。

 あくまで目の前の保険員狐さんとのやり取りなわけで。


 まぁ、これはしゃーなし。

 死亡特約は横に置いて次の項目の見直しに入った。


「次は三大疾病か」


「ガン、脳卒中、心筋梗塞。働き盛りの桜には外すに外せない項目なのじゃ」


「煙草はやめたからガンはともかく、後ろ二つは重労働者と切っても切れない病気だからなぁ。正直、こいつも外したくても外せない内容だよな」


「のじゃのじゃ」


 一時見舞金でそこそこの額が出るのは助かる。

 傷病手当などもあるだろうけれど、この手の病気にかかったら、その後の生活に苦労するのは目に見えている。こいつについても外すに外せない。


 まぁ、だいたい保険屋というのは、痛い所をついてきてこういうのを払うのを渋るもんだけれども、それはそれ。

 念には念をという所である。


「となると、他のオプション的な所だよな」


「いろいろと働けなくなった時の保険があるがのう、やはり、オプション部分はがっつりお高めに設定されているのじゃ。ここの所をしっかり見直して、いい感じにマッチさせていくしかないのう」


 障害、事故、精神系の病気、介護、教育、扶養、エトセトラ。

 いろいろな要素はあるけれど、この中から最適なバランスを選ぶ。


 人生というのは生きているだけでリスクを背負っているようなもの。

 その中で、自分に一番縁が深そうなものに手厚く保障を当てる。


 やはりリスクヘッジは大切だ。


「……加代さんみたいに、不死身の身体だったら、こんなことは必要ないんだけれどな」


 と、こればっかりは、加代さんにあこがれる。

 いつもいつもクビになってのじゃぁという感じの彼女だけれど、元気だということについてはうらやましい。


 俺も死なない体になりたいものだ。

 そんなことを思っていると――。


「のじゃぁ、それでも、病気にならない訳じゃないし、そもそも死亡保険と三大疾病は、どこの保険も外せないから」


「……あ、ごめん」


 死なない体で入れる保険はない。

 共済だって、安くなるとは言っても、そこは基本外せない。


 自分に一番必要ないものに、絶対にお金を払わなくてはいけない。

 このオキツネ、意外と苦労しているのは知っていたが、こんな所でも苦労しているとはと、俺は憐憫の視線を送った。


 うぅむ。


 不老不死ってのも、考えようによっては大変なんだな、フォックス。


「のじゃ、そして、あんまりにも老けないと、不審がられるから定期的に保険を変えて、その度に保険料が高く」


「おーけー加代さん、やめよう、これ以上。話が長くなっちゃう」


 昼休みが終わっちゃうよフォックス。

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