第674話 桜を見守る会で九尾なのじゃ

 時事ネタだなァ。


 もうこの話が投稿される頃には、何かしらの結論がでているのだろうか。


 いや、投稿ってなんだ、意味がわからん。

 あぁ、メタいメタい。


 とにもかくにも冬だというのに桜だなんだと騒がしい。そんなに公費で桜を見るのが問題なのかと軽くいってしまうのは簡単だけれど、いろいろなしがらみがあるんだから軽率なことは言えない。


 世の中ってのは難しいのじゃぁ。

 と、加代さんでもないけど言いたくなってしまうというもの。


 そして、そんな世間のどうでもいい騒ぎっぷりとは相反して――。


「のじゃ、最近の桜はなんだかちょっといい感じなのじゃァ」


「転職してからちょっと調子崩していたみたいだけれど、ようやく仕事にも慣れて来たという感じだなぁ。うむ、流石はワシの息子」


「ダイコンさんにはちゃんとお礼言っておくのよ。アンタね、ろくに学もないってのにあんな一流企業に就職できたのは、どう考えてもダイコンさんの口添えのおかげなんだから」


 うちもなんか不穏なことになっていた。


 うむ。


「……なに、この集まり?」


 家に帰って来て、冷蔵庫で冷やしてあったビールを飲んで、それでもってテレビ見ながらぼへーとしてたら集まってきた加代さんたち。

 みな、各々湯飲みなど持って、俺の隣に座るなり、妙なことを喋り出した。


 そう、まるで保護者のように。

 口うるさい保護者のように。


 俺、もう三十歳を越えているんですが、なんでそんな保護者面をされなくちゃいけないのでしょうか。そんでもって、加代さんもその中にしれっと混じっているのでしょうか。


 意味が分からない。


 むすりと頬を膨らませて俺はビールを飲む。

 無視だ無視。こういうのは無視してしまうに限る。

 俺は忙しいのだ。明日も仕事があるのだ。加代さんはともかくとして、楽隠居している両親二人にとやかくと言われる筋合いはないのだ。


 ぐびぐび。(珍しい効果音)


 なんて感じで軽く流してみたつもりなのだが、これに加代さん、何故だかいきなり食ってかかってきた。いつになく、真剣な表情である。


「のじゃ、桜よ、なんなのじゃ。人がせっかくお主のことを見守ってあげているというのに」


「そうだそうだ。桜よ、お前はこの家族の愛情が分からないほどに冷血人間なのか」


「桜のように温かい子に成れと思って名を付けたというのに。とんだ親不孝ものだよアンタは」


「……いや、なんなのさっきから皆して!? こっちが何事と聞き返したいところなんだけれども!? というか、そういう意味で俺の名前って付けられたの!?」


 春のように温かい子には残念ながらなれなかった。

 それについては申し訳なく思っている。

 親の期待に応えられない、駄目な子供で申し訳ないなと思っている。


 けれども、この流れについては理解できない。

 なんなのいったいもう。俺、なにか悪いことでもした。


 その時、居間へと続く襖が開く。

 出てきたのは、我が家のごくつぶし。


 風呂に入り終えて、さっぱりとした顔をした黒騎士どのことシュラトである。


 彼は流し目で俺を一瞥すると四人の輪の中に入る。

 いや、俺を囲むようにして座り込む。


 そして、手に持っていた一升瓶をどんと畳に置いた。


 銘は美青年。

 お前がそれを呑むと、なんというか厭味だね。

 年齢的には俺とそこまで変わらないってのによ。なにか、それがお前の異世界特典という奴か。うらやましくねえが、ちとイラっと来た。


「ふむ、今宵はなかなかよい桜。しかしながら、少々ご機嫌ななめと見た」


「そらなぁ。ごく潰しがいきなり酒瓶持って隣に座ってくりゃ、ご機嫌だって斜めも斜め、直角近く傾くだろうよ」


「……桜どのはニホンシューは飲まないのか? これはなかなか新鮮な味覚で私も気に入っている。特にこの美青年というのは、名前的にも味的にも、この私にぴったりだ」


「自分で言っちゃいますか、それを自分で言っちゃいますか、シュラトくん。よし、二度とそんなことが言えないようにしてやろうか」


 口的にも、トラウマ的にも、顔面的にも。


 プログラマーの細腕を舐めるなよと拳を鳴らす俺。

 おっと、野蛮なことはよしたまえよと、すっかり異世界での気骨を抜かれて、ひよったことを言うシュラト。


 すわ大げんか。

 寺内桜一家かという所に。


「なのー、なのもお兄ちゃんを見守るの!!」


 天使がとてとてとやってくる。

 なのちゃんがパジャマ姿で、俺の方へとやって来てちょこなんと目前に座った。


 くっ。

 子供の前で暴力はまずい。

 今日ばかりは、なのちゃんのおかげで命拾いしたな、シュラトよ。


 と、ここでようやくネタが割れる――。


「なるほど、桜を見る会ならぬ、桜を見守る会ということか」


「のじゃのじゃ。まぁ、今日は帰りが遅かったので、テレビを見てたら一つからかってやろうかと」


「ほれ、お前もなんだかんだ言って、まだまだ手のかかる息子だろう」


「やっぱりねぇ、三十過ぎても結婚せずに家に居るってのは心配なのよ」


「それでなくても桜どのは我が家の稼ぎ頭」


「わからないけど、面白そうなのー!!」


 なるほどなるほど。

 テレビを見ている流れでこうなった訳ね。


 まぁ、そうね。時事ネタは鮮度が命だものね。


 二か月遅れでも、乗っかっておくのはありだろうかもね。


 けど――。


「俺よりもっと見守るべき奴らがいるだろ!! クビになり過ぎてほぼ無職!! それに輪をかけて定年して無職!! 割としっかり者、とくに監視の必要ない無職!! もうお前、いい加減にしろなに酒飲んでんだ無職!! あと、普通に見守らなくちゃいけない子供!!」


「「「「「またまたー」」」」」


 またまたじゃねえよ。


 お前らの方が、よっぽど見守られる対象だよ。

 なのに、何を人を見守っているんだ、フォックス。

 時事ネタにしたって、もうちょっと毒のある切り返し――。


「ちなみに桜家の苗字についてこれまでずっと気になっていたのじゃが、まさか」


「やめろ、無理にブラックにこのネタをしなくていいから」


 そんな今更、設定無いのをいいことに妙なブラックユーモアに苗字を使わないでフォックス。せっかくいい感じで連載続いているのに、不穏なネタで社会的な配慮から打ち切りとか勘弁してフォックス。

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