第673話 青と白ので九尾なのじゃ

 仕事帰りにソフ〇ップに来たぞ。

 なんかこう、大手家電量販店と資本提携だったか、合併したのだったか、それからやけにオタク以外にもご用達になったお店、ソフ〇ップに来たぞ。


 いや別に、欲しいものなぞ特にある訳じゃない。


「週末にデジモノウィンドウショッピングはシステムエンジニアの宿業」


 そう、意味もないのにソフ〇ップによってしまう。

 電気街に行ってしまう。


 それはもはや病気のごときものだった。

 だって俺たち、好きでこの業界に入った人間なのだから。新しいガジェットを見ると、発作的に買っちゃうような人種だから。


 そして何も買わずに帰ってくるのだから――実質消費ゼロ。


 なんてお手軽な趣味なのだろうと、我ながらちょっと感心してしまった。

 いやはや、人間このように清貧につつましやかに生きたいものである。


 まぁ、それはそれとして。


「……ソフ〇ップに、例のグラビアスペースができておる」


 そう、あの、例のグラビアスペースである。

 ともすると例のあのプールと同じくらいに、男のスケベ脳細胞に刻みつけられたパティーン。例のグラビアスペースである。


 どうしてそんなものがこんなところに。

 そりゃもちろん、グラビアの撮影をするのに決まっているじゃないか。

 けれどもそういうのってもっとこう、関東の方でやるとか、人の多い時間でやるとか、そういうのがあるんじゃないのか。


 どうして俺が寄ったソフマップ――阪内でもちょっとマニアックな小規模店で、それをやろうとするのか。そして、俺が帰宅するタイミング――残業一時間強――で、やってくるのか。


 もはや、フリ意外に考えられない。

 そしてそうなると、身内のえらいかっこうを仕事帰りに見せつけられることが濃厚。そんな週末は勘弁してくれと、ちょっと気構えてしまうのだった。


 いやいや、気のせい気のせい。

 最近一緒の職場で働くことがなくなったから、彼女の普段の動向が分からないけれど、そんなグラビアアイドル業なんてやっていないって。そもそも、彼女は女優指向だったじゃないか。


 うん、加代さんはそんなことしない。


 それでなくても三千歳だぞ。

 マニアックボディ過ぎるわ。

 巨乳だったらまだしも、貧乳だぞ。

 のじゃロリでもない、普通ののじゃキツネ娘だぞ。


 そんなん俺くらいしか需要ないわ。


 さ、安心してデジモノウィンドウショッピングをしよう。そう思って、グラビアスペースから目を背けた――そのと時。


「さぁ、それでは本日のイベント、グラビア撮影会をはじめたいと思います。今日のグラビア嬢はこの方――バラエティ番組でひっぱりだこ。今を時めくひな壇芸人、加代ちゃんさんです」


「のじゃのじゃー、よろしくお願いしますなのじゃー」


 KAYOCHAN。


 もう分かってたよ、KAYOCHAN。

 そういう流れだろうなって、感じていたよKAYOCHAN。

 けれども気まずいよKAYOCHAN。

 同棲相手がグラビアアイドルって、精神的にきついよKAYOCHAN。

 そして、お前本当に仕事を選べよKAYOCHAN。


 今年で、何歳だと思っているんだ。


「ありよりのなしなうわきつ!!」


「微妙BBA!!」


「貧乳、貧乳、ステータスじゃない貧乳!!」


「ロリ成分どうしたぁ!! それでも主人公か!!」


「おいおい、アイツ死んだわ(主人公的に)」


 ひどい罵詈雑言が飛ぶ。

 加代さんが、ヒロインとしてはあまりにポンコツ、使い物にならないスペックなのは分かり切っていたことだが、それにしたってあんまりな罵詈雑言が、あちらこちらからと矢のように飛んでくる。


 お前ら、よくそんなことを人に向かって言うことができるな。

 流石はソフ〇ップにやってくるギーク野郎ども、血も涙もない人の心の分からぬ奴らということか。


 おのれ、許さん!!


 同棲している俺ならともかく、他の人間が加代さんのことをどうこうというのは捨て置けない。いわんや、それが確かに事実だとしても、ただしい世間の理解だとしてもだ。


 それに、加代さんはそういうポンコツスペックを含めていとおしいのだ。


 俺はおもちゃコーナーで早速よく分からない平成ライ〇ーのベルトを買う。

 そして、よくわからないテンションで、グラビアスペースに突撃した。


「さ、桜ぁ!?」


「うぉおおおっ!! 加代さん、待ってろ今助ける!! 俺がお前を助けてやる!!」


 俺の性癖が、加代ちゃんの未来を救うと信じて――。


◇ ◇ ◇ ◇


「え、ドラマの撮影?」


「のじゃぁ。炎上グラビアアイドルの役を貰って、それをやってただけなのじゃ。人気のない所を選んだのは、その方が演技がしやすいからなのじゃ」


「なんだー、炎上グラビアアイドルの演技だったのかー。びっくりしたー」


 すぐに出てきたライオンディレクターたち、いつものメンバー。


 なるほど加代さん。

 そりゃグラビア撮影なんて、おかしな仕事をしているもんだと思ったわけだ。

 ネタが分かればどうってことない、いつもの汚れお仕事であった。


 はっはっは、そうだわなそうだわな。

 よく考えれば分かる話だわな。


「加代さんにグラビアのお仕事だなんて。見るとこどこにもすっとこどいなのに、ある訳がないわな」


「……さくりゃあ!!」

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