第666話 料理に凝りだすのは暇な証拠で九尾なのじゃ
「スコーンを造ってみたんだ」
「……おぉう、これは本格的なスコーン。思わず、連呼して踊りだしたくなるような、立派なスコーン。この黄色そして鼻に届く強烈なBBQの香り。間違いない」
コイケ〇スコーン。
まるっとさくっとおいしス〇ーン。
俺たち世代の胃袋を直撃する悪魔的おかし。
って、なんでやねん。
「お前、スコーン言うたらあれだろう!! なんていうか、ちょっとこうジャムとか塗って、紅茶とか飲みながら食べるあれだろう!! なんでこっち作った!!」
「クック〇ッドにレシピが載っていたから」
「載ってるわけねえだろ!! なんのサイト見たんだ!! けど、すごい完成度!! 昔食べた味!! 懐かしい!! ちくしょう!!」
最近どこ行っても見ないんだよね。
いや、どこ行くって言っても、コンビニしか行かないから、しかたないんだけど。
ちくしょう。しかし、悔しい。シュラトの手作り料理に、こんな涙を流して喜ぶことになるだなんて。
シュラトが料理に目覚めた。
まぁ、隠居した爺さんや時間を持て余したニートが陥りがちなのがこのお菓子作りという趣味だ。別に悪いことではない。それで少しでも規則正しい生活やら、生きる意味やら見出してくれるなら御の字というものだろう。
案外こういう所から、人間って言うのは復帰していくのかもしれんね。
とか思いながらスコーンをむさぼっていると。
「うま〇棒も作ってみたんだ。ベビー〇ターもあるぞ」
「なんでさっきから作るのに専用の工場が要りそうなお菓子ばかりなんだよ」
「……クックパッ〇に載っていたから」
「載ってるわけねえだろ!! 百科事典かよ!! Wikiでも載ってないわ、駄菓子の製造方法なんて!! 特許だよ特許!!」
これまた懐かしいものが出てきた。
うま〇棒にベビー〇ター。大人になっても忘れない味。むしろ、大人だからこそ食べる味。コンビニとかで見かけると、ちょっと手を伸ばしてしまう感じの駄菓子だった。
ちくしょう、お前、これは逆に難易度が高いぞ。
よくもまぁ、こんなものをさらっと作ってみせたなフォックス。
手作り感まったくなし、工場直送って感じじゃねえか。
「これ本当に作ったのか!? コンビニで適当に買ってきて、それを出しただけじゃないのか!?」
「うまい〇は今や懐かしい餃子味、ベビース〇ーはオリジナルの汁なしタンタンメン味だ」
「ちくしょう本物だ!! 正真正銘のハンドメイド駄菓子だ!!」
そんでもって美味しい。
すこぶる美味しい。
これはなんか普通につまみでもいけますよという、そんな感じの味がする。
やってくれるのうシュラト。腕をあげたのうシュラト。
隣でなのちゃんもはむはむむしゃむしゃと子供っぽく貪っている。ドラコもだ。子供をここまで夢中にさせるとか、なかなかできることではない。
シュラト――やはりただものではない。
そして、なぜそのスキルを、前に菓子メーカーで務めた時に発揮しないのか。
本当に残念騎士だなお前って奴はよう。
そう言いながら、俺は出された駄菓子をぺろりと平らげた。
「いやー、なかなかのお味でございました。やるなシュラトの」
「クック〇ッドに載っていたからな。レシピ通りにやるだけだから簡単なものだ」
「いや、だから、お前のクック〇ッドはどこのサーバーにあるんだよ。絶対にいろんな駄菓子会社の法務から苦情受けてるぞ」
「まぁ、なんにしても料理というのはいいものだな。あちらの世界でも、こちらの世界でも共通して行える唯一のこと。案外、料理人になるのも悪くない」
それは自信を持ち過ぎだろう。
しかしながら、ちょっとばかり働く気持ちが出てきてくれたようでよかった。
これで、カフェでアルバイトでも始めてくれれば御の字なのだけれど――。
「ところで、父さんも料理をはじめてみたんだ」
「おい。裸エプロンで出てくるな、いい歳したおっさん。年金受給前に墓に入りたいのか?」
「トマトパスタになります」
「出た出た。男の料理、パスタ。しかもね、トマトパスタって――パスタの上にトマトが載ってるだけなのじゃ!! トマトオンパスタなのじゃ!!」
「ところで、
「加代さん。いや、料理をはじめてもなにも、アンタ割といつも」
「あぶりゃげミルフィーユになります」
「何層にも重ねられた油揚げからしみ出すみりんの甘み!! どこまでもはてしなく甘い!! これはもう、総菜にあらず!! お菓子――って、おはーっ!!」
なにやってんだ親父に加代さん。
なんで二人して、シュラトと一緒に料理しているのだ。
あ、まさかこいつら。
「……早期退職して暇だったので」
「……のじゃ、就職先が決まらなくて暇だったので」
「うぅん!! 我が家の収入状況がブラックマンデー!!」
菓子作っている場合じゃないでしょう、フォックス。
お前らは、現地人なんだからちゃんと仕事しなさいな。
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