第623話 逆襲のコンビニで九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


「一週間後見せてあげるのじゃ!! 本当のクビになる芸という奴を!!」


 美味しん〇のノリ。

 そんな感じで、クビになる芸を披露することを宣言した加代さん。


 久しぶりの加代さんクビになる劇場始まります。


◇ ◇ ◇ ◇


「ふぅ。貯めておいた開業資金をつぎ込んで、ついに開くことができたのじゃ。狐のコンビニ、コンコンマート」


「……苦労したなァ、加代さん」


 赤と緑でもなく、緑でもなく、青と白でもない。


 黄一色の看板。

 そこにコンコンマートとカタカナで書かれたそここそは、加代さんの新しい職場に他ならなかった。


 そう、キツネのコンビニコンコンマートである。


 さぁさぁ、入るのじゃ入るのじゃと俺の手を引く加代さん。

 すると軽快な入店音が天井から木霊する。


『あぶりゃーげ、あぶりゃーげじゃよー』


「おっ、これは耳に残るメロディ。一発で、コンコンマートを覚えて貰える、粋なはからいだねぇ」


「のじゃぁ、この初音〇クが歌にしそうなメロディーを奏でるために、たいそう苦労したものなのじゃ」


 流石加代ちゃん。

 無駄な所に金をかけてるぅ。


 そういう所が実に駄女狐。

 なにをやっても、最後に「のじゃー」しちゃう、ポンコツオキツネの感だ。


 いやはや、ここ数か月の異世界生活ですっかりとさび付いていたと思ったけれど、まだまだ鈍っておりませんね。


 流石だ加代ちゃん、さすがだ。


「おっと、ホットスナック。コンコンマートではいったい何を売っているのかなぁ?」


「一口サイズのあぶりゃげくんに、ずっしり重たい肉厚あぶりゃーげを更にフライでカラッと揚げたアブリャゲなのじゃ。期間限定で、胡椒マシマシにしたアブリャゲブラックペッパー味も発売中なのじゃ」


「うーん、この、キツネのことしか考えていない品ぞろえ!! ほれぼれする!!」


 お弁当コーナーは、おにぎりはどうなってるのと見てみれば、案の定いなりずししか置いていない。

 パンコーナーも、よく見ると全部あげぱんになっていた。


 さらにさらに、お菓子コーナーはといえば、ポテトチップスの代わりにあぶりゃげチップス。ガムの代わりに細切れあぶりゃげ。かば焼き〇太郎の代わりに、アブリャーゲを焼いて薄く伸ばしたものである。


 見事、あまりにも見事。


 狐の夢と希望を詰め込んだ、わがまま商品ばかりである。

 こんなの狐だったら通うしかない――。


 人間だったら微妙だけれど。


「……加代ちゃん」


「……のじゃ」


「……ちなみにアルバイトさんの募集は?」


「……しばらくわらわがワンオペで頑張るしかないのじゃ。このご時世、なかなかこのお給料じゃやってきくれる人も少ないのじゃ」


 壁には、時給あぶりゃーげ二枚と書かれた張り紙。


 分かってるね。

 ツボ抑えてるね。


 絶妙なその殺し文句に相槌を打ちつつ、俺は笑顔で加代さんを見た。

 その笑顔に加代さんも応えてくれる。


「オーナーになれば、クビになることもないのじゃ。えへんぷい」


「その前に、こんな店一週間でつぶれるってーの」


「……うふふふふ」


「……あはははは」


 独自路線に走らずに、ちゃんとFC店にしておけフォックス。

 ある程度の見込み客もあるってーのに、なにをこんなバカげたことにお金を使っているんだ。


 クビになる芸が錆びてないと言ったな、あれは嘘だ。


「もうちょっと話のスケール考えてフォックス!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る