第618話 異世界で本気出す方法で九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
異世界チート転生特典ついていたら、流石にちょっと本気は出せない。
今どきの転生者は、こっちもあっちも軟弱なのであった。
「……本気出してなかったから、なんも言えねぇ」
「同じくなのじゃ」
◇ ◇ ◇ ◇
「それじゃ、つまりシュラトの奴を一人暮らしさせて、俺たちというチートキャラから隔離すれば、あいつは覚醒するということか?」
「いや、それじゃ無理だろう。一人暮らしさせている時点で、アイツはそこにあぐらをかくに違いない。そのような逆境では、男は目覚めない」
「……逆境!!」
そう、逆境である!!
男は逆境の中に身を置かれて、初めて強くなることができるのである!!
逆境!! 逆境!! 逆境に次ぐ、逆境!!
男の成長には、越えなければならない壁と、戦わなければならない敵が必要なのだ!! 故に男は強くなり、異世界において話は盛り上がるのだ!!
「そして、逆境言うても目的がないとそれは産まれへん。目的に向かって進むからこそ、逆境が発生する」
「……目的なのじゃ!!」
そう、目的である!!
男は目的があるからこそ頑張ることができるのである!!
ハーレム!! チート!! ラッキースケベ!! 合法ロリ!! BBA!!
何を言っているか分からないが、とにかく異世界に求めるものがあるから頑張れるのである。そして、それを阻害する逆境が現れるから燃えるのである。
目的、逆境、そして――努力と勝利、エッセンスに友情。
これが整っていないというのに、異世界で頑張ろうという気になれるだろうか。
ダイコンタロウの主張はもっともだった。もっとも過ぎて、俺の心にぐさりと刺さった。まるで16R確定演出みたいにぐさりと刺さった。
ちくしょう。もっともだぜダイコンタロウ。
「俺たちもあっちの世界で、目的があやふやなせいでにっちもさっちもいかなかったものな。そらそうだ、よく考えれば誰でも分かること」
「せや。まず、初めにはっきりさせやないかんのは、シュラトやんがこの世界にやってきて、いったい何をせなならんのかや。それがはっきりせん限り、そりゃやる気にもなれやしまへんで」
「のじゃぁ、なるほどのう。確かに、
目的がないから頑張ることができない。
大いにその感覚は分かった。
シュラトに必要なのは、この異世界で何を成さなければならないのかという、そういう意識なのである。それがあれば、あの真面目な黒騎士は、多少の理不尽でも我慢して立ち上がってくれることだろう。
そう、信じている。
シュラトはやればできる男の子なのだ。
暗黒大陸の黒騎士さまなのだ。
「のじゃぁ。では、そもそもシュラトがこっちの世界に異世界転移した理由について知るべきではないのかのう」
「そうだな。やっぱり、結論としてはそこに落ち着いてしまうよな」
「まぁ、しごくまっとうに考えて、そういう話になるやろうな」
俺たちは空を見上げる。
巨大なビルディング。ガラス張りになって大阪の澱んだ空と、汚れた街並みを一望できるそこで、俺たちはふと窓辺に寄った。
太陽は西の方向。
少し眩しい。
薄い雲がたなびくそこに向かって、俺たちは声を張り上げる。
当然高層ビルである。ビル風を警戒して窓は嵌め殺してあり、開けることはできないし、音だって漏れやしない。
どこにも行く当てのない叫びだったが、それでも、叫ばずにはいられなかった。
駄女神、と。
「オラァっ!! 駄女神!! 黙ってないで出て来いや!!」
「のじゃぁっ!! シュラトだけじゃなく、なのちゃんまでこっちに送りつけて!! どういうつもりなのじゃ!! 人外の女の子がこっちの世界で生きていくのは意外としんどいのじゃぞ!! ちょっとは考えて異世界転生するのじゃたわけ!!」
「なんでワイには一緒に転移する人をつけてくれへんかったんや!! 異世界奴隷少女とか一緒に付けてくれて、ワイがこれからは彼女を保護するんやって言うエモい展開になったかもしれへんやろ!! そういうとこやで、駄女神オイ!!」
駄女神ディス・イン・ザ・現実世界。
空に向かって罵詈雑言を浴びせてみれば、雲の切れ間から光が差す。
その合間から現れた赤髪の女神は――。
「誰が駄女神じゃ、この野郎馬鹿野郎、この野郎!! アネモネちゃんかて、一生懸命やっとるやないかい!! むしろ、この美味しい展開をちゃんと調理することのできないお前らの方がポンコツやないかい、わいやい、ないやい!!」
異世界転移を司るお女神様。
アネモネちゃんであった。
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