第617話 わかるで、ダイコンやからなで九尾なのじゃ
「わかるで、ダイコンやからな」
「わかるのかダイコン!!」
「のじゃぁ!! ダイコン、なんとかしてやってたもれ!!
強固なる働かない意志。
あれだけ家族の面々から、働いてくれと懇願されたのにも関わらず、働くことに抵抗を示すシュラトに、俺たちはどうしていいか分からなくなって、助けを求めた。
この手の事には割と理解のありそうな、異世界転移仲間――ダイコン太郎を呼び出して、どうしたらいいだろうかと相談したのだった。
するとこの頼りがいのある返事である。
流石は異世界に転移する前は、大企業の社長をやっていた男である。
そして、異世界でほぼニートみたいなダイコン生活をしていた男である。
二重の意味で彼の言葉には重みがあった。
「まぁ、なんやな。異世界に転移した自分はスペシャルな存在であるというそういう意識が強いんやろたぶん。転移したこと自体に意味を求めてしまって、なんや変なことでは動けへんようになってしまった感じやな」
「……のじゃ?」
「……すまん、ダイコン。さっぱりと言っている意味が分からない」
「つまりや。この世界に自分が呼ばれたのはきっと運命。異世界で生き延びなければならないとか、仕事をしなくちゃいけないとか、そういうのではなく、もっと大きな役目が自分にはあるはず、それまで座して待つ――いう主人公心や」
どやぁという顔で俺たちに言うダイコン。
しかし、そのどやぁはちっとも俺の心に響いて来なかった。
なんだそのくだらない心は。
こちとら、毎日生きていくだけでもひいこら言っているというのに。
加代さんなんて、やっと生きていく食い扶持が見つかったと思ったら、すぐにクビになる毎日なのに。なのに、天命だァ。運命だぁ。役目だぁ。
臍で茶が沸くわ、この馬鹿たれ。
俺たちの表情を察したのだろう、ダイコンタロウがまぁまぁ落ち着けという感じで俺たちの前に出た。実際、もしこの場にシュラトが居たら、関節技の一つでもキメて泡を吹かせていたことだろう。それくらい、頭にくる話であった。
「まぁ、ワイならっていう前提は入るで。そら、異世界転移とかいう、テンション上がる展開に遭遇したら、やっぱりそれの因果関係を考えてしまうのが人間いうものやん」
「……転移先で生きていくことでいっぱいいっぱいだったよ」
「のじゃぁ、帰る方法を探すので手いっぱいだったのじゃ。そんなこと考える余裕なんてなかったのじゃ」
「けど、普通の異世界転移者は、異世界転移をエンジョイしようとするだろう。それと同じだよ。そして、嫌がおうにもその転移先で、大きな事件に出会うことになる」
そうだろうか。
最近はスローライフ系の、特に山もなくオチもないような、そういう作品も増えてきたように思うのだけれど。そうじゃないのだろうか。
やっぱり異世界に転移したからには、何かしらの使命を帯びたい者なのだろうか。
わからん。
最近はオープンワールド系のゲームしかやらない俺にはよく分からん。
しかし――。
「ここは現代日本!! 働かざる者食うべからず!! 運命に出会う前に!! 職に出会わなければならないそういう話でしょう!!」
「おっ、おう、せやな」
「のじゃぁ!!
まずは生活の基盤を整えてから。
運命だの、冒険だのはそれからだ。
それができていないというのに、いったい何が運命だというのか――。
使命だというのか――。
ちゃんちゃらおかしい。
そう思った矢先、ダイコンタロウがこちらに指を向けた。
「いや、生活の基盤はがっつりあるでしょ」
「……うん?」
「……のじゃぁ?」
「異世界で、転移して、向こうの貴族に拾われる、チートキャラに保護される。お前、この状況を冷静に考えてみ?」
冷静に考えてって。
おいおい。うちは普通の一般家庭だってーの。
そんな上流階級の家庭でもないし、むしろ中の下だし。親父はまだ年金貰っていないのに無職だし。母親は安定した市役所勤めだし。
俺はプログラマー、加代はサーバーエンジニア兼アルバイター。
いったい、ここのどこに安泰な要素があるというのか。
「冒険者パーティーに拾われたと思えば、納得の人選やで」
「え、冒険者パーティなの、俺ら」
「のじゃぁ。ただの現実世界の小市民なのじゃ。そんなのじゃないのじゃ」
いやいや、何をおっしゃる九尾さんととぼけた感じに言うダイコン。
うぅむ。
やはり実感が湧かない。
実感はないけれども、そうなのかもしれない。
つまるところ。
「俺たちの存在があるせいで、シュラトの奴がいまいち異世界転移に対して本腰を入れれなくなっているってことか――」
まぁ、確かに。
異世界に転移して衣食住が簡単に手に入ったら、ヌルゲーってなってちょっと手を抜いてしまう気持ちも分からないでもないわな。
実際、俺たちもそうだった訳だし。
後半はハードモードだったけれど。
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