第612話 なんでこんなに可愛いのかで九尾なのじゃ


 さて。

 帰る場所のないまつろわぬ民状態の俺と加代さんが、これこの通り実家で御厄介になっているのは先に述べた。そして、そんな状態だからシュラトの奴も一緒に預かって貰っているのもこの通りだ。


 異世界転移してきた者たちを養えるような状況ではないのだ。

 という訳で、他の異世界転移してきた者たちも、実家に預かってもらっていた。


 のそりのそりと奥の居間から出てくる小柄な少女。

 そして、そんな彼女に続いて出てくる、大型犬みたいな感じの緑の四つ足生命体。


「なのー。桜お兄ちゃん、加代お姉ちゃん、おかえりなのー」


「なのちゃん」


「ただいまなのじゃぁー」


 異世界からやって来てくれて嬉しかった転移者として名を挙げるなら、一番になるであろう我らがプリティーエンジェルなのちゃんである。

 異世界転移してもモンスターな見た目はそのままなのがちょっと可哀想。

 しかし、そんなことなのちゃんの可愛さの前にはどうでもいいことである。


 まるで父母の帰宅を待っていた子供のように、とてとてとこちらに駆けてくるなのちゃん。おつかれさまなのーと俺たちの肩にその小さな手をかけると、いい塩梅で揉んでくれた。


 うむ。

 異世界でもこちらの世界でも、やっぱりなのちゃんは天使だな。

 植物少女最高というものである。


「なのちゃん、今日は何してたのじゃ?」


「なの!! おじーちゃんと一緒に、畑でお野菜作っていたのなの!!」


 なのちゃんの魅力にやられたのは俺たちだけではない。

 そう、俺たちが座るテーブルの横、新聞を読みながら素知らぬ顔をしていた爺もまた、なのちゃんの虜の一人だった。

 新聞を折りたたんで、うんうんと頷いている爺もまた、なのちゃんフリークであった。


 そう、うちの親父である。


 この親父、なのちゃんが家に来てからというもの、畑仕事の能率が五割り増し。今までなら面倒くさいからと造るのを敬遠していた作物まで育てる始末であった。

 それもこれも、なのちゃんを喜ばせたい一心である。


「きょうはおじーちゃんと一緒にサツマイモを植えたもんなー。なー、なのちゃん」


「なの!! いっぱいお芋さんできるなの!! 楽しみなの!!」


 まるでゆであがった芋のようなほこほこの顔をして言う親父。

 子供の頃は、寡黙でどこかとっつきにくい感じのする人だと思っていた。一見すると冷たいが、どこかで俺のことをよく考えてくれている、そういう人だと思っていた。


 だから、孫に必要以上にデレデレする姿がなんというか目が痛い。


「おばーちゃんも期待しててなの!! いっぱいお芋さん造るなの!!」


「はいはい、期待してるわよ。ほんと、元気いっぱいね、なのちゃんは」


 そしてお袋もこれこの通り。

 親父と同じくほっこりとなのちゃんに篭絡されているのであった。

 いや、この人はシュラトにもこんな調子なので、基本的に人当たりが良いだけということも考えられるのだが――。


 とにかく。


「のじゃ、すんなりと受け入れられたのう。なのちゃん」


「どっかの誰ュラトより、よっぽど受け入れられてるなァ」


 我が家でなのちゃんは蝶よ花よと愛でられているのであった。

 ちゃんと働きなさいと、何かと釘をさされる誰ュラトと違って。


 うん、やっぱり幼女の異世界転移は強いよね。

 もう幼女ってだけで転移特典みたいなもんだわ。

 そんでもって幼女だから、異世界で日がな一日ごろごろしてても何も文句を言われないんだから、ヌルゲーでございますわ。


 羨ましくはない。

 それはもうこの世の道理。

 そう――。


「むぅ、なぜなのちゃんは一日中家に居ても怒られないし、遊んでいても文句言われないのに、俺だけがあーだこーだと言われるのか。理不尽極まりない」


「シュラト。子供は遊ぶのが仕事なんだぞ」


「のじゃぁ。そして、大人は遊びと仕事のバランスをちゃんと取れないと、世間からも家族からも白眼視されるのじゃぞ」


 こればっかりは子供の特権なのであった。

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