第607話 黒騎士サラリーマンで九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 シュラトを雇ってあげてくれ。


 異世界転移して全力で引き籠る黒騎士。

 彼をなんとか社会復帰させるべく、かつての異世界転移仲間に頭を下げる桜と加代。はたして二人の熱意はダイコンに通じるのか――。


「いや、下げられても困るでしかし!!」


 からの。

 大阪人のノリをそこは弁えているダイコンである。

 きっと、いや、絶対にそこは、ちゃんとツボを押さえてくれている。

 シュラトの就職先を用意してくれる――!!


「まてまてまてまて!! なんでワイにそんなしわ寄せが来るねん!! おかしいでしかし!! ワイ、そんな便利キャラとちゃうから!!」


 ダイコンの、ちょっと、いいとこ、見てみたい。


「やめーや!!」


◇ ◇ ◇ ◇


「いやぁ、まさかダイコンがダイコンホールディングスの取締役社長だったとは」


「レジャー系企業の最大手。ジムからキャンプ場、釣り具からプラモデルまで、ギャンブル以外はなんでも任せろな、ホビー企業の取締役社長だったなんて」


 びっくりなのじゃぁと声を合わせて言う俺と加代。


 ここは大阪。

 オフィスビルが立ち並ぶ堺筋本町。

 そこにある全面ガラス張りの新築タワービル。いつの間にできたねんこんなもんという感じのその建物の九十九階に俺たちは来ていた。


 いや、正確には、俺と加代ともう一人いる。


「ふむ。なるほど。つまり、私はここでダイコンどのの仕事の手伝いをすればいいわけだな? 桜どの、加代どの?」


 黒い鎧から黒いスーツに着替えたのは異世界からの転移者。

 長い髪をきゅっと後ろに結んで、女性向けソシャゲのレアキャラみたいな感じを醸し出しているシュラトであった。


 そう――。


「のじゃ、そういうことなのじゃ。ダイコンが、どうしてもお前に助けて欲しいと言うておってのう」


「お前の力を是非にも借りたいと。お前じゃないと、どうしてもこの仕事は任せられないって言っているんだよ。なぁ、お前も世話になった相手なんだから、そこは無下にできないだろう」


「うむ。まぁ、確かにダイコンどのにはお世話になったからな。恩を返すのは人間として当然のことだろう」


 シュラトの就職のために俺たちは一芝居をうっている最中であった。


 頼られても困るでしかしとダイコンはいったな。


 アレはフリだ。(大物感)


 流石に高級レストランに俺たちを招くようなリッチマン。俺の読み通り、ダイコンは大企業の社長をやってた。しかも、なんか都合よくいろんなことに手を出している、ホールディングスの元締めだった。


 そりゃ、なんか、会うなりお前誰やねん感も湧くというものですわ。

 そして、本当になんでそんな身の上で、異世界転移したいとか思ったのか。人生バラ色、勝ち組決定やんけとちょっと毒づきたくもなりますわ。


 しかしまぁ、ダイコンに頼らなければ、シュラトがどうにもならないのも事実。


「ふふっ、まぁ、仕方あるまい。義を見てなさざるは勇なきなり。このシュラト、異世界で受けた義理を忘れた訳ではない。もちろん、魔神シリコーンさまの復活を邪魔をされた恨みはあるがそれはそれ――」


 などと格好つけているが、異世界で居候しているくせに今の今まで自分から動こうとしなかった奴が言っても説得力がない。

 実際の所は、この男――まったく知り合いのいない会社で働く自信がなかっただけである。うすうすとは感じていたが、なんだかんだでシュラトの奴は結構根がおぼっちゃまなのだ。


 つまるところ人見知りなのだ。


 本当に、ダイコンが会社の社長をやっていてくれて助かった。

 いざとなったら身内が助けてくれると分かって、ようやくシュラトも重い腰を上げてくれたのだ。本当に世話のかかる黒騎士さまである。


「あー、シュラトやん。そういうことやから。まぁ、ぼちぼち頑張ってや。まぁ、なんや言うてうちはぬるい会社やから」


「任せてくれダイコンどの。このシュラト、身を粉にして働く所存」


「……一応、協力会社から桜やんと加代やんも回して貰ったから。まぁ、なんかあったら頼ったってんか」


 なお。

 俺の会社はいつの間にか協力会社(持ち株30%保有)になっていました。

 まったくレジャーとか関係ないのに、気が付いたら買収されていました。


 そして、システムエンジニアとして、俺ら二人が指名されて出向することになりました。なお、業務内容はこの通り、まったくシステムとは関係ない模様。

 とんだ偽装請負もあったもんである。


 とはいえ。


 ほんと、マジもんの金持ちだなダイコンの奴。

 ナガト建設もなかなかの大企業だったが、こいつの所も大概である。


 いやはや――。


「持つべきものは金持ちの友達か」


「のじゃぁ。まさか、異世界でお荷物だったこいつに、本当に助けられるとは思わなかったのじゃ」


 ダメもとで頼んでみたが本当になんとかなるとは。


 サラリーマンシュラト編はじまります。


「とりあえず、何かあれば屋上か川原に行けばいいんだろう!! 任せてくれ!! 私はサラリーマンには詳しいんだ!!」


「……完全に付け焼刃!!」


「……わらわよりもポンコツの匂い!!」


「……形は付けたで、桜やん。あとはなんとかしたってんか。ワイは忙しいねん。ローゼンメイデ〇見たり、よつば〇見たり、〇ましまろ見たりで!!」


 はじまります。

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