第581話 これだからオープンワールドはで九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 オープンワールドRPGの醍醐味は寄り道プレイ。

 本編をどれだけ遅らせるかを競っている部分がありますから――ネ!!


「ただオープンワールド系が苦手なだけだろじゃい!!」


「買ったはいいけどまったくやってないのじゃ!! はよFall〇utクリアするのじゃ!! いつまでほったらかしなのじゃ!!」


 時間できたらまったりやろうと思って、まったくできてないんですよね。

 病気療養で幾らでも時間あったはずなのに、どうしてでしょうか。

 おかしいですね。


「のじゃ、時間使うのほんと下手糞なのじゃ」


「だから伸びしろ少ないんだな」


「PDCAサイクル回せてないんじゃねーの。あかんであかんでー、そういうのちゃんとやらんと上が煩いでー」


 そんな全力で責めなくてもいいじゃないの。

 人生もゲームも、寄り道が楽しいんですよ。


◇ ◇ ◇ ◇


「さて、逃し屋の誘いを断っちまった俺たちだが」


「のじゃぁ。案の定、どこに行ったらいいのかちんぷんかんぷんなのじゃ」


「あれ、イベント導入のお助けキャラ的な奴やったんとちゃうんか。やっぱ無難に案内してもらったほうが正解やったんとちゃうんか桜やん」


 そんな訳ない。

 いや、分からないけれど、きっとそんなことないと信じたい。


 確かになんか、この世界に精通してますオーラビンビン出してる男だったけれど。ただの逃し屋とは思えない、なんか裏のある感じの男でしたけど。二重スパイとかしてそうな感じの男だった。


 そんな男が一緒なら、異世界探索もきっとサクサク進むことだろう。

 そりゃもうチート能力要らずで、さっさとやりたいことをやってクリアする、そんな感じの異世界転移になっていたことだろう。


 しかし、やはり冒険というのは自分の脚で歩んでなんぼ。


「ぶっちゃけこれ以上男キャラが増えて、俺の印象が薄まると困るんだよね。俺、主人公な訳だし。俺、主人公な訳だし(大事なことなので二回言いました)」


「地の文と台詞が入れ替わってるやつなのじゃ」


「典型的なボケかましてくれるなぁ。流石やで桜やん、桜や。けど、そんなしょーもなな理由で、チュートリアルサボるとかほんま小心者やで」


 効率だけがゲームの醍醐味じゃないんだよ。

 あれだよ、いろいろ試行錯誤して、それでクリアするから楽しいんだよ。

 ゲームって奴はさ。


 だからお助けキャラなんていらないんだ。


「で、これからどっちに向かうのじゃ」


「ノーヒント無頼旅。桜やんも思い切ったことしたもんやな。勝算あるんけ」


 ふふっ、ダイコンよ言ってくれるな。

 そんなもんある訳ないじゃないか。


 勢いで助けはいらないと言ってみたものの、これからどうすりゃいいのか分からない。そもそも暗黒大陸に来たのはいいけれど、魔神がどこにいるのかすら知らない。何をすればいいのかもわからない体たらくである。


 それこそオープンワールド系の醍醐味と言っちゃなんだが、ちと冒険しすぎているという気がしない訳でもない。


 しかし、そこはもちろん俺にも最低限の考えがある。


「おーい、女神やーい、女神!! 女神こらー、アネモネー!! でてこーい!!」


「のじゃ!! 女神頼みなのじゃ!!」


「そんな某RPGドラマみたいに出てくる訳あらへんやんけ。というか、アイツが気まぐれなんは、長い付き合いのワイらが一番よく知ってるやろ」


 それでもやってみなければわからないではないか。

 暗黒大陸に渡れと、アドバイスをくれたのは何を隠そうアネモネだ。

 そんな彼女が、いざ暗黒大陸に来て見れば無視なんてすると思うか。


 割としそうだと思うぞ。


 つまるところ、やけっぱちなのよね。

 畜生、やっぱり感情で行動なんてするんじゃなかった。そんな不安を感じつつ、俺は空に叫ぶ。


 すると――。


「のじゃ。何かがこっちに向かってくるのじゃ」


「おぉっ!! 天に願いが通じたか!! 女神降臨か桜やん!! やるやないか、流石は桜や!! パールバティ!!」


「ほめてんのかどうなのか微妙な声援どうも!! しかし、やっぱり来てくれたかアネモネちゃん。信じていた――」


 げっ、と、言葉が詰まってしまう。


 無理もない、そこに立っていたのは女神でも何でもない。

 空を飛ぶ大きな翼を持ち、獲物を食らう大きな口を持ち、目もなく鼻もないのっぺらぼう。異形のモンスターだったからだ。


 いや、異形だが、なんというか、そう、見たことがある――。


 新劇場版ヱ。


「のじゃぁ!! 桜!! 戦闘準備なのじゃ!!」


「上から来たで、気を付けろや桜やん!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る