第582話 謎の噛ませ犬で九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 やっぱりな。策など桜にはなかった。

 空に居る女神に向かってヘルプミーと声をかける桜。

 さながら滑稽に映るその姿。しかしながらそれに応える者があった。


 神か、女神か、天使かそれとも――。


 降りてきたのは白いのっぺら坊の鳥。それもなんだか量産型みたいな奴だった。


「……違う!! こんなん呼んでない!!」


 きちゃったもんはしょうがない。

 桜さん、おもいがけずに大ピンチでございます。


◇ ◇ ◇ ◇


 わらわらと俺たちの周りに着陸していく、得体の知れないモンスターたち。

 いや、得体は知っているかもしれない。なんというか、そのシルエットのモンスターは、俺たちの世代なら誰でも知っている――ということはないかもしれないが、マニアックな奴はだいたい把握している感じの奴だった。


 大きく開いた口が、にんまりと吊り上がる。


「のじゃ!! なんなのじゃこのモンスター!!」


「不気味なモンスターやな!! こんなん出したら非難轟轟、いろんなところから苦情が来てしまうでしかし!!」


「出やがったな、量産型〇ヴァンゲリオン」


 みんなのトラウマ、白いアイツである。

 なんだいこの世界のモンスターは、こんな懐かしい物出して来やがって。

 ちょっとびっくりしちまった自分がいますですよ。


 輪を組んで、降り立ってくるそのモンスター。

 まるで男のナニみたいな顔をこちらに向けて、筋骨隆々な身体と翼を広げている。微妙にデザインが違うのは、俺たちが貧乏している間に劇場版が完結したのか、それともこの世界用に調整されたのか。


 そんな大混乱をする俺たちに――。


「おいおい、命知らずだな。エンジェルマッスルに喧嘩を売るなんて。暗黒大陸の人間でも、そいつらに出会ったら即退散。すぐに身を隠すっていうのに」


 どこからともなく降り注ぐ声があった。


 逃し屋、カロッヂのものではない。

 それはそう、まったく耳に馴染みのない声。どちらかというと先程までのカロッヂの声とは対照的。若々しい、そして、根拠のない自身に満ちた声色。


 いったい何者。

 そう問う前に――。


「おらっ!! 雑魚どもが!! 調子にのってんじゃねえぞ!! この大陸は俺たちが平定した!! 以後、勝手な略奪やちょっかいは、この俺が許さねえ!!」


 彼は紅色の剣を振るうと、立ち塞がるモンスターたちの首をばっさばっさと切っていく。


 はてさて、この男はいったい何者。

 もう伊達男はノーサンキュー。

 これ以上の男キャラなど、余計な混乱を招くだけだというのに。


「中央大陸連邦の観光客か? はぐれちまったのか、だったら安心しな。俺が責任を持って、アンタらを旅の連中の所まで連れていってやるよ!!」


 いや、そうではなくてねと返事をする間も与えない。

 その男はさぁさぁさぁと剣を振り、〇ヴァンゲリオン量産機の首を跳ね上げた。

 一切の所作は流麗にして無駄がない。

 間違いない一流の剣技。


 しかしながら――。


「赤い鎧だな」


「のじゃ。赤い鎧なのじゃ」


「三倍速の申し子。そして、またの名を、噛ませ犬の申し子」


 深紅の鎧を着ている騎士。

 その姿に、どうして、またメタな不安を感じずにはいられなかった。


 そう、よく考えると二号機も赤いカラーリングだったしね。


 なんにしても、俺たちはその活きのいい男に任せて、急いで身を隠す。


 はぁ、なんてこったい。

 やっぱ冒険ってのは、気合いだけでなんとかなるもんじゃないね。とほほ。

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