第558話 座敷草鞋の群れで九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


「俺たちは彼らのことを、稲わらの一味と呼んでいるよ?」


 ありったけの夢を詰め込んだような一味が、森で稲を育てている。

 桜たちはその稲を手に入れるため、稲わらの一味に挑むことになるのだった。


「……って、そんな話じゃなかっただろう、先週!!」


「……のじゃぁ!! ただでさえヤバいネタなのに、ヤバいネタを重ねなくてもよいのじゃぁ!! 少しくらい自重するのじゃぁ!!」


 パロディを始めたのはどちらの作品が先でしたっけ。

 なんにしても、思いついたらやっとけやっちゃえが筆者の主義。

 いやはや、ちょっとタイトなスケジュールとはいえ、詰め込み過ぎたかもしれませんね。


 失敗失敗。


「もう取り返しのつかないくらいに作品としては失敗しているのじゃぁ!!」


「オキツネブームに完全に乗り損ねていまさらかよ!! もうっ!!」


 なんで、なんで世の中はこんなにもオキツネブームなのに、こう、加代ちゃんはパッとしないんですかね。やっぱり九尾がクビになるというダジャレが……。


「「そういうとこだよ!!」なのじゃ!!」


◇ ◇ ◇ ◇


 とりあえず、モノは見てみないと判別することはできない。


「その稲わらの一味って割とすぐに見ることができたりします?」


 その質問により、俺たちはキングエルフに誘われて森の奥へと入って行った。

 どうやら稲の収穫が間近だったらしく、キングエルフはその生息場所をちゃんと把握していたのだ。


 歩くこと小一時間。

 スマホも時計もないので体感値だけれども、それくらい歩いたと思う。


 少しずつ沢の水音が聞こえて来たかと思えば、木々の背が低く、そして、まばらになっていく。視界にもやがかかりつつ、なんだか水気が増えて来たかなと思った矢先、急に視界が開けた。


 広がるのはそこそこ大きな川。

 そして、それに沿って造られた水田。

 ちょっと田舎に行けば見かける、棚田のようになったそこには、まだ青々とした稲がもっさりと生い茂っていた。


 これはまた。


「おぉ、豊作なのじゃぁ。すごいのじゃぁ」


「異世界なのに凄いことなってんな。モンスターが本当に育てたのかこれ?」


「あぁ。彼らの稲作の技術はエルフの知見からしても目を見張るものがある。なんというか、こと稲作においては彼らには我々も敵わないだろう」


「のじゃ……。だからって、略奪していいってことにはならないのじゃ」


「自分たちの手で育てりゃいいじゃねえか」


「せやでエルフの。稲もみ一つ手に入れるのにヒャッハーするのはネタとして許すとしても、こんな大きな水田をヒャッハーするのは流石にどうかというもんやで」


 いやしかしと口ごもるキングエルフ。

 心なしかケツに張りがないように見えるのは、彼も自分のやっていることがどういうことなのか自覚しているということなのだろう。


 このままちょっと小一時間説教でもしてやろうか。

 そんなことを思ったが、まずはやるべきことがある。


「……いるのか?」


「のじゃぁ。よう分からんのじゃ」


「どんなやろ。なのちゃんみたいな感じの子ばっかりやったら、そらパラダイスいうもんやで。けどなぁ、そんなうまい話、そうそうあるもんやあらへんし」


 なんか気持ちの悪いことを言うダイコン太郎はさておいて。

 俺と加代は辺りを見渡して、その稲わらの一味を探す。


 なのちゃんを連れてきていなくてよかったと心から安堵する。もし、その稲わらの一味が、なのちゃんの仲間だったり、同じモンスターだったとすれば、どうしていいか分からなくなるというもんだ。


 なまじ、これから稲を略奪しなくてはいけない相手。

 とてもじゃないが、そんな光景を幼い彼女に見せられるはずもない。


 だから、彼女をお留守番させたのは正解だった。

 これで残酷な事実を一つ、彼女に知らせずに済むのだから。


「まぁ、藁人形造らせておいていまさらやけどな」


「せやかて大根。あまりに不憫やないか」


「しっ、静かにするのじゃ。なんか稲の隙間に動いているものが見えるのじゃ――」


 加代の言葉を受けて、俺たちはそのまま視線をそっと彼女と同じ方に向ける。

 青々しく茂る稲たち。まだ低いその背の先に、ひょっこりと、黄金色をした稲わらの姿が見えたような気がした。


 あれはそう――。

 間違いなく――。


「稲わら」


「稲わらでできた人形」


「稲わらの一味」


「そう。彼らは自分たちの身体を作り変えるのと、仲間を増やすのに稲を育てている。なので、増え過ぎてしまうと困るのだよ。森の生態系に悪影響が出る」


 ひょこり顔を出したのはなのちゃんとは似ても似つかない妙な生命体。


 小人と言えばいいのだろうか。

 コボルトと言えばいいのだろうか。なんにしてもその中間っぽい、ファンシーな稲わら編みの生命体が、水田の間を行き来していた。


 これが、稲わらの一味。


「よかった、字面に反して強そうじゃない」


「のじゃ……。これなら版権的になにも問題ないのじゃ」


「安心するところそこ!?」

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