第557話 野生の稲で九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
「蜂蜜を採ることを、咎める人間がこの世界にいるか?」
「いや、少なくとも蜂は咎めるやろ」
森の中で穏やかに暮らしていると思われたエルフたち。
しかし、その実態は、強欲なる略奪者。他の種族たちから稲を奪い、食料を奪い、ヒャッハーする凶悪な生き物だったのだ。
そう、エルフとは、異世界における世紀末モヒカン。
「いや、流石にそこまでは言ってない」
「のじゃぁ、まぁ、そりゃいろいろな生態があってしかるべきなのじゃ。というか、自然の中で生きるというのは、過酷なものじゃから仕方ないのじゃ」
分かったようなことを言うなァ!!
「「えぇ……」なのじゃぁ……」
とまぁ、そうは言っても、彼らにも言い分はあるはず。
アイヌ人が熊を狩るように、エルフも異世界で稲を刈るのかもしれない。そこのところを今週も本作「ゴールデンフォックス」では掘り下げていきたいと思います。
「なんだよゴールデンフォックスって!!」
「この作品はでていけあんたは九尾さんなのじゃ!!」
うっさい!! 人間と狐のくせにウチャヌプごにょしてるくせに!! 杉〇、どうして(ry
◇ ◇ ◇ ◇
略奪よくない。
いくらそれがこの世界の風習でも、むやみやたらと人からモノを奪うのは推奨できない。俺と加代さんの非難の視線をキングエルフに向けた。
しかし――。
自慢の尻がそれを受け流す。
まったく、俺たちの非難など気にしない感じで、ふふんとすまし顔を見せるキングエルフ。そのあまりにも当然とう感じの態度に、俺は大根を気づかぬうちに握りしめていた。
「ステイ!! ステイやで桜やん!! ここはちょっと落ち着くとこや!!」
「せやかて大根!!」
「エルフにも言い分があるかもしれへんやないか!! 異文化を理解するのも大切な異世界転移の醍醐味やないか!! なんや、やむにやまれぬ事情があるのかもしれへんやないか!!」
「……食べたい時に食べ!! 狩りたい時に狩る!! それがエルフ!!」
「大根でも食ってろこの腐れエルフが!!」
キングエルフの尻に向かってダイコン太郎を投げつける。
ゲイボルクならぬゲイダイコン。二股のスケベダイコンは、キングエルフの尻の割れ目に激突すると、見事に砕けて散ったのだった。
はうんとこれにはキングエルフ、ちょっと狼狽えた顔をする。
しかし、その表情もまた絶妙に気持ちが悪かった。
ほんともう、こいつはどうすりゃ大人しくなるんだ、まったく。
「いや、まぁ、ちょっと言葉が足りなかった。種族と言っても人間や亜人種ではない。稲を育てているのは――モンスターなのだ」
「……のじゃ?」
「モンスターが稲を育てている?」
うむと頷くキングエルフ。
なるほどそれならちょっと話も違ってくる。
たとえの話に立ち戻ることになるが――蜂蜜を採るのに許可がいるかという話。
迷惑なモンスターなら駆除する必要も出てくるだろう。その討伐の報酬に、稲を手に入れたとして、それが悪いこととは一概に言うことはできない。
なるほどなと、俺はキングエルフの言葉に納得して、第二投と構えていた手の中の大根を地面に降ろした。
「彼らは自分たちの仲間を増やすために稲を栽培していてね。それで、定期的に間引く必要があるんだ。もちろん、彼らの種族自体を絶滅させるのは、エルフの理念に反することだし、稲自体も保護したい。この塩梅が意外と難しい」
「いきなり小難しい話になってきやがったな」
「のじゃぁ。環境保護団体みたいなことをやっているのじゃ」
なるほど稲を育てるモンスターね。
それでもって、その育てた稲で自己増殖か。
植物系のモンスターはなのちゃんといい、ドラコといい、そんなの多いなぁ。
――うん?
「もしかして?」
「そのモンスターって? もしかして蔦で編まれたような女の子みたいな感じの?」
想像したのはこの世界での新しい同居人。
なのちゃんとドラコ。
なの、と、とぼけた感じに俺の頭の中で彼女は首をかしげる。
そんなことを考える俺の前でキングエルフがそうそうと頷く。
「そんな見た目のモンスターだ。俺たちは彼らのことを、稲わらの一味と呼んでいるが。正式な名称は分からないな」
「稲わらの一味っておい」
「のじゃ、またなんとも著作権的にヤバそうな呼び方を選んだのう」
どうしてそんな呼び方。
しかし、それよりも、もっと優先して考えることが俺たちにはあった。
もしかして、俺たちが求める稲というのは。
それを育てているモンスターというのは。
なのちゃんの仲間ではないのか?
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