第550話 またしてもおつかいイベントで九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
自分の作った編みぐるみを燃やす・壊す。
それは作った者からすればなかなかに残酷な仕打ちである。
それに気づかず、タナカの策に乗ったことに後悔する桜。なのちゃんに与えるショックを考えられなかった自分を恥じながらも――。
「酷かもしれんが話をしてみないとはじまらないのじゃ。桜よ、なのちゃんに話をしてみるのじゃ。タナカに協力するかしないかは、それ次第なのじゃ」
自分たちは異世界に絶対に戻るのだ。
その意思は変わらない。
加代と桜は残酷なことを承知の上で、なのちゃんに異世界に向かうために人形を編んで貰えないか、頼んでみることを決意した。
「……いや、言うて、ワイをぼっこぼっこにしといて、残酷もなにもあらへんやろ」
「いや、ダイコンは存在するだけでなのちゃんの教育上よくないから」
「なのじゃ」
「あんまりやでしかし!!」
◇ ◇ ◇ ◇
「なの!! そんなこと全然気にしないでいいのなの!! そういう用途ならそういう用途の編みぐるみを作ればいいの!! お兄ちゃんたち気にし過ぎなの!!」
「くるぉーん!!」
あっさり。
もう拍子抜けして顎が外れそうになるくらい、なのちゃんはあっさりと俺たちの提案を了解してくれた。
どころか、何を言っているのかという感じに笑い飛ばした。
そう、言った通り気にしすぎというそんな感じで。
あっけにとられてぽかんとする俺と加代。
そんな俺たちにけらけらとなのちゃんは笑いを向けた。
「なのー。なのたちは腐ってもモンスターなの。生きていくためなら、いろいろなことをするなの。編みぐるみだって、ことと場合によっては、囮として作ったりとかするなの」
「あ、そういうもんなの」
「そういうもんなのなのー。桜お兄ちゃん。なのたちをなめちゃだめなのー」
なめてはいなかったのだけれど、ちょっと過保護が過ぎたらしい。
そうだな、確かに彼女たちはモンスター。
生きるためならば、どんなことでもするとまでは行かないが、そこそこにタフな修羅場を潜り抜けてきているはずだ。
そういうことを一顧だにせず、勝手に憐憫に浸って、勝手にかわいそうに思っていたのは素直に反省というものだろう。
反省。
俺は心の中で、杞憂なことを思ったものだなと、先ほどまでの自分を恥じた。
言い出しっぺの加代など、久しぶりにのじゃぁと鳴いてその場に固まっていた。
そうだ。
この世界の住人は、俺たちが思っているよりもよっぽど強かだしタフだ。
それを忘れて随分と、頓珍漢な優しさをかけようとしたものだ。
これは猛省、俺はたははと頭を掻いた。
それはそれとして。
「なの!! けど、お兄ちゃんたちが心配してくれて、なのは嬉しいなの!!」
「くるきゅーん」
「……なのちゃん!!」
「……やっぱ、いい娘なのじゃ!!」
心配してくれたことが本当に嬉しかったのだろう。
えへへとはにかんで笑うなのちゃん。
ドラコもまた嬉しそうに俺たちにすり寄ってくる。
本当にいい家族を持ったものだと思う。
俺は二人の植物系モンスターの頭を優しくなでた。そして、どさくさに紛れてなのちゃんに近づいた、腐れダイコンをそれとなく叩き潰した。
いい家族を、俺たちは持った――。
「なの!! そうと決まればさっそく行動なの!! 桜お兄ちゃん!!」
「あぁ、そうだな、なのちゃん」
「のじゃ。なのちゃん、それで、タナカの魔法のための編みぐるみは作ってくれるなのじゃ?」
「大丈夫作ってみせるなの。けど、やっぱりこういうのは材料が大切なの。それも、そういう目的なら、そういうのに適した材料が必要になってくるなの」
「そういうのに適した」
「材料なのじゃ?」
そんなものがあるのか。
そういうのに適した材料とはいったいどんな材料なのか。
草を編んで動く人形にし、それを使って悲劇を演出する。そんなことなど、今まで経験もなければ、やり方に覚えもない俺たちである。
なのちゃんの言っていることは、正直に言って理解し難かった。
どういうこと、と、尋ねる俺と加代。
ついでにリスポーンした大根太郎。
分からない異世界転移組に、ふふふとなのちゃんが微笑んで――。
「お兄ちゃんたちは、丑の刻参りってしっているなの?」
なんとも不穏当なことを言い出すのだった。
今までいい子だっただけに、発言の反動が大きい。
うん、逆にこっちがショッキングだわ、そんな単語。
できることならなのちゃんの口から聞きたくなかった。
げんなりと、俺と加代はなのちゃんから顔を逸らして、それからちょっと引き気味に、うんと首を縦に振った。
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