第538話 目指せ西の王国で九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
異世界ホワイト企業は福利厚生バッチリ。
外国のグループ会社に出向する際にはばっちりと自宅補助が出ます。他にもお子様の養育費から、奥様の健康保険まで手厚くサポート。
さぁ転生しよう異世界企業が君を待っている。
「いや、言うてこちらの世界の一般企業と大差ないからな」
「のじゃ。名前は通ってるからご近所には自慢できるけど、名声のために生活を犠牲にしなくちゃいけない典型的な感じの奴なのじゃ」
典型的な大企業体質。
みなさんも気を付けよう。一部上場企業でも、こういう会社は割とあるぞ。そのグループ企業でも大概そうだぞ。
それはそれとして、そんな理不尽人事に対して桜くん。
そりゃそれでいいんじゃねぇ。むしろ暗黒大陸と接点があるならばと、果敢に挑むことを選択するのであった。
はたして、桜と加代の明日はどっちだ――。
◇ ◇ ◇ ◇
引っ越しの朝が来た。
と言っても、家財一切は例のボンクラタフガイ冒険者のせいで燃え切っている。
持って行くものなど身一つである。
遅れてやってきた炎の旅立ち――。
「……なんだかなぁ」
「のじゃ。そんな締まりのない顔をするでないなのじゃ」
「なの!! お兄ちゃん、朝から元気がないの!! そんなんじゃダメなの!!」
「くるきゃぁーん!!」
「せやで桜やん!! これから俺たちのわくわくドキドキゴーウェスト物語が始まるんやないか!! 如意棒にはほど遠いけれど、如意沢庵棒のワイが付いているからにはもう安心やで!! 二人でギャルのパンティ求めてアドベンチャーや!!」
それは七つの玉を集めるアドベンチャーだよ。
元ネタと人気作を混ぜるなフォックス。うー危険危険と、俺は大根太郎を可及的速やかに砕いたのだった。
やれやれ、ちょっと目を離せばこれである。
相変わらず調子がいいというか前向きが過ぎるというか。もうちょっと、これから起こる本格的なファンタジーの予感に、緊張してくれてもいいだろうに。
西の王国には隊商にくっついて向かうことになった。
ちょうどいい塩梅に、西の王国へと向かう者たちがおり、それがたまたま水質管理センターと懇意にしている人物だったため、一緒に乗せて行ってくれることになったのだ。
なので転居費用はタダ。それでなくても、転居にかかった費用については、ちゃんとセンター側で持ってくれるという話だった。
まったくほんとこういうところはホワイトというかしっかりしている――。
「従業員をしっかり使い倒すところもしっかりしているけれど、まぁ、そこは今さら言ったって仕方のないことだよな」
「なのじゃ。こちらとしても、異世界から元の世界に戻るヒントを得られるなら願ったりかなったりなのじゃ。そこはギブアンドテイク」
「なの!! 難しい話はよく分からないけれど、お兄ちゃんたちのためになるなら、なのはついて行くなの!!」
「きゅるるーん!!」
「みんなダイコンは持ったか!!」
オウ!!
復活した吸血鬼特攻持ちのダイコンをわきに抱えると、俺は素早くポーズを決める。そのまま速やかに地面に向かってアップ&ダウン。柔らかくない赤土の道に叩きつけると、俺は加代と肩を並べて歩き出したのだった。
そう、新しい
西の王国を目指して。
「なんか桜たちが無事に元の世界に帰れるの信じて――とか煽りが入りそうな感じだけれど、これ、大丈夫なのじゃ!?」
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