第517話 誰も消防車を呼んでいないで九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
哀れ加代ちゃんキングシロアリに敗北する。
ほうほうの体で逃げてきた彼女の姿に、桜は冒険者を雇うことを決意した。
「まぁ、シロアリ退治はこの世界の専門家に任せましょうや」
「水のトラブルも、シロアリのトラブルも専門家にお任せやで」
◇ ◇ ◇ ◇
家が、燃えていた。
こうこうとオレンジ色の炎に包まれて。
俺たちの異世界ハウスが燃えていた。
天まで煙を燻らせて。
暗い夜空を朱色に染め上げて。
俺と、加代と、ダイコンと、なのちゃんと、ドラコの家が燃えていた。
燃えて、いた。
「おぁーっ!!」
「のじゃぁーっ!?」
「なんで!? なんでなんでホワイ!? どうなってるの!? おかしいやん、プロの冒険者に任して安心シロアリ退治やなかったん!? どういうことなの!?」
「なのーっ!! おうちが燃えてるなのーっ!! どうしてなのー!!」
「ぎゃるるーん」
松明を手にしてたたずむのは筋肉隆々の冒険者。
ドラゴンだって片手で捻り殺して見せるぜというグレートな雰囲気を醸し出した男である。しかし、この男がその手で我が家に火をつけたのだ。
アーノル〇かシルベス〇か、彫の深い顔をこちらに向けるグレート戦士。
そんな彼の隣に立つ金髪の女戦士もグレートに濃い顔をこちらに向けてきた。
なんていうかグレートだ。
グレートに濃い顔だ。
一昔前の骨太なファンタジー小説を彷彿とさせる、グレートソルジャーたちは、俺たちを劇画調の顔で睨んで言った。
「だって、怖かったから」
「キングシロアリ、倒す、この方法、一番、楽」
「……だってじゃないよ!!」
「のじゃ!! そんでそっちの女戦士はなんで流暢に喋ってるのじゃ!! こういうのは片言で喋るのが流儀なのじゃ!!」
家に火をつけるだけなら俺たちにだってできらい。
なんでこんなアフロ〇中みたいなオチにならなくちゃならんのだ。
プロだからと期待して依頼したのに、とんだ解決方法もあったもんだよ。
というか、こんな解決方法を取ると分かっていたら、最初から頼まなかったよ。
なにしてくれんだよフォックス。
頭に血管が浮き上がる感覚を感じながら、俺と加代はグレート戦士二人に詰め寄る。すると、世界観の違う感じの二人は、顔を見合わせてやれやれという感じに両手を上げてため息を吐きだすのだった。
やめろや。
そういう表情をしたいのはこっちやっちゅうねん。
というか、お前らの行動の方がよっぽどやれやれやっちゅうねん。
「人にものを頼んでおいて、そういう言い草は正直どうかと思うんだが」
「そうよ、私たち、やったわ、一生懸命、やれることを。それでも、家が、燃えたんだから、しかたない、じゃない」
「仕方なくない!!」
「家を燃やすなら燃やすと初めから言うのじゃ!!
「冒険に必要なのは非情さと覚悟」
「家を、燃やす、覚悟なき者に、冒険は、不可能」
そうと手を取り合ってマッスルグレート戦士二人がキメポーズをとる。
シャルウィーダン〇か石破ラブラブ天〇拳か。
どっちでもいいが、腹立つキメ顔で、マッスルグレート戦士たちは俺たちにこう言い放ったのだった。
「「これが本場の炎の
「「うっせぇ!!」のじゃぁ!!」
なーにが炎の
俺たちは冒険者じゃないっての。
こっちの世界で引き籠り商人ライフを覚悟キメてやるって出て来たのに、そのねぐらを燃やされたらたまったもんじゃないっての。
勘弁してくれフォックス。
いやもう、そんなこと言っている場合じゃねぇ。
「誰か!! 誰か水を持ってきてくれーっ!!」
「火事!! 火事なのじゃ!! 助けてなのじゃー!!」
「燃える燃える!! ワイらの思いでの家が!! ダイコンハウスがー!!」
「なのー!!」
「ぎゅるるーん!!」
泣き喚き、むせび、煙にまみれる俺たち。
しかしその声に応えて街の消防隊がやってくるのには、まだまだ時間がかかるのだった。
そう、もう家に住めなくなるほどに、火の手が回るほどに。
「なぜなら!!」
「誰も!!」
「「火消し隊を呼んでいないから!!」」
「「うっせぇ!! だったらはよ呼べフォックス!!」なのじゃ!!」
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