第504話 黒騎士はどこに消えたで九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 迷子になってしまった黒騎士シュラト。

 彼を捜索するため、加代ちゃん探検隊は異世界で体を張ることになった。


「……おい、なんだ加代ちゃん探検隊って」


「のじゃ。そんな企画番組みたいな隊を結成した覚えはないのじゃ」


 何をおっしゃるお二人さん。

 いつだって企画番組みたいな生活を送っていらっしゃるのに。

 いまさらそんな誤魔化さなくってもいいじゃない。


「「好きでやってる訳じゃないっての」なのじゃ」


◇ ◇ ◇ ◇


 はてさて、困ったことになった。

 迷子探しなんて頼まれても、俺たちは探偵仕事はやったことはない。

 いや、探偵まがいのことはやった覚えはあるけれど――。


「随分前のはなしになるからなぁ」


「体感的には一年くらい前の話のように感じるのじゃ」


 ナガト建設での一幕を思い出す。


 まぁ、あの時は名探偵加代ちゃんという感じで、ずばっと一つ事件を解決してみせたものだけれども、今回は場所が場所である。

 そして、前回は加代ちゃんママの助けや、ハクくんの助けがあった。


 今回も前回と同じようにとはいかないだろう。


 というか、そもそもあのアホ騎士は、いったいどうして迷子になったのか。

 迷子になるシーンはバッチリと思い描くことができるけれど、なんで迷子になったのかそこに至る経緯が思い至らない。


 うぅんと頭を捻るより、ここは付き合いの長そうな人間に聞いた方が早い。


「アリエスちゃん。ぶっちゃけ、シュラトの奴はなんでまた迷子になったのだと思う。というか、迷子になった原因に心当たりとかなかったりするの」


 まずは身近な人物からの事情聴取だ。

 俺は彼の行動パターンについてよく知っていそうな、付き合いの長そうなアリエスちゃんにそれを尋ねた。


 すると、また、アリエスちゃんが難しい顔をする。

 女の子にこんな複雑な顔をさせるなんて。なんとまぁ罪深い男なのだろうか。

 頭が悪いのはまだゆるせるが、女の子を悲しませるのはどうなのだろう。


 俺と加代が見守る中でアリエスちゃんは言いづらそうに顔をしかめた。しかめたが、ため息と共に観念したような顔をして、実はですねと語り始めた。


「シュラトさまには困った趣味が一つありまして」


「のじゃのじゃ。なるほど、その困った趣味のせいで、今回の惨事は起こってしまったと」


「迷惑な趣味だな。ほんと、趣味はほどほどにしなくちゃな、なぁ、ダイコン」


「ワイに言われても困るがな桜やん」


 趣味は身を亡ぼす。

 悲しいけれどそれがこの世の真理なのよね。


 とか思っている場合ではない。

 おそらくそれが彼が迷子になった原因の一つだろう。

 直接的な関係はないかもしれないが――なにかしらの影響は与えているはず。


 して、その趣味はと女ダークエルフに問い詰めると、彼女は浅黒い肌にもはっきりと分かる、赤ら顔で少しむくれた顔をしたのだった。


「……エルフ趣味なんです」


「……エルフ」


「……趣味」


「……やて」


 待て。

 なんだその趣味は。

 そしてそのアリエスちゃんの反応は。


 あきらかに腑に落ちないという感じのアリエスちゃんの顔に、俺たちは、どうしたらいいのか分からなくて、とりあえず呼吸を置いたのだった。


 うぅん。

 アホなだけじゃなく、業まで深そうだぞ、あのアホ黒騎士。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る