第501話 舎弟《マブダチ》で九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 突如として繰り広げられる懐かしネタ。


 登場したマッシュルームヘアーの凶騎士ことカーネギッシュに圧倒される桜。

 そして、畳みかけられるような、シグル〇、鷹の〇ネタに、三十代をスナイプする気なのかこの世界はと、思わずにはいられないのだった。


「というか、こんな無法地帯みたいなファンタジー、やらかして問題ないんですか?」


 今の所、運営から特に注意は受けてないから、多分大丈夫だと思います。


「うわぁ、適当……」


「訴えられたら負けるレベルやでしかしこれ」


◇ ◇ ◇ ◇


「なるほど、カタクリの採集にやってきたということか。なかなかマニアックな逸品を求めているじゃないか。ちょっと驚いたぞ」


「のう。今どき、カタクリを欲しいなんてなかなかおらんぞ。その心意気だけで譲ってやってもいいかのうという気になるもんじゃて」


「……いやぁ、まぁ、その、それほどでも」


 何故だか爺さん騎士とマッシュルーム騎士に褒められる俺。


 悪い気分ではない。

 気分ではないが、まぁ、こっちも仕事でやってるだけである。

 やることやっているだけなんだよなぁ。


 とはいえ、称賛を素直に受け取れられないほど、俺も鬱屈した男じゃない。


 どうもありがとうございますというと、すぐにそうだとマッシュルーム騎士が手を叩いた。

 先程、地面に突き刺していた剣を抜き放つと、彼はひょいとそれを今度は剣の腹が地面に対して平行になるように構える。


「ッハァ!!」


 横薙ぎに繰り出される剣閃。

 空気の刃と衝撃波が、宙を揺らしたかと思えば、たちまちカタクリが群生している辺りへとぶつかる。たちまち地面が弾けたかと思えば、土煙と共に、そこにカタクリの根がごろりとごろりと舞い落ちるのだった。


 おぉ、と、俺と大根太郎が声を漏らす。

 その前で、ぴっとマッシュルーム騎士は剣を回して鞘に納めた。


「その熱意に敬服して、私からこれを贈ろうじゃないか。なに、せっかくお洒落な服を着ているのに、それが土で汚れてしまうのは忍びないしね」


「おぉ!! なんだよなんだよ!! 元ネタと違って普通にいい人じゃん!!」


「せやな桜やん!! 二面性とか感じさせへん、爽やか好青年やでこれ!!」


「……元、ネタ?」


 なんのこっちゃという感じの顔をするカーネギッシュさん。

 そんな彼に一礼して、俺と大根太郎はさっそく掘り起こされたカタクリの根を集め始めるのだった。


 なかなかにごんぶと。

 はたして元の世界のカタクリがこんな植物かどうかは分からないが、サツマイモみたいなそれを、あらかじめ用意しておいた麻袋の中へ放り込んでいく。


「やったな桜やん。これでミッションコンプリートや」


「そうだな大根太郎。今頃、クエストをクリアしましたって、右上辺りになんか出てる感じの奴だな」


「洋ゲーのやり過ぎやで。まぁ、ワイもわかるけどな」


 幸運値カンストのおかげでクエストが楽で助かる。

 そんなことを思いながらカタクリを目に入った端からかき集める。

 カタクリの根で麻袋がはちきれんばかりにいっぱいになると、俺と大根太郎はあらためてカーネギッシュに頭を下げた。


 いやはや、異世界クエストこれにて終了――。


 かと思いきや。


「まぁ、そんなあらたまる必要はないじゃないか。君のようなお洒落な人はなかなかいない、僕としてもそんな君と知り合えたのは悪い気はしないよ」


「……んんん?」


 妙に近く俺に近寄ってくるカーネギッシュ。

 そしてふふっと、俺の頭を撫でてくる。


 なんだこの男。

 どういうつもりだ。


 もしかしてそっちの気があるのか。

 だったらノーフォックス。

 俺には加代という、ステディな関係の女性が居るのだ。


 いや、女性というかメスだけれど。

 とにかく、そういうお相手がいるのだ。


 それでなくても男なんてノーサンキューである。


「いや、カーネギッシュさん、そんな、俺なんてそんなにお洒落じゃありませんよ」


「せやで。上から下まで全部ユニク〇の、ユナイテッドクロマニヨン人な桜やんがお洒落な訳あらへんやん。目がどうかしてるで、ネギの人」


「黙れ白バイブ!! ファ〇ク!!」


 おっと、いきなりの二面性がぶっこまれましたよ。

 それでもってお前、白バイブってなかなかな言いぐさですよ。


 バルサさんもなんかあちゃーって顔してるし、これはまずいんでないの。

 どうしたもんかねと顔をしかめる俺の前で、ふふっとカーネギッシュは笑った。


「なに、心配しなくても、僕にそういう趣味はないさ」


「そ、そうなんですか。本当ですか。信じて大丈夫ですか」


「大丈夫。ただ、友達には飢えていてね。どうだい、僕たちこれから、友達――いや、舎弟マブダチにならないかい?」


 あ、これ、性質の悪い体育会系のノリの奴や。


 親切の裏には人間的な闇がある。

 そんなことを感じながらも――断ると星流れが飛んで来そうで怖い。


 こくこくと、俺は半笑いのカーネギッシュに、頷くことしかできないのだった。


 うん。


 この人、元ネタより相当にいい性格してるぞ。

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