第498話 マッシュルームで九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 連邦騎士団の事務所から出てきた野良着の爺さん。

 しかし、その爺さんは、スコップ一つで無双する、異世界農業おじさんだったのです。


 なんということでしょう。


「いや、なんということでしょうって、そんな、他人事みたいにあーたね」


「せやでせやで!! スコップ無双ってお前、トレンド追っておきゃ大丈夫やろみたいなそういう安直な発想はいかんで!!」


「え、スコップ無双ってトレンドなの?」


「割と有名らしいで。大々的に力入れて押してたわ。あの一割でも、こっちにリソース割いてくれたら嬉しいのになぁ」


 いや、もう、そういう期待をするのは止めましょう。

 粛々とワシらは小説を書いていくだけです。


◇ ◇ ◇ ◇


 尾行の理由を説明してとりあえずのどぼとけからスコップを外してもらう。

 なんじゃそんなことかいと案外すんなりとスコップをはずした老騎士。彼は、まるで何事もなかったかのように、はっはっはと闊達に笑い飛ばすと、それから俺の肩を叩いた。


 その背格好や齢からは、とても考えることのできない、なんともはや壮健な男。

 揺れる白髪にさえ力強さを感じる。


 流石に騎士団の隊長をしているだけはあるなと感心した。


 彼の名はバルサ・ミッコス。

 中央大陸連邦騎士団第一部隊の隊長を務めている老騎士である。騎士団最年長の生き字引と言っていい存在で、いろいろなことを知っている――とのことだ。


 まぁ、どこまでその話が本当かどうかは分からない。

 ただし、とにかく一つ言えることがある。


 この爺さんが、思った以上に話せる相手だということだ。


「カタクリか、幾らでも持って行くがいい。なぁに、育つに任せるにしているからどれだけでも構わない。しかし、アレが欲しいとは酔狂だな。わざわざ採取量の少ないそれを使わなくても、小麦粉なんかで充分代用できるのに」


「あれです、ほら、やっぱり素材には拘りたいじゃないですか」


「天然嗜好か。よろしい、それも男のロマンじゃふははは」


 バルサ・ミッコスは俺の演習場に入ってカタクリを採取したいという願いを当然のように受け入れてくれた。


 実にありがたい、それは渡りに船と言っていい提案だった。


 人たらしと言う奴だろうか。

 バルサ・ミッコスはなんとも気さくな男だった。

 なんだったら、手伝ってやっても構わんぞと、先ほど俺の喉元に突き立てたスコップを手にして言う辺り、実に気さくである。


 しかしながら、そんな気さくさが反面怖い男でもあった。


 まぁ、それは異世界だからという訳ではなくて、単に人間としてという訳だが。

 どこの世界でもそうだが、世話焼きおじさんと言う奴は、いるものである。

 いるものだが、そういうのはたいていろくでなしとワンセットだ。

 分かるんだよね。だって、仕事できたらたいてい、傲慢とか性格に難が出たりするものなんだからさ。


 まぁただ、少し接点を持つだけなら、世間話程度のお付き合いなら、問題ないだろう。うん、もう二度と会うこともないのだ、バルサ・ミッコス。それでいいとしようではないか。


 という感じに、俺はちょっと強引に今回の話を割り切った。


「なんや桜やん、またラッキーやな。これ、時間はかかるけど、割と余裕のイベントやで」


「そういうこと言わないの。それじゃ、せっかくなので、貰っていきますね」


「おう、幾らでも持って行くがいい。ははっ、遠慮はいらんぞ」


 気前よくバルサ・ミッコスがそんなことを口走ったその時。


「TENGAAあAAあAAAAA!!」


 何事、という、男の叫び声が森に木霊する。

 しかもなんというかそれは――。


「商標的に!!」


「ヤバそうな奴やん!!」


 であった。

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