第497話 カタクリ爺で九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 カタクリの群生地が連邦共和国騎士団の管理下にあることを知った桜。

 さっそく騎士団の駐屯地に向かうのだが、厳重な警備で入れない。

 どうしようかと桜が思わず唸ったその時、中からちょうどいいタイミングで老人が姿を現したのだった。


 どうやら軍の重鎮と思しきその男は、野良着姿でぶらぶらとどこかに出歩くようである。


 何をするのかは定かではないが。


「着いていくのはアリかもしれない」


「せやな」


 二人は爺の背中を追うことにしたのであった。


◇ ◇ ◇ ◇


 オーバーホールの偉そうな爺さんはそのままとことこと駐屯地から出て行った。

 どうにも駐屯所は建物だけで訓練施設はないようだ。


 仰々しい衛兵が立っているだけで中で兵による訓練などは行われていない様子。きっと、買い取った土地で訓練などはまたやっているのだろう。


 さて、そんな訓練の視察にあの爺様が出たのかと言われれば、これまた微妙な感じである。なんというか、完全に姿が趣味の格好であった。


 土いじりに行く爺さん。

 分かるんだよね、なんというか、そういうのって。

 俺も田舎で爺さん見てきた方だからさ。


 なんていうか、こう、今から家庭菜園がんばるぞいっていうそういう感じの気負いが肩から透けて見える訳ですよ。


 なので、てっきり勤務を終えて、爺さんは自宅に帰るのだとばかり思っていた。


 けれども――。


「おいおい、なんだかどんどん山の方に向かってるぞ」


「民家も少なくなっていく。これ、明らかに隠れるの難しい奴だよな」


「というかこれ、相手も俺たちが着けてること、気づいているんじゃないの?」


「あり得ない話じゃない――けど」


 鼻歌なんか歌って牧歌的な感じである。

 知っていると言えば、煙に巻かれている風に見えなくもないけれど、俺には爺さんが土いじりが楽しみで楽しみで仕方ないという風にしか見えなかった。


 うぅむ、と、これには俺も言葉を失くして唸るしかない。


 もしかすると山の上の方に広い土地を持って住んでいるのかもしれない。

 あるいは、段々畑を持っていて、そこで農作業しているのかもしれない。

 かもしれないでは話は見えない。やはり着いて行ってその目で事実を確かめるしかない。


 やるぞ、そう思った時。


「あれ、爺さんは?」


「え? さっきまで前を歩いていたはずじゃ?」


 いきなり視界から爺さんの姿が消えた。森の入り口、その近辺。俺たちが急いでそこに走り寄ったが、彼の姿は影も微塵もなくなっていた。


 これはいったいどういうことか。

 どうして彼の姿が消えてなくなってしまったのか。


 考えるより早く。


「へプア!!」


「大根太郎!!」


 大根太郎がやられた。

 根っこから堅い腐葉土に突っ込まれて埋められてしまったではないか。


 これではリスポーンできない。

 どころか、より大きな栄養を得て、成長してしまう。


 どうするんだ、大根太郎が抜けないくらいのド根性大根になってしまったら。

 誰がこのロリコンのやることに責任を取るんだ。


 なんてことはどうでもよくて。

 とにかく。


「だ、誰だ――」


「動きなさるなお前さん。なんだいじろじろとダイコンと一緒にワシを見て」


 きらり首元に光るのは、磨き上げられたスコップ。

 まるで包丁のように鋭い光を見せるそれを、俺ののどぼとけに突きつけて、白髪の爺様はそれまでの好々爺然とした顔つきを鋭く変えて俺を睨んでくるのだった。


 そう――なんとも恐ろしい剣幕で。


 この爺さん、ただ者じゃないとは思っていたけれど、それだけじゃない。

 まだまだ現役の騎士さまだ。


「知っているか。戦場で最も多く人を殺した兵器はスコップなんだ。今、我が軍では、携帯用に特化したスコップの開発に着手している」


「……異世界でもスコップ無双かよ。こいつは参るぜ」

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