第495話 情報収集で九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
「……タスケテ、タスケテ、タクアン、モウ、イヤ」
大根太郎を背嚢に干して作った干し大根。
そんな食べ物で飢えを凌いだ桜ご一行。
まずいも旨味も何もない大根で食いつないでなんとか街に辿り着いた。
大根太郎は瀕死だが――なんとか街へと辿り着いた。
さぁ、これから、シティアドベンチャーの始まりだ。
「それはそれとして、大根太郎の奴を滋養強壮によく効く沢庵としてうりだすというのはどうだろうかね」
「のじゃ、厄介者もおしつけられて一石二鳥なのじゃ」
「流石は桜どの。天才ですな」
「天才ちゃうわ!! アホー!!」
そんなこんなで、まだまだこのトンチキアドベンチャーは続くのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
「カタクリを栽培しているところ。さてねぇ、そんなの聞いたことがないねぇ」
「のじゃ。やっぱり希少な植物なのじゃ?」
「小麦のおかげでめっきりと需要がなくなったからねぇ。よっぽど酔狂な人でもない限り育てやしないし見向きもしないさ。なんだい、あんたらも酔狂な人かい」
リィンカーンの花屋の主人がこちらに怪訝な視線を向ける。
はいそうですとは即答できずに、俺はいやまぁ、いろいろありましてと言葉を濁した。
やはり、前の街で言われていた通りだ。
こちらの街でもカタクリは栽培されていないし、その栽培について何か当てがあるわけでもないらしい。
なんだかな。
俺と加代は顔を見合わせてため息を吐きだした。
そんな俺たちの姿を見て、うぅんと花屋の店主が低く唸る。
どうやらこの店主は気のいい人らしい。
俺たちの困り顔を見て、見捨てることなくなにやら世話を焼く気になってくれたみたいであった。ありがたいのだが、人の温かみがちょっと心に痛い。
ふぅむとひとしきり唸り切った店主さん。
彼女がぴっと人差し指を上げる。
「そうそう、この街の騎士団がね、確かカタクリの群生地を演習場にしていたはずだよ。売れなくなったっていうんで、カタクリの栽培農家から林ごと買い取ったはずだ」
「街の騎士団?」
「のじゃ?」
どうも馴染みのないその言葉に俺と加代が眉を顰める。
あらご存じないという感じに、店主さんが目を剥いた。
まぁ、ファンタジーの世界である。騎士もいれば冒険者もいる。
そしてそういう荒くれが集まれば冒険者ギルドもできるし、騎士団みたいなものもできるだろう。
そしてここは俺たちがいる国の首都である。
そういう防衛を行う騎士団が駐屯していたとして、それはなんらおかしくない話だった。
そう、なんらおかしくない話。
「中央連邦共和国騎士団と言ってね。まぁ、第一部隊から第七部隊まであるんだけれど、力になるのは第一部隊から第三部隊までさ。そこの人たちに頼み込めば、もしかすると摘み取らせてくれるかもしれないよ」
「へぇ」
「なるほどなのじゃ。けど、刈り取られているのではないのじゃ?」
「はっはっは、そんなことしたら演習にならないじゃないか。道も定まらない野山を行くから演習なんだ。と言っても、さっき言ったように、頼りになるのは第三部隊までだけれどね。本当、将来的に戦争になったらどうするんだか」
南の国はなんだかきな臭いうわさが漂っているし。
白百合王国の女王もいい歳だし。
あたしゃ不安だよ。
なんて、俺達にはまったく分からないし、関係のないことを語る店主さん。
いい人かと思ったら単に話したいだけだったのかな。
そんなことを思いながらとりあえず調子を合わせる。
合わせながら目配せで、加代に店主さんの相手をするように頼む。
俺を店主さんの視線から遮るように庇った加代。そんな彼女に背中を向けて、俺と大根太郎はこの街の騎士団とやらを探して動き始めた。
なるほどそうか、騎士団の演習場ねぇ。
「なんだか王道的な展開になってきたな」
「せやな!! これぞ異世界転生って感じや!!」
「まぁ、異世界で何度も転生しておいて言う言葉じゃねえけどな」
「桜やんがリスポーンさせるんやないかい!! ホンマもう、堪忍してや!!」
ワハハ。
笑いながら、俺はツッコみ交じりに大根太郎をリスポーンさせた。
何故ってお前。
こんな人の目がある所で大声出すんじゃないよ。
アンタ、ただの青果店で買った大根みたいに背嚢に背負ってるんだから。モンスターだと知れたらことじゃないのさ。
なんにしても。
「騎士団か。はたしてどうやって接触すればいいのやら」
まぁなんとかなるとは思うけれど。
女神の粋というかなんというか雑な計らいによって幸運値はカンストしている俺たちである。きっと、今回もなんとかなるはずだ。
間違っても騎士団入団とかそういう流れには――。
ならないといいなぁ。
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