第494話 探せカタクリの花で九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
桜と加代の前に現れた謎の子供。
その正体はアッカーマンという神さまだった。
トリックスターと呼ばれる彼の目的やいかに。
と言っては見たが、そこは流石のトリックスター。
当然、その来訪に深い意味などある訳がないのであった。
翻弄するだけ桜たちを翻弄したはた迷惑な子供の神は、風になってどこへなりとも消え去った。
◇ ◇ ◇ ◇
さて、神と出会ってから六日目。
普通ならばとっくについているはずの街に、俺たちはようやく到着した。
中央連邦共和国首都リィンカーン。
ぐるりと高い城壁に囲まれたその街はなんだか、まさしく中世風ファンタジーという感じの、RPGに出てきそうなそんな街だった。
「のじゃのじゃ。なんやかんやとあったけれど、無事に街に着けてよかったのじゃ」
「ギリギリの旅でしたね」
「途中でシュラトが食料を補給してくれなかったから確実に行き倒れてたよ。いや、本当にいい護衛人だった」
「いやぁなに。まぁ、これくらいのことはね、冒険者として当然さ、ふははは」
とまぁ、シュラトに感謝しつつ、俺たちは空を見上げる。
そう本当に苦労したのだ。
なにせ出発してみれば当初の予定より倍の移動時間が発生してしまったのだ。
食料もその他もろもろの旅の装備も、当然1日分余分にしか持ってきていない。干し肉を戻して食べるという食事もさることながら、その戻す干し肉さえもないという状況に陥り、たまらず近くに群生していたモンスターをシュラトが狩ったのは先程述べた通りである。
そう、食べずにはいられなかった。
もう少しで麻袋やら、革袋やら、そういうものを鍋で煮て食う。
そんな所まで行きそうになったのだ。
となれば当然――。
「のじゃ、終わったのじゃ、大根太郎」
「大根太郎、ダイコン、腐れマンドラゴラ、終わったよ」
「品種改良してあったんでしょうか。食べてもあまり魔力向上しませんでしたねあの歩きダイコン」
「ダイコンくん。君の尊い犠牲は無駄にはしない」
まっさきに食えるものは食う。
俺たちは申し訳ないながら、歩きダイコンこと大根太郎を捌いて食べた。
シュラトが取って来た肉より前に、甘辛く鍋で煮て食べたのだった。
味は正直に言ってまずかった。
たいして美味しくないおダイコンだった。調理方法がどうこうの前に、まず素材からして最悪だった。妙なえぐみのあるダイコンだった。
しかし腹は膨れた。
ありがとう大根太郎。
忘れないよ、歩きダイコン。
俺たちの血肉となって生きてくれ、腐れダイコン。
「……いや、いや、勝手に、殺さんといてや……切傷やで桜やん」
生きていた。
もちろん、どれだけ殺してもリスポーンするダイコン太郎である。
何度調理されて俺たちの胃の中に納まっても生きていた。けれども、この苦くてまずくてどうしようもない、喋ることだけが特徴的なダイコンをどうにかして美味しく食べることはできないかと、俺たちはいろいろな工夫を凝らしていた。
その一つとして、切り干し大根ならぬ丸干し大根状態にして、甘みを増してみせてはどうかと取り組んだ結果がこれだ。
背嚢に縛りつけてぷらりぷらりと道中を歩くその様は、時たますれ違う行商人たちをぎょっとさせた。だがまぁ、それはそれだ。
生きるためには仕方ない。
食べるためには仕方ない。
しかし、その仕方ない生活にもついに終わりが見えた。
「いよっしゃ、それじゃまぁ、無事に街に到着したことだし、ちゃっちゃと目的のカタクリの花を探しちゃいますか」
「のじゃ。街の園芸屋に顔を出して情報収集なのじゃ」
「趣味で園芸をしている人たちのネットワークに参加するのも大切ですね。私もいろいろ当たってみます」
「では、私はもっと美味しい大根太郎の調理方法について研究するとしよう」
各々が各々の抱負を語る。
そう、俺たちの旅はようやく、折り返し地点に到達したのだ。
もう、まずい大根を食べる必要もない。
アホみたいな断末魔を聞かされることもない。
俺たちは自由なのだ。
「「「「さぁ、行こう、首都リィンカーンへ!!」」」」
「……なんも、なかった、みたいに、スルーすなや」
すまんね、大根太郎、本当にすまん。
しかし仕方ないじゃないか。
だってお前、ダイコンなんだもの。
流石に人を食う訳にはいかんでしょ。まぁ、元人間だけれどさ、お前。
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