第482話 カタクリ栽培で九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 黒騎士シュラト、絶妙な距離感でコミュ障ぶりを発揮するの巻き。


「のじゃぁ!! なんだか、最近、わらわの出番がないのじゃ!! どうなっとるのじゃ!! この小説は、出ていけあんたは九尾さんなのじゃ!! おかしいのじゃ!! これじゃ他のご長寿連載小説の外伝なのじゃ!!」


「まぁ、だいぶ前から張られてた伏線回収だから、多少は我慢だ」


「のじゃぁ!! 酷いのじゃァ!! わらわの小説なのに、モフモフオキツネゆるふわ小説なのに!! これじゃ読者もがっかりなのじゃぁ……!!」


 いや、このヒロインなのに仕事してないポンコツぶり。

逆に加代さんぽいですよ?


「のじゃぁ!! 小説の主人公までクビになるとか勘弁なのじゃ!!」


◇ ◇ ◇ ◇


 どうやらこの黒騎士、この大陸とは別の大陸からやって来たらしい。

 来たらしいが、いったいどこの大陸からだろう。


 まさか暗黒大陸から――なんてな。

 流石にそんな都合のいい展開はないだろう。

 はっはっは。


 どうすりゃいいのか分からんくて、にっちもさっちもどうにも分からないのに、まるでそんなご都合主義のWEB小説みたいな展開。ある訳ありゃーせんてーの。


 まぁ、それはともかく。

 何か目的があってこの大陸にやって来たことは間違いない。

 そしてその目的を語りたくてしょうがない様子だった。


 うむ――。


「やはり、自己顕示欲の強いタイプだよな……」


「そう、この中央大陸でしか採取することのできない――カタ」


「だから、良いって、そういうの。勝手に採ってきてどうぞ」


「もちろんそのつもりだ。そのつもりだが、どうしていいのか分からなくて。冒険者ギルドに問い合わせたが、そんな採取依頼については今まで聞いたことがないと言われてな」


 レアクエスト発動中な訳ね。

 こちらの大陸で採れるのに、簡単に採れないとはこれいかに。


 何かの都合で採れないのか。

 それとも彼の知識が間違っているのか。

 はたまた、実は彼の言っているのは彼の大陸での名前で、実際にはこちらで、何か違う名前で呼ばれているのか。


 なんにしても――。


 なんだかなぁと思いつつ俺は頭を掻いた。

 しちめんどくさい話だ。まぁ、冒険者なんておつかいしてなんぼという所があるから、そりゃまた仕方ないのだけれど。

 しかしまぁ、どうしてそんな話を俺にするのか。


 俺は普通の商業プレイをキメてる異世界転生者だというのに。


 はぁとため息が黒騎士と交差する。

 まぁ、話も聞いてあげたことだし、そろそろ引き上げて貰おうと思ったその時――。


「もし、その花を手に入れることができたら。1000ゴールドほどなら融通を付けるのだがなぁ」


「ほう……」


 染み付いた貧乏性には逆らえない。

 なかなか大きく出た成功報酬に、俺はちょっとだけ乗り気になったのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


「のじゃ、それで、勝算もないのにお仕事を受けてきたのじゃ?」


「なの、桜お兄ちゃん、それはちょっと無責任なの!!」


「きゅるるーん」


「せやで桜やん!! 商売はもっとこつこつ堅実に!! ギャンブルなんてダメ絶対やで!! ギャンブルで稼いだ金でなのちゃんやドラコに飯食わすて、そんなん教育上よくない!! ギャンブル反対やで!! 儲けた金で風――ぽけェっ!!」


 いつものように腐り大根を叩いて潰す俺。

 そう、俺は結局、お礼の1000ゴールドに負けて、ちょっとシュラトから話を詳しく聞いてきてしまった。

 そして察した。


 多分これ、いける奴やと。

 ナノちゃんあるいは加代が居れば、きっと何とかなる奴だと。


「のじゃ、で、いったい何を求めているのじゃ?」


「なの!! 冒険は危険なのやめておくの!!」


「くるるーん!!」


「冒険に焦がれる心!! それは、異世界転移者にとって大切な要素!! しかし桜やん、やっぱりワイら、商業プレイを選んだ男!! そこはブレやんとこ!!」


「いや、これも立派な商業プレイだよ」


 のじゃ、なの、くるるーん、ほわーいと首を傾げる同居人たち。

 そんな彼らに俺は――。


「育てなくちゃいけないのは調べてみると簡単だった。カタクリの花――つまり、片栗粉をその暗黒騎士は求めていたんだよ」


「のじゃ」


「かたくり? なの? どんな花なの?」


「きゅるるーん?」


「なんに使うつもりや!? 料理人!? いや、そんな感じやない!! 桜やんの話を聞く限り――自分の刀を納める鞘Xを造る気なんやろか!?」


 微妙に誤魔化すなよ腐れダイコン。

 お前も甘酢あんかけにして食っちまうぞと言いたい所だったが、実際、何が目的なのかよくわからないのは事実なので俺は言い返すことができなかった。


 そう、シュラトが求めているのは片栗粉。

 何故か黒い騎士は、そんな、冒険者には不要と思える逸品を強く求めていらっしゃる様子だった。

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