第442話 ブリティッシュで九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 異世界転移楽勝モードの桜と加代ちゃん。

 そんな二人に、思いがけずピンチが訪れる。

 簡単に見つかる・手に入ると思われた異世界の住居は、なんと街の中にあるダンジョンだった。


 異世界では、住む人の居なくなかった空き家はダンジョンになるのだ。


「んなわけねーだろ!! このトンチキファンタジー書き!!」


「のじゃ!! ご都合主義でこんな展開にするななのじゃ!!」


 かくして異世界に転移したのに冒険ないのかな、このままタウンアドベンチャーで終わっちゃうのかなと思われた異世界編。ダンジョン探索始まります。


◇ ◇ ◇ ◇


 装備――。

 胴、ポロシャツ。

 脚、ジーンズ。

 右手、なし。

 左手、なし。

 アクセサリー、なし。


 どれだけ確認しても装備なしなし。

 まったく防御力のない俺は、自分の装備の不十分さに愕然とした。


 そんな装備で大丈夫かと問われれば、大丈夫じゃないと泣いて縋りたくなる惨状だ。ぶっちゃけ、冒険があるなんて聞いてなかったので、仕方ないといえば仕方ないのだが。

 それにしたって、いきなりすぎやしませんかね。


「のじゃー!! 桜!! こっちに丸太があったのじゃ!!」


「おっ、やるな加代さん!!」


 右手、丸太。

 左手、丸太。

 ダブル丸太。丸太二刀流である。

 うーん、それにしても、吸血鬼をぶっ刺して出血多量で殺すのに、もってこいという感じの丸太じゃないか。よくこんなもん落ちてたな。


 流石は異世界。


 よし、ここはいっちょ言ってやるか。


「みんな!! 丸太は持ったか!!」


「……何を言っておるのじゃ?」


 加代さん、そこは彼岸〇的に、応って言うところだよ。

 そして、自分は丸太持ってないし。俺だけ丸太持った状態だし。

 おもっくそ前衛で俺を戦わせる気満々だよ、このオキツネ様。


 まぁいいけどさ。


「のじゃ、後衛は任せるのじゃ桜よ。わらわの狐火で、飛んでくる敵をばったばったと焼き払ってくれるのじゃ」


「おいおい、これから住む家だってのに、燃やしてどうするのよ」


「のじゃ、安心せよ。狐火はプラズマで説明することができるのじゃ」


「まさかの雷魔法!? どうでもいい驚きだよ!!」


 なんにしても――。


「という訳で!!」


「ダンジョン突入!!」


「いってらっしゃいませー」


 街の職員に背中に手を振られながら、俺と加代は未来の我が家の中へと、おっかなびっくりに足を踏み入れた。


 どうか、ゴーレムとか、ミノタウロスとか、オークとか、そういうおっかないの出てきませんように。異世界転移したけれど、できればそういうのと遭遇しないまま、元の世界に帰れますように。


◇ ◇ ◇ ◇


 平屋建てダンジョンは、3LDKだがめっぽう広かった。

 だいたい、3ルームが20畳近くあり、迷路のような通路になっているから仕方ない。

 そしてその通路が、地面剥き出し、いかにもダンジョンだからなお性質が悪い。


 これ絶対人が住む家じゃないだろと、そういうことを感じながら、俺と、加代は暗い平屋建てを進んだ。


「のじゃぁ、なかなか大きい家なのじゃ。こんな家、向こうじゃ住もうと思っても住めないのじゃ。よかったのう、異世界に来て」


「楽観的過ぎやしないか、加代さんや。お前、どんなモンスターが棲んでるかわかんないんだぞ」


「モンスターが棲みつくということは、いい家の証拠なのじゃ」


「畑にミミズの理論かよ!! お前なぁ、そんな調子でこの先異世界を――」


 なんて言っている傍から、視界の端にとことこと、何やら動く影が見える。

 のじゃと加代が目を見開く。それを確認してから、俺はゆっくりと、その影が動いた方に視線を向けた。


 壁の影。

 ちょうど曲がり角になっているそこに隠れているのはずんぐりむっくり、俺の膝小僧くらいの大きさの何か。

 しかしながら、なんというか、妙に見覚えのあるシルエット。


 緑色の葉をにょっきりと頭から生やしたそいつは、なぜか、タキシードを着こんだ――ダイコンであった。


「ムーッシュ?」


「「う、うわぁ、モンスター!!」なのじゃ!!」


 まるでハロウィンのジャックオーランタン。

 そんな道化染みた格好だが、モンスターには違いない。俺と加代は、叫び声を上げると、まずはイニシアチブをモンスター側に取られてしまった。


 ちくしょう、こんなヘンテコモンスターが出てくるなんて聞いてないぞ。

 どうなってるんだ、この異世界ファンタジー。やる気あるのか。

 もっとこう、スライム的なのとか、うさぎ的なのとか、そういうの出して来いよ。


 なんだ、タキシード着たダイコンって。

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