第419話 仕事の幅で九尾なのじゃ

 加代さんロリ化する、から、かれこれ一週間が経った。

 まぁ、この手の不思議ネタにはもう慣れっこになった感のある俺たちである、どうせそのうち治るだろうと思っていたら――。


「のじゃぁ、まだ治らないのじゃ」


「お前ホント、今回どうなってんの?」


 今日も今日とて通常の三割引きの身長。

 くせっけのある髪をツインテールにして、より犯罪臭を増したロリ加代さんを前に、俺はため息を吐き出した。


 これこの通り、まったく治る気配なし。すっかりとロリ加代さんは、俺の生活に馴染んでしまった――という塩梅であった。


 うぅん。まぁ、そのなんだ。

 夜が仲良くできなくなってしまったのは仕方ないとして、この、いかんともしがたい犯罪臭をどうにかすることはできないもんかね。別に、俺はそういう気がある訳でもないのだけれど、こう、やっぱり世間体というのがある。


 独身ではないがいい歳したおっさんの部屋に、明らかに未成年と思われる女性が突然出入りするようになってみ。

 そりゃお前、管理会社から心配という体の確認の電話も入るっての。


 加代さんがそこは説明して、なんとか理解していただきましたが、割と生きた心地がしなかったですよ。いや、ほんと。あのはた迷惑な警官に、ここが悪しきロリコンのアジトかと踏み入れられるんじゃないかと、ひやひやとしたものですよ。


 そしてそのヒヤヒヤは、現在進行形で続いている訳ですよ。


「治せるものなら、可及的速やかに治していただきたいんだが、加代ちゃんさん」


「のじゃぁ、わらわもこれでも頑張っておるのじゃ。けれども、いかんともしがたい、どれだけ妖力をチャージしても全然足りない、溜まらないのじゃ」


「チャージしても全然足りない、溜まらないって――パンクじゃないんだから」


「のじゃぁ。実感がわかんであろうが、本当なのじゃ。信じて欲しいのじゃ」


 いや、その辺りの実感は湧くよ。

 なんていうか、精のつく料理を食べてるのに、全然こう溜まった感じがしないとか、そういうのってあると思うんですよ。


 実際、今回の加代さんロリ化に伴って、一緒にそういうご飯を食べていた身としてそれはよく分かるんです。なんというんですかね、俺も老いちまったなって。こんなん食べたら、その日のうちに辛抱たまらんようになってたのに、もうそんなこともなくなってしまったんだなって、そういうことを思ったりするんですよ。


 うん、関係のない話だな。

 そして、これは例えとして出したとしても、逆に分かってもらえない話だな。


 俺は少し自重して咳払いをすると、ちゃぶ台を挟んで前に座る、ツインテールロリ加代さんに向かった。


「まぁ、もうちょっと気長にやるか」


「のじゃ。そう思ってくれると助かるのじゃぁ」


「というか、実際それで生活に支障が出てきているなら、早急になんとかしなくちゃいけない所だけれど。今のところそういうこともないんだろう?」


 のじゃぁと加代が唸り声をあげる。

 首をひねって何やら考え込んだ彼女は、それから、指を立てて一言。


「仕事の幅が狭まったのじゃ。やっぱり、成人してないとちゃんとした職業に就くのは難しいのじゃ」


「……まぁ、就職してもすぐにクビになるんだから、気にするだけ無駄じゃない」


「のじゃぁ!! なんてことを言うのじゃ!! この格好のせいで、各種運転免許を持っていても全部無駄になってしまうのじゃぞ!! わらわが勉強に費やした時間と、受験費用を考えれば、とんだ大損なのじゃ!!」


 大赤字なのじゃと嘆く加代さん。

 そりゃまたなんともお気の毒。

 可哀そうなこってというものですが。


 うぅん、運転ねぇ――。


「ちなみに、バスの免許は?」


「持ってるのじゃ」


「電車の運転は?」


「経験ありますなのじゃ。地方電鉄じゃ即戦力なのじゃ」


「そして、それらの運賃は?」


「……まぁ、こういう格好であるから。無理して大人料金で乗る必要もないかなと思って」


 トータル得してるんだからいいんじゃないですかね。

 やっぱりやってた節約フォックス。まぁ、こういうピンチな時なので、俺もとやかくうるさいことを言うのはやめようとは思うが。


「存分に子供フォームりようしてるじゃねえか」


「……のじゃぁ」


 子供になっても逞しいな。

 まぁ、それでこそ加代さんってもんだが。

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