第413話 高難易度で九尾なのじゃ

 いまやってるゲームはこれMGOマジシャンズ・ゲート・オーバー

 もうなんていうか、おなじみですね、ハイ。水着タマちゃんの時にはお騒がせして申し訳ございませんでしたという感じです。


 そんなMGOでは、定期的にイベントが開催されている。

 水着イベントがひと段落したと思えば、今度は運動会イベントである。

 そしてその運動会イベントの最大の目玉というのが、そう――。


「高難易度クエストがクリアできねぇええええええっ!!!!」


「のじゃぁ、煩いのじゃ、桜よ」


 スマホを放り投げたくなるのをぐっとこらえて我慢する。

 そう、高難易クエストなのである。


 そうこの運動会イベント。普通のクエストは、まぁ、そこそこ。ゲームのキャラを育成していれば、倒すことができるような、そんな造りになっているわけですよ。それが、この高難易度クエストとなると、知恵と、実力と、運が必要になってくる、スーパーマゾゲーへと変貌してしまうのです。

 何を言っているのか分からないでしょうが、スーパーマゾゲーなのです間違いなく。


 そんなマゾゲーを、あえてクリアすることなく、去年は余裕でスルーした僕だったのだが。そう、僕だったのだけれど。


「嘘だろ!? 最終クエストの追加報酬が、タマチャン・ブルマの姿だってぇ!!」


 またしても俺が溺愛するダメっ狐娘のタマチャン。そのバリエーション装備が配布されることになったのだ。

 これには俺も言葉をなくした。

 運営、えぐいことしてくれるじゃねえか。思わず憎悪に力を籠めすぎてしまい、スマホを握る手が痛くなってしまった。


 しかし、タマちゃんの一ファンとして、それを受け取らないという選択肢はあり得ない。俺はスマホを両手で持ち、MGOの高難易度クエストのボタンを押下すると、全力で、このクエストだけは参戦する意思を固めた。

 絶対に、ブルマタマちゃん手に入れて見せる。


「のじゃ、病気なのじゃ……」


◇ ◇ ◇ ◇


 ガチャと高難易度、いったいどちらが難しいのかは分からない。

 しかし、ガチャが運要素だけなのに対して、高難易度には戦略を練って戦うことができるという、最大のメリットがある。このメリットを使えば、十分、俺たちは戦うことが……。


「できる訳ねーだろ!! なんだこの壊れ補正キャラクターは!!」


 強かった。

 ブラックタマちゃん――タマちゃんの悪い心が成長した存在、胸とかお尻とかいろんなところがぷりっと成長するようになった、ちょいお姉さん系キャラクターだ。

 そんな彼女はレアリティ驚異の四。なかなかに強い。

 それがさらに効果を付属させて、特殊な段階を踏まないと、ダメージを与えることができなくなっていた。更に、全体攻撃待ったなし。ダメージこそ小さいが、ちみちみと地味な攻撃をしかけてくる。


 もはやこれまで、俺はフローリングの上に倒れこむと、スマホを砲出して天井を見上げたのだった。無理無理、こんなの無理。重課金兵出ない僕には、とてもじゃないけれど、倒すことができませんです。


「のじゃぁ、あきらめたのかえ、桜よ」


「あぁ。もうこんなん時間の無駄だぜ。やって損した」


「……お主のタマちゃんへの愛情はその程度だったのか。ふむ」


 なに。

 その言い方はなんだ。おい、加代さんよ。

 ちょっと俺の頭にカチンと来ましたよ。


「けなげな姿がかわいらしいと、あれだけ熱演していたのに、いざ、彼女のために難しい試練が訪れたら、さっさと身を引いてしまうのじゃね。そうやって、口では大切とか言っておいて、やっぱり自分の身が可愛い」


「おい、加代!! もっぺん言ってみろ!!」


 誰がそんなことを言った。

 俺はじろりと加代を睨みつける。


 俺はただ、弱いままで挑んでも時間の無駄だと投げだしたのだ。別に、タマちゃんのクエストをクリアするのをあきらめたわけでは断じてない。というかありえない。少しくらい考えたけれども、そんなつもりは今はない。


「見てろよ!! 絶対に俺が手に入れてやるから!!」


 そう言って再びスマホに手を伸ばす。

 幸いイベントの高難易度クエストは、参加するのにそれほどポイントを消費しない。

 玉砕覚悟でやってやろうじゃないか。そんな気持ちで、僕は、再びタマチャンの衣装取得のための奮闘を再開するのだった。


「うぉーっ!! 絶対に、絶対にブルマ着せてやるからなー!!」


「桜!! 声!! 声が大きい!! 恥ずかしいのじゃ!!」


「タマちゃん!! タマちゃん!! あぁ、タマちゃん!! 愛してる!!」


「だから、声が大きいと言うておるではないか!!」


「ついでに、加代さん!! 加代さん、加代さんも超愛してる!! もう、こっちはメロメロだよこんちくしょう!!」


「の、のじゃあああああ!! 飛び火はやめて欲しいのじゃぁあああああ!!」

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