第381話 協力隊で九尾なのじゃ

「妖怪海外協力隊からお手紙が来たのじゃ」


「……あんだって?」


 まったく耳に馴染みのない単語が加代の口から飛び出して来たので、俺は思わずツッコんだ。いや、耳に馴染みというか、なんだそれはというか。


 なぜだろう、妖怪という言葉の方が馴染みがあるのは。

 妖怪と海外と協力隊という言葉が重なりあうことにより醸し出される、このなんとも言えない得体の知れなさは。


 まるで目玉の親父がイケメンになったかのような、訳のわからなさに困惑しながら、えっと加代さんそれはいったいと、俺はその話題に鋭いメスを入れた。


「のじゃ。妖怪海外協力隊なのじゃ。発展途上国の人々に協力する、ボランティア団体なのじゃ」


「……ボランティア団体。妖怪なのに?」


「心に余裕がなければ人は驚かないのじゃ。その余裕を作るためにも、発展途上国への支援というのは、人間も妖怪も疎かにしてはならないのじゃ」


 そう言って胸を張る加代さん。

 相変わらず、妖怪ツルペタスッテンドン、女ぬりかべと言っても通じそうなそのない胸が、虚しくそり上がっていた。


 うぅむ。

 どこからどうツッコんでいいのか。というか、どうツッコめばいいのか。

 迷っているうちに、加代が話を続ける。


「のじゃ。ほれ、わらわはママがカンボジアに棲んでおるじゃろう。その関係で、何かといろんな国から来てくれないかと頼まれてのう。一時期、いろんな発展途上国に行っておったことがあるのじゃ」


「なんだよお前そんなことしてたの。ろくにお仕事できた試しがないのに」


「お仕事とボランティアは別なのじゃ!! まぁ、なんじゃ――ボランティアなのにお給料が出るから助かったといえば助かったがのう」


 ある意味天職だったんじゃないだろうか。

 こんな、とんちきポンコツオキツネ、国内ではまともに働けないのだ。それが、海外では重宝されるというなら、それはそれでいいではないか。


 いっそ移住してしまうか。

 発展途上国は、いろいろと過ごしやすいという話も聞くしな。


 なんてことを一瞬でも本気で考えてしまった。

 やれやれ、疲れているな、俺も。


「しかし、もう引退したんだろう?」


「のじゃ。任期満了でのう。機会があればまた行ってみたい所じゃが――お主も居るし、まぁこっちで腰を据えて生活するしかないのう」


「全然腰が据わってない件について」


「のじゃ。それは言わないお約束なのじゃ」


 どうやら当時の同期たちから、久しぶりに座談会でもしませんかと、そういう話が来たらしかった。

 妖怪の世界でも、そういう横のつながりというのはあるらしい。


 いやはや妖怪の世界も大変だな。


 そんなことを思う半分、興味も湧いてくる。

 妖怪海外協力隊。いったいどんな仕事をするというのだろう――と。


 尋ねてみれば、加代はうぅんと唸って口元に手をあてた。


「別に、普通のことじゃよ」


「普通のこと?」


「例えば――ここ掘れワンワンと、地雷のありかを見つけてみせたり」


「花咲かの翁!!」


「あとはそう、顔に出来た瘤を切除したり」


「瘤取りの翁!!」


「昼は竹を取りに行き、夜になるとその竹槍と斧を使って、グルカ兵並みの戦闘を繰り広げたり」


「竹取りの翁!!」


 竹以外にもぶっそうなもの取ってないその翁。

 それはともかく――。


「あいつらも妖怪なんかーい!!」


 日本昔話のカテゴリ的にくくられる爺ペンタブルズの逞しさに、俺は思わず声を上げた。海外でも大活躍だな爺。いつかそっちでも童話になるんじゃないのか。


「まぁ、一番海外で重宝されているのは、釣り名人の翁なんじゃがのう」


「釣り名人? そんなの居ましたっけ?」


「カメを助けた聖人でのう――」


 やめよう。

 確かに翁になった人だけれど。それはやめよう。


 というか、お前の知り合い三太郎多くない。

 あと、この調子だと、桃が出てくるのも時間の問題な気がするんだけど。

 やめてねあーうーフォックス。

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