第372話 唐突に大仏で九尾なのじゃ

 日本にはいろんなところに大仏がある。


 奈良の大仏、鎌倉の大仏。新しいところで牛久の大仏なんてのがある。

 なぜ日本人はこれほどまでに大仏を愛し、大仏は日本人に愛されるのか。

 その理由は定かではないが――とりあえずよう作るわあんなもんと俺は思う。


 特に鎌倉の大仏なんてぇのは、一般人の寄進で作られたのだとな。

 大昔に金を出すのも大変なことだが、資材を集めるのも大変なものだ。やれやれ、どうしてその情熱を、もっと他の所に注ぐことができなかったのか。

 その金で他にもっと救えるものがあったのではないのか。


 いやよそう。

 そんな現実逃避をするのはよそう。


 できてしまったものは仕方ないじゃないか。人は大仏に、当時の自分たちではどうにもならない苦しみを託してそれを立てた。

 ならばその思いを尊重してあげるべきなのだと、俺は思う――。


 そして。


「キイテクダサイヨカヨチャンサン!! サイキン、ミンナガワタシノコトヲマイッテクレナクナッテキタンデスヨ!!」


「まぁ、大仏ってフォトジニック的にあまりよくないからのう」


「ニクイ!! インスタグ〇ムガニクイ!! フォトジニックトイウコトバニオドラサレテ、ホトケノココロヲワスレタニホンジンガニクイ!!」


「のじゃのじゃ。大仏がそんなことを言ってはいけないのじゃ」


 大仏が同居狐に向かって嘆く姿も、ちゃんと直視しなくてはいけないと思う。

 直視したくないけど。直視しなくてはいけないのだ。


 狐と同居する者として、これは避けて通れない道なのだ。

 できれば大きく迂回してしまいたいけれど。

 いっそこの同居狐ごと俺の人生からなかったことにしてしまいたいけれど。


「……なんでさ!!」


「のじゃ?」


「ドウカシマシタカ、サクラサン」


「……重ねてなんでさ!!」


 なんで大仏が動いているんだよ。

 なんで大仏が加代に人生相談しているんだよ。

 なんで大仏が普通に俺の名前を知っているんだよ。

 なんで大仏ネタなんだよ。サイコロ振って適当にネタでも決めてんのかよ。


 フォックス。

 フォーックス。

 暑さについに作者の頭がやられたかフォーックス。


 いや作者ってなにさ。

 目の前で繰り広げられる日本大仏話に俺は熱中症の症状のようなひどいめまいを感じずにはいられないのだった。


 すると加代さん、のじゃのじゃと笑い飛ばす。

 何がおかしいんだフォックスとつっかかりそうになった。そこをぐっとこらえると、これには深いわけがあるのじゃよと、彼女は穏やかな口調で語り始めた。


「いや、実はこの大仏は、大仏であって大仏でなくてのう」


「大仏であって大仏じゃない? そんなゲシュタルトが崩壊したようなことを言われてもわっかんねーよ加代さん!!」


「ドウセツメイシタライイモノカ」


「はいはい付喪神。どうせ付喪神オチでしょ。わかってるよフォーックス。俺もこの狐と暮らして長いんだ、怪奇ネタにはだいたい頭が巡りますよ」


 惜しい。

 大仏と狐がハモってそんなことを言う。


 何が惜しいのか。

 まったく見当はつかないが、言われて気分のいいものではなかった。


 この大仏。

 ちょっと銅でできているからって調子にのりやがって。


 そっちがその気ならこっちにも考えがあるぞ。

 フライパンでぶんなぐってやろうか。


 そんな俺の剣呑とした空気を察したか、うっと大仏がひるむ。

 彼か彼女かわからないがとりあえず大仏をかばって、やめるのじゃと加代の奴が俺の前に出た。


「のじゃ、誰もやりたくって大仏なんてやってる訳じゃないのじゃ」


「大仏、やってる?」


「――ソウ、アレハテンポウハチネンノコトデシタ」


「ひょんなことから村の大仏に化けてしまったタヌキは、村人に崇められるうちについにタヌキに戻ることができなくなり」


「割と本気で日本昔〇的な展開やめて!!」


 しかもそれ、ちょっと悲しくなるオチの奴じゃん。

 いや、実際ちょっと今悲しくなってる奴じゃん。


 そんなん聞いたら大仏に怒れなくなるでしょ。

 勘弁してよ――。

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