第357話 衝撃!! 今明かされる真実……で九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
衝撃の新事実。
葵ちゃんは実は下戸だった。
アルコール呑んでその場で即落ち。眠りこけた彼女を目の当たりにして、桜と前の会社からの同僚はあっけにとられるのだった。
「うわぁ、最初から酒飲ませておけばよかったんじゃんこれ」
「……いやけど、彼女が下戸とか俺も知らんし」
◇ ◇ ◇ ◇
「……ん、あ? あれ、ここは?」
「のじゃのじゃ。タクシーの中なのじゃ」
「……ッ!? どうして貴方が!? というかなんで一緒に!?」
「のじゃ。葵ちゃんがお酒飲んでぶっ倒れたから送ってあげたのじゃ。酷いなぁ、せっかく二次会を断って、君に付き添ってあげたっていうのに……なのじゃ」
加代さんがそれとなくかけたスマホの通話。
そこから前を行くタクシー、その車内のやり取りが聞こえてくる。
後で陸奥副社長に、今回のミッションの費用は請求できるからって、贅沢な電話の使い方をするものだ。
とまぁ、それを頼んだのは俺なのだけれど。
お酒を飲んでぶっ倒れた葵ちゃん。
彼女をどうするのか、まだまだ宴も始まったばかり、これから二次会三次会にふけこんで、いずれいい感じの二人でしっぽりと――なんて感じの女子大生たちは、明らかに
そこで気を利かせて、寮まで送るよと言い出したのが加代こと九尾坂加代衛門である。彼の提案に、ノーというモノは、幸なことに居なかった。
そんな訳で。
葵ちゃんをタクシーに乗せて、加代は彼女の住んでいる女子寮に向かっていた。
もう正体を明かしてもいいだろうが――。
「まったく、なんなんですか貴方は!! 私にしつこく絡んできて!!」
「のじゃぁ。つい、ほっておけなかったのじゃ」
「……ま、また、そんなことを言って!! そんな言葉で絆されませんよ!! 私を誰だと思っているんです!! ナガト建設副社長の孫娘――陸奥葵ですよ!!」
「ふふっ、そんなの関係ないのじゃ」
このオキツネノリノリである。
まるでヅカの男役よろしく、ノリノリで葵ちゃんに迫っている。
正直、その熱烈アプローチに、見ているこっちがちょっとやきもきした。
加代さん、ちょっと、火遊びはやめてね、加代さん。
「え、なに? お前の彼女さんて、同性もいける口なの?」
「んな訳ねーだろ。リップサービスだよ、リップサービス」
そうだと信じている。
きっと、いずれ葵ちゃんが合コンに参加しようかと迷った時に、そんなに悪いものでもなかったなと思ってもらうためにサービスをしているのだ。
俺は加代の行いを信じることにした。
手はじっとりと湿っていたが。
のじゃ、弟が弟だけに、ちょっと心配なのじゃ。
「そういや彼女の弟さん――ケッキョクトイレカラデテコナカッタネ」
「言うな」
世の中いろいろあるフォックス。
狐の多様性も、人の多様性も、認めてやろうじゃないか。
まぁ、加代ちゃんにはちょっと、そういうのは勘弁して欲しいが。
とにもかくにもちょっと怪しい雰囲気がタクシーの中には満ちていた。
「……貴方みたいな軽薄な人。私、嫌いです」
「嫌いなら、そんな風に顔を背ける必要はないんじゃないのじゃ?」
「なっ、なんなんですか!! 本当に、貴方って人は!!」
「さぁ、なんなんだろうね……」
そう言って、あっ、と、葵ちゃんが溜息を吐き出すのが聞こえる。
思わず生唾を飲み下す。駄目だ加代ちゃん、それ以上はいけない――。そう言って、思わずスマホに声をかけようとした時。
きぃとブレーキ音が、俺のスマホのスピーカーから聞こえる。
気が付くといつぞや僕も葵ちゃんを送った、彼女が寄宿している寮の前へとタクシーは停車していた。
「残念、いいところだったのになのじゃ」
「あっ、あっ……」
「ふふっ、今日は楽しかったよ葵ちゃん。また、機会があったら一緒に遊ぼう」
続いて、タクシーの扉が開く音。逃げるように飛び出したのか、慌ただしい音がして、それから不意に静寂がこちらのタクシーの中まで支配した。
夜風の音がスピーカー越しに聞こえてくる。
――やれやれ。
そう加代が呟いた時だ。
「あ、あの!!」
「のじゃ?」
「こ、ここまで、送ってくださってありがとうございます!! そ、それだけ!! 御礼だけは言わせていただきます!!」
律義に、けれども叫ぶように告げた葵ちゃん。
どうしてだろう。あの居酒屋で言葉の節々に感じていた感情の棘が、その台詞の中からは少しも感じられなかった。
うーん。
これってもしかして。
「……加代、フラグ立てちまったかな」
「……かもしらんねこれ」
俺と同僚がそんなことを口走る。
はたして葵ちゃんが男装の加代にどのような感情を抱いたのかは分からない。
赤の他人である俺たちには、彼女の反応からその内心を思い測ることしかできないのだ。
けれどもどうもこの様子は――。
どうしたものかね。
そう思って前の会社からの同僚と顔を見合わせる俺。
すると、タクシーの運ちゃんが不意に口を開いた。
「あの、ところでお客さん」
「はい?」
「なんでしょうか?」
「……こんな人気のない所に、男二人でやって来て。もしかしてその」
そういうご関係なんですか。
青い顔で問われて、俺と前の会社からの同僚は――慌ててそれを否定した。
「んな訳ないだろ!! なぁ、桜!!」
「そうそう!! そんな訳ないって!! やだなぁ、誤解ですよ運転手さん!!」
「いやけど、なんだか二人で仲よさそうだったから」
「違うって、なぁ、前野!!」
「うん、そうだよな、桜!!」
そう、そこで俺はようやく気が付いた。
この作品のタイトルの真意を。
今明かされる驚愕の真実。
そして、葵ちゃんのはじめてのごうこん編と銘打って張り巡らされた――この一連のエピソードの真の意図に。
「え、お前、前野っていうの!?」
前の会社からの同僚という名前がそろそろ鬱陶しくなったので、名前を作者が付けたかったという、驚愕の真実に!!
「いまさら!?」
どっとはらい。
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