第324話 ゲームセンター狐で九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 ワーキングスペースで加代ちゃんに赤っ恥をかかせた桜くん。

 その埋め合わせに、ゲームセンターデートをすることになったぞい。


「……あらすじなんて随分久しぶりだなぁ」


「のじゃぁ。別にあらすじ立てるほどのことでもないのじゃ」


◇ ◇ ◇ ◇


「いや、ほんと、マジで悪かったって加代さん。なんかね、あんまりにもお前が狐娘にちやほやされるもんだからさ。俺もこう、嫉妬心が湧いて来ちゃって」


「だからってあんな赤っ恥をかかせることはないのじゃ!! どうしてくれるのじゃ!! もうあのワーキングスペース使えないのじゃ!!」


 クククッ、それが狙いよォ。

 お前みたいな駄女狐がフリーランスなんて考えたのがいけないんだ。


 というか、どうせお前あの調子じゃ無理だっての。

 早番馬脚を現して、赤っ恥かいて同じように撤収するのがオチだよ。

 そうなる前に、俺が穏便にケリをつけてやった――ということにしとけ


 コワーキングスペースからちょっと離れた所にあるゲームセンター。

 そこで、おこ状態になった加代さんを、内心で笑いつつなだめすかす。頬をぷっくりとふくらまし腕を組んだ彼女は、ちっとも俺の方を向いてくれない。


 近年稀にみる激おこぶりである。


 むぅ、これはちょっと長引きそうかな。


 俺も少し大人気なかった。

 加えて、ここ最近こいつをからかうことも少なかった。

 だから、ちょっと加減を間違えてしまったようだ。


 そこは素直に反省しよう。うん、同居人として。


 しかし、どうしたもんかな――そう思ってゲーセンを眺めていると。


「おっ? おい、あれ見ろよ、レトロゲーコーナーとかあるぞ。加代、お前でも分かる懐かしいゲームとかあるんじゃないの?」


「……興味ないのじゃ」


「まぁそういうなよ。アタリのポンとか置いてあるかもしれんじゃないか」


「レトロすぎるのじゃ!! せめてインベーダーにして欲しいのじゃ!! まぁ、そのくらいの時代から生きていたけど!!」


 俺の小ボケにツッコミを入れる程度の余裕はあるらしい。

 これなら大丈夫だなと、俺は加代の手を引くと、そのレトロゲームコーナーに向かった。


 さて。

 出向いてみれば、あるわあるわ。


「ス〇2、〇竜、餓〇、ぷよぷ〇、サム〇ピ、雷〇、バー〇ャ、鉄〇、ギャルズパ〇ック。おぉ、見事に懐かしいのが勢ぞろい」


「のじゃぁ、最後のはなんか違うのじゃ」


「おっ、スーパーリ〇ル麻雀もあるじゃないか」


「同居人の前で脱衣麻雀ゲーに反応するななのじゃ!!」


 お前、なに言ってるんだよ。

 脱衣マージャンは男の浪漫じゃないかよ。

 もう脱衣マージャンが俺らみたいなITチャイルドを育てたと言っても過言ではないんだぞ。


 ただ、最近はゲームセンターも健全化されたからなぁ。

 こういうのはもう、新作は世に出ないんだろうな。

 なんて思うとちょっと残念である。


 のじゃぁと溜息を吐き出して、加代が脱衣麻雀ゲーが入っている筐体から遠ざかる。そうして彼女が座ったのは――話題に出したインベーダーゲームが入っているテーブル型筐体であった。


 懐かしそうにその表面をなぞって、加代が少しだけ笑う。


「話題に出すだけあって、何か思い入れでもあるのか?」


「……のじゃぁ。恥ずかしながら、わらわこのゲームに相当入れ込んだのじゃ」


「ほぉん」


「まったく興味なさそうな返事を返したのう。もうちょっと、女子の話には親身になって耳を傾けるべきじゃと思うぞ」


 そんなことないってと、俺は狭い座席に強引に割り込んで加代の隣に座った。

 一万円が出てこなかった財布から百円玉を取り出す加代。筐体のコイン挿入口に、親指でそれを添えて挿入すると、軽快な電子音が鳴り始める。


「どれどれ、それじゃ、ちょっと加代さんのお手並み拝見と行きましょうか」


「のじゃ。お主が隣に居っては、必殺技――炎の狐は使えんのう」


「それ、字面的に使っちゃいけない奴じゃねえ」


 出っ歯になって、どりゃーと逆立ちしたりとか、パンチラしながら、とりゃーと逆立ちしたりとか、なんかこう標準ブラウザの代わりに使ったりとか、色々と危ない気がするからやめてちょうだい。


 どうせ今日はもうのんびり過ごすだけなのだ。

 まったりとゲームもプレイするとしましょうよ。


「のじゃ、ちょっと、桜、そんなにひっついたら邪魔なのじゃ」


「ハンデハンデ」


「何がハンデなのじゃ――もう、まったく」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る