第325話 大型連休で九尾なのじゃ

「そういや、ゴールデンウィーク。気が付く間もなく過ぎて行ったな」


「のじゃ。お互い連休つなげてばっちり休んだはずなのに、どこにも出かけることもなく、家でごろごろな毎日じゃったのう」


 まぁ、外に出たら出たで疲れるだけだ。

 ここ最近は、プロジェクトが普通のIT企業並みに忙しくて、疲労が蓄積していたからそれを抜くだけで精いっぱいだったというところだろう。残当なゴールデンウィークと言ってしまえばそれまでである。


 しかしまぁ、それにしたって、もうちょっとイベントがあってもよかったなぁ。


「うーん。ほんと、毎日毎日寝てばっかりだったな」


「のじゃ。映画見に出かけたりとか、ご飯食べに出かけたりとか、そういうの一切なかったのじゃ」


「途中一回ハクくんが遊びに来なかったっけ」


「来た来た。けど、二人とも死んだ顔して、今疲れてるからって言ったら、すごすご帰って行ったのじゃ。いやー、アレは悪いことしちゃったのじゃぁ」


 わっはっは。

 暗澹たるゴールデンウィークを思い起こして、俺と加代は笑い飛ばす。


 そして――。


「「ふっざけんな!!」なのじゃ!!」


 同時にぶち切れた。


 なんでだ。

 何故だ、九連休。


 九日も休む時間があったというのに、思い出の一つも作れないとか、どれだけ残念な生活しているんだ俺たちは。


 あり得ない。

 地方済みの中年家族だって、まだもうちょっとイベントのある生活をしている。

 旅行に行ったり、地域の行事に参加したり、親戚の寄り合いに顔を出したり、息子娘が遊びに来たり――そういうのがあるはずだ。


 だというのに、俺たちはどうだ。

 三十歳と三千歳の男女が二人、アパートで暮らしをしていて何もないとか。


 もっと楽しい日常を送ろうよ。

 心ときめく毎日を過ごそうよ。

 今が一番脂がのっていて、人生が一番楽しい時じゃないのか。


 それを、疲れを抜くために毎日寝て過ごすとか――どうかしている。


「いつから俺は、こんなつまらない人間になっちまったんだ」


「のじゃぁ。人生は、楽しむためにあるのじゃ。仕事や用事に忙殺されて、その本分を見失ってしまうとは……九尾一生の不覚!!」


 いや、なんかちょっとおかしなこと言ってたぞ、そこの狐。


 そもそもお前は人間じゃなくて狐じゃないか。

 そして一生も何も不老不死じゃないか。


 いや、今はそんなことはどうでもいい話だな。俺たちが、つまらない毎日を送っていたということ。問題はそこである。


 なんとかしなくては――。


「のじゃ!! 次の、次の連休はいつなのじゃ、桜よ!!」


「次は七月十六日――海の日だ!!」


「よし、その日に合わせて旅行をセッティングするのじゃ!! 今からなら、まだ、一カ月前の予約とかで、なんかいろいろ安くなるはずなのじゃ!!」


「合点承知!!」


 ゴールデンウィークが駄目だったなら、その次の連休で取り返せばよい。

 俺たちは少し早いが、ゴールデンウィークの雪辱を晴らすべく、次の連休の準備を始めたのだった。


 だが、しかし――。


「けど待てよ加代さん」


「のじゃ、どうしたのじゃ桜よ」


「七月だぞ。夏休み前だぞ。結構この時期って繁忙期なんじゃないのか?」


「……のじゃぁ。お盆まで、まだ、一カ月近くあるが、確かにそうかもしれん」


「この七月十六日を休むことによって、目前に控えている夏休みを休めない。なんてことが発生することが一番厄介なんじゃないか?」


「のじゃ、桜よ、しかし言うてお主の会社はホワイト企業」


「最近はそんなこともなくなってきた。いや、残業してない奴は相変わらず残業してないが、俺は普通に仕事をぶちこまれたりしている……つまり!!」


 海の日に確実に休みが取れるとは限らない。

 となると、もし、予約をしてみて、直前に仕事が忙しくなりキャンセルということが起これば、キャンセル料が発生してしまう。


 まずい。それはまずいだろう。

 そんなお金の使い方は流石にもったいない。そして、そんな博打のようなお金の使い方をしていいものではない。


 俺たちは……なんだかんだで貧乏なのだ。


「やはりここは慎重に、もう少し時期を待った方がいいのではないか?」


「のじゃしかし、それではゴールデンウィークの二の舞になる」


「あるいは近場で済ますとか。映画の前売り券を買うというのはどうだ?」


「映画か……それも悪くないがのう」


 問題は見たい映画があるかである。

 七月公開予定の映画を、レビューサイトで確認する――が。


「……ない」


「……ことごとく、見たい映画がない!!」


 俺たちは途方に暮れた。

 暮れて、暮れて、暮れなずんで、そして――。


 に再び到達したのだった。


「やっぱり、連休は家に引きこもって、ゆっくり休んだ方がいいな」


「のじゃ、それがやっぱり一番なのじゃ……」


◇ ◇ ◇ ◇


 ――桜たちはすっかり忘れているが、数か月前。


「……ゴールデンウィークだけど、どっか行くか?」


「のじゃ。大型連休、そのまま休めるとは思えないのじゃ。この浮島のような平日をちゃんと有給取れるか、まずはそこを慎重に吟味する必要があるのじゃ」


「……なるほど。だとして、この平日に旅行を設定するのは避けた方が」


「のじゃ、下手すると休日出勤ということもありうる、過度な期待はいかん」


「むぅ。じゃぁ、せめて、映画でも」


「問題は見たい映画が……」


 ――どこまでいっても社畜根性の抜けない二人なのであった。


 ――どっとはらい。

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